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仕事・スキル 介護士の常識 2024/05/29

「トランス」ってどういう意味?介護現場で役立つトランスの基本を解説!

文/中村 楓(介護支援専門員・介護福祉士・介護コラムニスト) thumbnail.jpg

いろいろな専門用語が飛び交う介護現場で、よく聞かれる言葉の一つに「トランス介助」があります。トランスとは移乗動作を表す言葉です。
この記事では、介護現場におけるトランス介助の基本についてお伝えします。トランス介助において大切なことや、基本的な介助方法、介護士がトランス介助を行う際に注意しておきたいポイントについて解説します。

1.介護におけるトランスとは

介助風景

トランスとは、正式にはトランスファーといい、車いすからベッドやトイレ、ベッドから車いすといったように、移乗する動作のことを指します。介護現場では、利用者さんの移乗動作を介助することを「トランス介助」ということが多いでしょう。

トランス介助というと、介助者が力を振り絞って抱えたり、持ち上げたりするイメージを持つ人もいるかもしれません。しかし、トランス介助の基本は、足腰の弱い利用者さんが安全に移乗できるよう、利用者さんのできる動作を生かしながら介助することです。介護現場では、トランス介助を行う場面が多いため、正しい方法で介助することが重要です。

2.トランス介助において大切なこと

寄り添う介護士

トランス介助の基本は、安全かつ迅速に行うこと、利用者さんに不安を与えずに介助することです。そのために、介助者がどのような点に注意すればよいのか、詳しく見ていきましょう。

安全かつ迅速に行う

トランス介助を安全かつ迅速に行うためには、介助者が正しい介助方法を習得している必要があります。初任者研修や実務者研修などで学んだり、職場の先輩に指導してもらったりして、正しいトランス介助を身に付けるようにしましょう。

利用者さんに不安を与えずに介助する

トランス介助を行う際には、利用者さんが精神的、肉体的に痛みや不安を感じないようにしなければなりません。特に、認知症の方の場合、いきなり体を動かされると、驚き混乱してしまいます。トランス介助を行う場合には、一つひとつの動作の前に声掛けをして、利用者さんの不安を軽減しましょう。

3.トランス介助の基本的な方法【全介助の場合】

介助風景

トランス介助は、利用者さんの状態によって「一部介助」「全介助」にわかれます。ここでは一例として、全介助でベッドから車いすへ移乗する際の介助方法とポイントを解説します。

① 車いすをベッドの横に設置し、ブレーキをかけます。ひじ掛けが跳ね上げタイプの場合は、ベッド側のひじ掛けを跳ね上げておきましょう。ベッドは車いすの高さに合わせて調整します。
② ベッドのギャッジアップ機能を活用して、体を起こします。足はベッドサイドに降ろし、靴を履かせます。
③ 介助者は利用者さんの腰に腕を回します。利用者さんには介助者の肩に腕を回してもらいましょう。
④ 介助者は足を肩幅程度に広げ、腰を落とします。利用者さんには頭を少し下げてもらって前傾姿勢をとってもらいましょう。
⑤ 利用者さんに立ち上がってもらい、車いすの方へ腰を移動させてゆっくり座ってもらいます。

4.トランス介助において活用できる道具

車いすと老人

トランス介助に自信がないときには、道具を使う方法もあります。特に、体の大きい利用者さんや、寝たきりで拘縮のある方などの場合には、道具を使うことで、安全にトランス介助が行えるでしょう。
トランスに使われる道具には、スライディングシートやトランスファーボードなどがあります。

スライディングシートは、滑りやすい素材のシートで、主に寝たままの姿勢で車いすやストレッチャーに移動する際に使われることが多い道具です。大きなビニール袋を筒状にして、スライディングシートの代用にしているケースもあります。

トランスファーボードは、ベッドと車いすの橋渡しをする板です。表面が滑りやすくなっているものが多く、大きさは多種多様です。利用者さんの身体状況に合うものを選択し、活用するとよいでしょう。

これらの道具は、利用者さん自身がレンタルしているケースもあれば、事業所でトランス介助用に常備している場合もあります。また、事業所や自宅にあるもので手作りしている場合もあるでしょう。

