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仕事・スキル 介護士の常識 2024/04/16

2024(令和6)年度介護報酬改定|処遇改善・職場環境の改善など徹底解説!

文/福田明(松本短期大学介護福祉学科教授) thumbnail.jpg

介護報酬は施設・事業所の経営だけでなく、そこで働く介護職員の働き方や給与にも大きな影響を及ぼします。それだけに介護報酬改定については、しっかりと把握しておく必要があるでしょう。

当記事では、介護報酬の意味や支払いの仕組み、求め方、加算・減算について確認したうえで、2024(令和6)年度介護報酬改定について解説します。介護職員の処遇改善や職場環境の改善に関する内容はもちろん、今回の介護報酬改定が現場で働く介護職員に与える影響についても考察していくので、ぜひ最後までご覧ください。

1.介護報酬とは?

介護報酬の意味

訪問介護や通所介護、介護老人福祉施設などで、介護保険サービスを提供するには費用がかかります。そして、施設・事業所としてその費用をまかなえなければ、適切なサービスを継続的に提供することができません。そのため、介護保険制度では施設・事業所がサービスを提供した際に、介護報酬が支払われる仕組みとなっています。

介護報酬とは、施設・事業者が利用者に対して介護保険サービスを提供した場合に、その対価として施設・事業者に支払われる費用(報酬)のことです。介護報酬は施設・事業所を経営する際の原資となるほか、介護職員の給与にも反映されるため、みなさんも無関心ではいられないでしょう。

介護報酬の支払いの仕組み

介護報酬は、次のような流れで施設・事業所に支払われます。

①施設・事業所が利用者にサービスを提供する。
②利用者は、サービスにかかった費用の1割(所得に応じて2割または3割)を自己負担として施設・事業所に支払う。
③施設・事業所は、利用者の自己負担分を除いた費用を保険者である市町村に請求する。
④市町村から残りの9割(利用者によって8割または7割)が、施設・事業所に支給される。


※図は、厚生労働省「介護報酬について」/に基づいて筆者が作成

介護報酬の求め方

介護報酬は、介護保険サービスごとに、厚生労働大臣が定める基準によって算定されます。具体的には、サービスの種類や要介護度などによって定められた単位数に、1単位当たりの費用である単価をかけ合わせることで算出できます。

例えば、単位数が250単位と定められたサービスで、1単位の単価が10円の場合、その介護報酬は以下のようになります。

250(単位)×10円(単価)=2,500円(介護報酬)


介護報酬の加算と減算

介護報酬では、施設・事業所のサービス提供体制や利用者の状況などに応じて、支給される費用がプラスされる場合(加算)と、マイナスになる場合(減算)があります。

例えば、通所介護の場合、利用者が入浴し、その支援を行えば入浴介助加算が適用されます。一方、家族が送迎を行うなどの理由で、事業者が送迎を実施しなかった場合は、その分が減算されます。

2.介護報酬改定とは?

人件費をはじめ、介護保険サービスを提供する際に必要な費用は、その時々の経済状況や物価、政策などの影響を受けます。こうした社会情勢の変化に対応するため、原則として3年に一度のサイクルで行われるのが介護報酬改定です。

介護報酬改定では、介護報酬や既存のサービス内容の見直しだけでなく、新たに必要となるサービスとその単位数、介護職員の処遇改善なども視野に入れて検討が行われます。なお、2000(平成12)年度の介護保険制度施行後は、3年に一度の定期的な改定に加えて、臨時改定も行われています。

3.2024(令和6)年度の介護報酬改定とその改定率は?

2024(令和6)年度介護報酬改定のポイント

2024(令和6)年度の介護報酬改定では、次の4つのポイントを踏まえながら、サービスの内容や単位数などの見直しが行われました。

①地域包括ケアシステムの深化・推進
②自立支援・重度化防止に向けた対応
③良質な介護サービスの確保に向けた働きやすい職場づくり
④制度の安定性・持続可能性の確保

2024(令和6)年度介護報酬の改定率

2024(令和6)年度の介護報酬改定では、介護報酬の改定率が全体として1.59%引き上げられました。プラス1.59%という数字は、これまでの介護報酬改定のなかで3番目に大きい改定率です。このうち0.98%(約6割)が介護職員の処遇改善に充てられていますが、その背景には近年の物価高騰や介護人材の不足があります。つまり、介護職員の給与アップが望まれる状況が、今回の改定率の引き上げにつながったのです。

ちなみに、厚生労働省はこの改定率とは別に、「光熱水費の基準費用額の増額による介護施設の増収効果としてプラス0.45%相当が見込まれる」としており、それも合わせれば、実質2.04%相当のプラス改定になると説明しています。

介護報酬の改定率の推移


※図は、厚生労働省「介護報酬改定の概要」/に基づいて筆者が作成

4.2024(令和6)年度の介護報酬改定のポイントは?

