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仕事・スキル 介護士の常識 2023/10/24

介護問題とは?9つの問題と背景を大学教授が解説

文/福田明(松本短期大学介護福祉学科教授) thumbnail.jpg

介護問題とは、介護を受ける高齢者に関する問題、介護を担う家族やサービスを提供する介護職に関する問題など、介護をめぐる社会的な問題のことをいいます。

この記事では、9つの介護問題を取り上げ、統計データを用いながらそれぞれの詳細を解説していきたいと思います。

1.介護問題の社会的背景

近年、介護問題が注目されている背景には、「高齢者の増加」と、それにともなう「要介護者等の増加」があります。

2022年9月時点の65歳以上人口は3,627万人(対前年比6万人増)、高齢化率は29.1%(対前年比0.3%増)となっており、いずれも過去最高の数値です。

また、超高齢社会の到来にともなって、食事や入浴、排泄などに介護を必要とする高齢者も増加しています。例えば、65歳以上の要介護者等は、介護保険制度が施行された2000年4月時点で218万人でしたが、2022年2月末には689万人となり、20年あまりで約3倍以上も増えているのです。

ここからは、こうした社会的背景によって生じている、9つの介護問題について解説していきましょう。

2.介護問題 ①介護人材の不足

要介護者等が増えると、当然、介護人材が必要になります。厚生労働省の調査によると、1947(昭和22)~1949(昭和24)年生まれの団塊の世代が75歳以上となる2025(令和7)年度には約243万人、2040(令和22)年度には約280万人の介護職員が必要になるとされています。

ところが、実際に確保可能な介護職員数は、2025(令和7)年度が約221万人(22万人の不足)、2040(令和22)年度は約215万人(65万人の不足)と予想され、必要とされる介護職員数の確保は非常に困難な状況です。

3.介護問題 ②家族介護の限界状況

65歳以上の人がいる世帯を1986(昭和61)年と2022(令和4)年で比べた場合、三世代世帯は44.8%から7.1%に減少しています。一方、夫婦のみの世帯は18.2%から32.1%、単独世帯は13.1%から31.8%に増加しました。

こうした状況は、要介護者等のいる世帯でも確認できます。

要介護者等のいる世帯を2001(平成13)年と2022(令和4)年で比べた場合、三世代世帯は32.5%から10.9%に減少した一方、夫婦のみの世帯は18.3%から25.0%、単独世帯は15.7%から30.7%に増えました。

つまり、同居する家族の構成員が減少し、家族による介護が困難になってきたにもかかわらず、介護が必要な高齢夫婦世帯や一人暮らし高齢者が増加しているのです。このことは、家族の力だけで身内の介護を担う家族介護が、限界にきていることを示しています。

4.介護問題 ③老老介護

高齢夫婦世帯の増加にともなって増えているのが「老老介護」です。老老介護とは、65歳以上の高齢者が65歳以上の高齢者を介護している状況のことです。要介護者等のいる世帯における老老介護の割合は、2001(平成13)年が40.6%だったのに対し、2022(令和4)年には63.5%に増えています。

老老介護では介護を担う側もすでに高齢であるため、介護疲れが発生しやすくなります。場合によっては、長引く介護で心身ともに疲れ果て、先の見えない不安感から相手を虐待してしまうケースも見られるため注意が必要です。

5.介護問題 ④認認介護

超高齢社会の進展にともなって、認知症の高齢者も増えている状況です。認知症を発症している65歳以上の高齢者は、2012年時点で462万人でしたが、2030年には744万人(有病率が上昇する場合は830万人)に達すると予測されています。

認知症高齢者の増加は、高齢夫婦世帯の増加とあいまって、認知症高齢者が認知症高齢者を介護せざるを得ない「認認介護」を生んでいます。認認介護では、お互いが認知症で判断力・理解力が低下しているため、火の不始末や薬の飲み忘れ、体調不良時の対応の遅れなど、さまざまな事故や問題が起こりかねません。

そのため、認認介護はすでに何かしらの支援が必要な状況といえるでしょう。しかし、本人たちが支援の必要性に気づかない(気づけない)場合があるのも事実です。

6.介護問題 ⑤8050問題

「8050問題」とは、同居している80代の親と、独身で無職の50代の子どもが抱える生活上の問題を指します。

一例を挙げるなら、50代の子どもが引きこもりがちで働いておらず、収入が得られないため、親の年金や貯金に頼って生活しているような場合です。こうした環境では、親に介護が必要となった際も、支出を抑えるために介護サービスの利用を控えたり、介護自体を放棄したりするケースが見られます。