5.トランス介助を行う際に注意しておきたいこと

介助風景

トランス介助は、一つ間違えば利用者さんの怪我につながります。そのため、トランス介助を行う際には、以下の三つの点に気を付けながら安全に行うようにしましょう。

一つひとつの動作の際に必ず声掛けをしよう

トランス介助を行う際には、一つひとつの動作を行うときに、必ず利用者さんに声掛けをしましょう。自分で動けない人にとって、突然体を動かされることはとても怖いことです。怖がって体が突っ張ってしまうことや、思わぬ動作につながって転倒してしまうこともあります。利用者さんの不安を軽減するために、声掛けは必ず行うようにしましょう。

力任せに行わず利用者さんの能力を活用しよう

トランス介助を行う際には、絶対に力任せに行ってはいけません。特に力のある男性の場合は、つい力任せに持ち上げがちです。力任せに行うと、自分自身の腰を痛めることにもなりますし、利用者さんが痛みを感じることもあります。利用者さんができる部分は自分で行ってもらい、できない部分を介助するという介護の基本を頭に入れて、トランス介助を行うようにしましょう。

ボディメカニクスを活用してトランス介助を安全に行おう

力の弱い人の場合、しっかり体を抱えようとしてズボンを持ってトランス介助を行いがちです。ズボンを持ってしまうと、股にズボンが食い込んで利用者さんが苦痛を感じてしまいます。ここで活用したいのが、ボディメカニクスです。ボディメカニクスを活用すれば、最小限の力でトランス介助が行えます。ボディメカニクスについて、詳しくは後述しますが、体をしっかりと密着させて、テコの原理で立たせるとよいでしょう。持ち上げるというよりは平行移動するイメージで行うと、安全かつ楽にトランス介助が行えるでしょう。

6.トランスとあわせて知っておきたい介護用語

握った手

介護現場には、専門用語や略語がたくさんあります。トランス介助に関する介護用語のうち、よく使われる用語を三つ紹介します。

褥瘡(じょくそう)

褥瘡とは、体の一部分の場所が体重で圧迫されてしまい、血流が悪くなったり滞ったりすることで、皮膚の一部が赤くなったり、ただれたり、傷ができてしまうことをいいます。一般的には、「床ずれ」といわれています。褥瘡は、栄養状態が悪く、皮膚が弱くなっている人や、薬の副作用で免疫力が低くなっている人で、寝たきりや麻痺などがあって自分で体を動かせない人に多く発症します。また、摩擦や擦れなどで同一部位に刺激が繰り返されることも、褥瘡の原因となります。

ADL

ADLとは、日常生活動作のことをいいます。日常生活動作とは、日常生活を送るうえで最低限必要となる動作で、具体的には、次の動作を指します。

  • 起居動作
  • 移乗
  • 移動
  • 食事
  • 行為
  • 排泄
  • 入浴
  • 整容

ADLは、利用者さんの身体能力や日常生活レベルを図るための重要な指標として用いられています。

ボディメカニクス

ボディメカニクスとは、介助者が最小限の量力を持って行う移乗や移動の介護技術です。ボディメカニクスでは、以下の九つのポイントを押さえて行うことで、トランス介助がやりやすくなるといわれています。

① 介助者の支持基底面を広くする
② 介助者の重心を広くする
③ 介助者と利用者さんの体をできる限り近づける
④ テコの原理を活用する
⑤ 大きな筋群を使う
⑥ 介助者は体をねじらない
⑦ 水平に移動する
⑧ 利用者さんの体をコンパクトにまとめる
⑨ ベクトルの法則を用いる

まとめ:トランス介助の基本をマスターして介護職としてスキルアップしよう

トランス介助は、介護現場では欠かせない介護技術の一つです。毎日何度も行うことが多く、利用者さんの安全に大きくかかわるものですので、しっかりと基本を身に付けるようにしましょう。

トランス介助の方法は、現場で直接指導されるだけでなく、事業所内で研修や勉強会を設けているところもあります。外部研修でもよく取り上げられるテーマでもあるので、しっかり基本から学びたい人は研修を活用するのもよいでしょう。介護職としてスキルアップするためにも、トランス介助の基本はしっかりとマスターしておきましょう。

●関連記事:【作業療法士監修】移乗介助の正しい方法―コツや注意点も

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中村楓(Kaede Nakamura)

介護福祉士・介護コラムニスト

現役介護支援専門員。介護福祉士、福祉住環境コーディネーター2級、認知症介護実践者研修の資格を持つ。病院や通所リハビリ、デイサービスで介護福祉士として働き、生活相談員や介護認定調査員の経験も持つ。「介護の未来を明るくする」をモットーに、現場感ある記事を書く介護コラムニストとしても活動中。

中村楓の執筆・監修記事

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