ここでは、さまざまな見直しが図られた2024(令和6)年度介護報酬改定のなかで、特に重要な位置を占める処遇改善加算と、職場環境の改善について解説していきます。

3種類の処遇改善加算を「介護職員等処遇改善加算」に一本化

これまで介護職員の処遇改善加算は「介護職員処遇改善加算」「介護職員等特定処遇改善加算」「介護職員等ベースアップ等支援加算」の3種類6段階計18通りに分かれていました。しかし、それぞれで加算取得要件や賃金配分のルールが異なっていたため、わかりにくく、事務作業も煩雑になりやすい状況でした。

そのため、今回の介護報酬改定では、よりわかりやすく使いやすい仕組みづくりを目指して、3種類の処遇改善加算を「介護職員等処遇改善加算」に一本化し、1種類4段階(区分Ⅰ~Ⅳ)にすることになりました。

「介護職員等処遇改善加算」では、加算によって得られた賃金について、「介護職員への配分を基本」としたうえで、経験・技能のある職員に重点的に配分すること、施設・事業所内での柔軟な配分を認めることが定められています。

加算率は、区分Ⅰ~Ⅳおよびサービス区分の組み合わせによって異なります。例えば、訪問介護の加算率は改定前が最大13.7%でしたが、改定後は区分Ⅰで24.5%に設定されるなど、手厚さが増しています。さらに、いずれの区分も加算額の2分の1以上を月額賃金の改善に充てることを要件としているため、実効性ある賃上げが期待できるでしょう。

ただし、加算を取得するためには、区分Ⅰ~Ⅳの各要件を満たす必要があります。例えば、職場環境の改善や研修の実施等は、すべての区分で課されている要件です。また、最も加算率の高い区分Ⅰでは、区分Ⅱの要件をすべて満たしたうえで、経験・技能のある介護職員を施設・事業所内で一定割合以上配置する必要があります。

処遇改善加算の一本化と新たな加算率


※表は、厚生労働省「令和6年度介護報酬改定における改定事項について」(p107)に基づいて筆者が作成

介護職員等処遇改善加算の取得要件


※表は、厚生労働省「令和6年度介護報酬改定における改定事項について」(p108)に基づいて筆者が作成

生産性向上を通じた働きやすい職場環境の整備と新たな加算の導入

国の総人口が減少するなか、厚生労働省は介護業界が取り組むべき課題として、①人手不足のなかでも介護サービスの質の維持・向上を実現するマネジメントモデルの構築、②ロボット・センサー・ICT(情報通信技術)の活用、③介護業界のイメージ改善と人材の確保を挙げています(「介護現場革新会議 基本方針」2019年3月28日)。

こうした方針を踏まえ、今回の介護報酬改定では、施設・事業所において介護ロボットやICTなどの導入、職員の負担軽減策などを検討する委員会の開催、業務改善の効果を示すデータの提供などを行った場合に、新たに「生産性向上推進体制加算」が取得できるようになりました。

限られた職員数であっても、利用者に適切なサービスを提供できるように、各施設・事業所で生産性向上の取り組みを推進していくことが求められているわけです。

生産性向上推進体制加算の算定要件と加算される単位数


※表は、厚生労働省「令和6年度介護報酬改定における改定事項について」(p111-112)に基づいて筆者が作成

BCP(業務継続計画)が未策定の場合に減算を適用

2021(令和3)年度の介護報酬改定では、各施設・事業所に対して、2024(令和6)年4月1日までにBCP (Business Continuity Plan:業務継続計画)を策定することが義務づけられました。ここでいうBCPとは、感染症や災害が発生した場合でも、サービスが安定的・継続的に利用者に提供されるように、感染症・災害発生時の対応方針や職員体制、対応手順などを示した計画を指します。

これを受けて今回の介護報酬改定では、居宅療養管理指導と特定福祉用具販売を除く全サービスについて、BCPを策定していなければ介護報酬の減算が科せられることになりました。減算幅は訪問介護などの訪問系サービスに比べ、介護老人福祉施設や介護老人保健施設などの施設サービス、有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅などの居住系サービスのほうが、高く設定されています。