そして、そうした実態は周囲から見えづらいため、社会的に孤立するおそれもあるでしょう。最近では超高齢社会を背景に、90代の親と60代の子どもによる「9060問題」も浮上しています。

7.介護問題 ⑥高齢者虐待

家族などによる高齢者虐待の発生件数は、2021年度で1万6,426件でした。内訳は、身体的虐待が67.3%、暴言や無視などを行う心理的虐待が39.5%、介護などを放棄するネグレクトが19.2%、財産を不当に奪う経済的虐待が14.3%、性的虐待が0.5%という状況です。

また、虐待の要因を見てみると、虐待を受けた高齢者の「認知症の症状」(55.0%)や、虐待を行った家族などの「介護疲れ・介護ストレス」(52.4%)、「精神状態の不安定さ」(48.7%)が上位を占めていました。

つまり、介護を続ける家族などの疲れ果てた心身の状態が虐待につながったとも考えられ、ここにも家族介護の限界が見てとれます。

なお、虐待(あるいは、虐待を受けたと思われる高齢者)を発見した場合、その発見者はすみやかに市町村に通報しなければなりません(高齢者虐待防止法第7条)。

8.介護問題 ⑦介護難民

「介護難民」とは、介護が必要な状態であるにもかかわらず、介護サービスが受けられない人を指します。

例えば、介護が必要な身体状態となって一人暮らしが困難となり、本人が施設入所を希望したとしても、施設のベッドに空きがなければ入所することができません。実際、2022(令和4)年4月時点で特別養護老人ホームの待機者数は27.5万人となっています。

介護難民発生の背景には、要介護者等の増加のほか、介護サービスを提供する施設・事業所数や介護職の不足などが挙げられます。

9.介護問題 ⑧介護離職

「介護離職」とは、家族などの介護を理由に仕事を辞めることです。介護などを理由とする離職者数は2000(平成12)年の3万8000人から2021(令和3)年には9万5,200人に増加しており、年代別では男女ともに「55~59歳」が最多となっています。

介護離職した年齢によっては、再就職が困難になる場合もあります。また、介護する期間が長引けば、体力的な負担が重くなるだけでなく、介護に必要な費用が日々の生活費を圧迫してしまう可能性もあるでしょう。

介護離職を避けるためには、介護サービスを上手に利用するとともに、仕事を続けながら介護休業や介護休暇を取得できる、「育児・介護休業法」の活用を検討することが大事です。

10.介護問題 ⑨社会保障給付費の増加

「社会保障給付費」とは、年金・医療・福祉・介護などに関する制度を通して、国民に給付されるサービスや金銭の総額を示したものです。

2021(令和3)年度の社会保障給付費は138兆7,433億円に上り、過去最高額を更新しました。そして、社会保障給付費は今後も増加すると見込まれており、国の財政を圧迫することが懸念されています。

ただし、介護を含めた社会保障は、人々の生活を支える上で必要不可欠なものであり、社会保障給付費の問題を解消するには難しい判断がともないます。

まとめ:介護問題への対応と今後の課題

現在、介護問題への対応策として、「介護の社会化」が取りざたされています。介護の社会化とは、これまで主に家族が担ってきた介護を社会全体で支えることを意味し、国も推進しています。

それを踏まえるなら、介護問題に直面した(直面しそうになった)際は、市町村や地域包括支援センターに相談する、介護保険制度によるサービスを利用するなど、本人や家族だけで抱え込まないことが重要でしょう。特に主任介護支援専門員、保健師、社会福祉士などが配置されている地域包括支援センターは、介護だけでなく、保健や福祉などの内容も無料で相談できる身近な窓口となっています。

介護の社会化を目指すためには、介護人材の確保・定着に向けた取り組みも欠かせません。具体的には、介護職の給与水準引き上げや研修体制の拡充、働きやすい職場環境の実現、介護に対するイメージの改善などが求められます。

ただし、介護職の給与は、国が定める介護報酬の影響を受けます。それだけに各施設・事業所による経営改善に加え、介護報酬のプラス改定を含めた、国による介護職の賃上げ政策の強化にも期待したいところです。

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福田明(Akira Fukuda)

松本短期大学介護福祉学科教授 博士(社会福祉学)

1977年、長野県生まれ。介護老人保健施設で勤務した後、2006年度から母校である松本短期大学介護福祉学科で教鞭を執り始め、現在に至る。この間、九州保健福祉大学大学院連合社会福祉学研究科社会福祉学専攻博士(後期)課程を修了。主な所持資格は、介護福祉士、社会福祉士、介護支援専門員。

福田明の執筆・監修記事

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