ただし、経過措置として、2025(令和7)年3月31日までの期間に限り、感染症の予防・まん延防止の指針や自然災害に関する具体的計画を策定していれば、減算は適用されません。また、訪問系サービスや居宅介護支援に関しては、これらの指針や計画を策定していなくても、2025(令和7)年3月31日までの間は、減算が適用外となります。

とはいえ、新型コロナウイルスなどの感染症の拡大や大地震などの災害は、いつ、どこで発生してもおかしくありません。それだけに施設か居宅かに関係なく、どの施設・事業所もすみやかにBCPを策定し、それに基づく研修や訓練(シミュレーション)を重ねたうえで、危機発生時に備えることが重要です。

BCP未策定の場合に適用される減算


※表は、厚生労働省「令和6年度介護報酬改定における改定事項について」(p48)に基づいて筆者が作成

虐待防止の取り組みが未実施の場合に減算を適用

2021(令和3)年度の介護報酬改定では、施設・事業所を対象に虐待を防止するための委員会の設置や研修の実施などを、2024(令和6)年4月1日までに義務化することが定められました。これを受けて、今回の介護報酬改定では、居宅療養管理指導と特定福祉用具販売を除くすべての施設・事業所において、虐待の発生や再発防止の取り組みが実施されていない場合に減算が適用されます。

2006(平成 18) 年4月には、高齢者虐待防止法が施行されるなど、利用者への虐待防止はすでに施設・事業所の責務となっています。各施設・事業所は単なる減算回避ではなく、利用者一人ひとりの権利を守るという目的意識のもと、虐待防止の取り組みを推進する必要があるでしょう。

虐待防止の取り組みと未実施の場合の減算

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※表は、厚生労働省「令和6年度介護報酬改定における改定事項について」(p49)に基づいて筆者が作成

5.現場で働く介護職員への影響は?

介護が必要な利用者が増えるなか、その人たちの生活支援を担う介護人材をいかに確保するかは、大きな社会課題となっています。そうした背景を踏まえ、2024(令和6)年度の介護報酬改定では、介護職員の給与アップにつながる処遇改善や、介護職員が働きやすい職場環境の整備などの内容が強化されました。

厚生労働省では、「今回の介護報酬改定によって2024(令和6)年度に2.5%、2025(令和7)年度に2.0%の介護職員のベースアップにつながることが見込まれる」との見解を示しています。それが実現するかどうかも含めて、介護職員の給与の推移については注視していく必要がありますが、少なくとも介護職員の給料が上昇していくことは間違いなさそうです。

さらに、ICTの活用による介護業務の効率化や、介護職員の資質向上を図る研修体制の充実などが図れれば、介護報酬の加算が得られるだけでなく、介護職員の働きやすさも実現できます。そうした状況が、離職率の低下につながることも期待できるでしょう。

まとめ

社会全体として介護人材の確保が求められるなか、2024(令和6)年度介護報酬改定では1.59%のプラス改定となりました。そして、そのうちの0.98%が介護職員の処遇改善に充てられています。具体的には、介護職員の給与アップにつながるように処遇改善加算を一本化したうえで、従来よりも高い加算率を設定するなどの改善が図られました。

また、今回の介護報酬改定では、ICTの活用や業務改善などの生産性向上の取り組み、感染症や災害を想定したBCPの策定、虐待防止に向けた研修の実施など、職場環境の改善も重要視されています。そのため、これらの取り組みを実施すれば加算が適用される一方、未実施であれば減算となる場合もあります。

それだけに、各施設・事業所には、処遇改善と職場環境の改善を車の両輪として推進していくことが求められます。その成果は、施設・事業所の健全な経営に加え、介護職員の希望とやりがいにつながることでしょう。

※当記事は2024年3月時点の情報をもとに作成しています

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福田明(Akira Fukuda)

松本短期大学介護福祉学科教授 博士(社会福祉学)

1977年、長野県生まれ。介護老人保健施設で勤務した後、2006年度から母校である松本短期大学介護福祉学科で教鞭を執り始め、現在に至る。この間、九州保健福祉大学大学院連合社会福祉学研究科社会福祉学専攻博士(後期)課程を修了。主な所持資格は、介護福祉士、社会福祉士、介護支援専門員。

福田明の執筆・監修記事

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