介護タクシーとは? 福祉タクシーとの違いや利用条件・料金などを解説
文/鈴木康峻(理学療法士)
みなさんは、「介護タクシー」をご存じでしょうか。介護タクシーは「介護を必要とする方が外出する際に利用できる移動サービス」のことですが、実は名称や基準が法令で定められているわけではありません。そのため「どのようなサービスなのか」や、「福祉タクシーとはどう違うのか」「どのように利用するのか」などの詳細について、きちんと理解している方は、意外に少ないのではないでしょうか。
そこでこの記事では、介護タクシーの概要や福祉タクシーとの違い、対象者や料金、利用手順などについて詳しく紹介します。ぜひ最後までご覧ください。
1.介護タクシーとは
介護タクシーとは、介護を必要とし、外出が困難になっている方が利用できるタクシーのことをいいます。通常のタクシーと異なるのは、介護関連の資格を持っている乗務員が対応してくれる点です。
つまり、介護のプロが専用の車両で安全に移送してくれるため、1人での外出が不安な方にとって貴重な移動手段となっているのです。
以下では、介護タクシーが提供するサービス内容や、車両の特徴などについて解説します。
通院等の介助に利用される
介護タクシーは、介護保険の訪問介護サービスで提供する「通院等乗降介助」として扱われます。
具体的には、乗務員が次のサービスを提供します。
- 目的地までの運転
- 車に乗り降りする際の介助
- 着替え、車いすへの移乗、移動などの介助
- 窓口での受付、支払い、薬の受取など
上記の項目からわかるとおり、介護タクシーで受けられるサービスは、車への乗り降りや目的地までの運転に限りません。外出の準備や車いすでの移動、受診の手続きなどもサポートしてもらえるため、通院に伴う身体的・精神的負担の軽減につながるでしょう。
車両は乗り降りしやすい設備になっている
介護タクシーで使用する車両は、「福祉車両」と呼ばれています。車いすやストレッチャーを使う方でも安全に乗り降りできるように、次のような設備があります。
- スロープやリフト
- 固定用のベルトやフック
- 昇降や回転などができるシート
事業者によっては、酸素吸入器や痰の吸引器といった機器も備えており、医療依存度が高い方でも利用できる場合があります。
2.介護タクシーと福祉タクシーの違い
介護タクシーと似たサービスに、福祉タクシーがあります。一般的に、介護タクシーと福祉タクシーは以下のように分類されています。
- 介護保険サービスで利用するタクシー:介護タクシー(通院等乗降介助)
- 介護保険外サービスで利用するタクシー:福祉タクシー
ほかの要点についても表にまとめましたので、ご確認ください。
介護タクシー | 福祉タクシー | |
保険適用の有無 | 介護保険の適用 | 保険適用外 |
利用目的 | 利用者の日常生活上・社会生活上必要な行為に伴う外出 | 趣味やレジャー、イベントなど ※介護タクシーと同様の目的でも利用可能 |
乗務員の資格 | 普通自動車第二種運転免許(二種免許)と介護関連の資格 | 二種免許 |
同乗者の可否 | 同乗不可 | 同乗可 |
ここからは、それぞれの違いを理解できるように、項目ごとの内容を解説していきます。
保険適用
介護タクシーのサービスは介護保険が適用となり、訪問介護の「通院等乗降介助」としてサービスが提供されます。そのため、利用するにあたっては、介護保険のケアプランに基づく利用届け出などが必要になります。
福祉タクシーの場合は、介護保険の適用外となりますが、事業者ごとに提供される独自のサービスを利用することが可能です。介護保険などの手続きが不要なので、依頼したい事業所を見つけて予約すれば、比較的早く利用できます。
利用目的
介護タクシーの主な利用目的は、以下のとおりです。
- 通院
- 入院や退院
- 選挙での投票
- 役所での手続き
- 金銭の出し入れ
- 補聴器や眼鏡などの購入
介護タクシーの場合、目的が「日常生活上または社会生活上必要な行為に伴う外出」に限られるため、趣味やレジャーなどの利用には対応できません。
次に、福祉タクシーの利用目的を見てみます。
- 外食
- 旅行
- ドライブ
- 冠婚葬祭
- ショッピング
以上のように福祉タクシーのほうが自由度は高く、さまざまな目的で利用できます。趣味や余暇活動、イベントなど、個々のニーズに対応しやすいのが大きな特徴といえるでしょう。
乗務員の資格
介護タクシーでは、乗務員が車の運転と介助の両方を行います。そのため乗務員は「運転に関する資格」と「介護に関する資格」の2つが必要です。
- 運転に関する資格:二種免許
- 介護に関する資格:介護職員初任者研修、介護福祉士実務者研修、介護福祉士など
福祉タクシーの場合も運転には二種免許が必要ですが、介護の資格は不要です。そのため、介助を求められたとしても、乗務員は対応することができません。利用者に介助が必要な場合は、介護の資格を持ったスタッフに対応してもらうか、家族が手伝う必要があります。
同乗者の可否
介護タクシーの場合、家族は一緒に乗れません。その理由は、以下のとおりです。
- 乗降介助という本来の目的に合わない可能性があるから
- 家族が同乗できるなら、一般のタクシーと変わらないから
- 家族が同乗できるなら、介護タクシーを利用しなくてもよいとみなされるから
介護タクシーのサービスは、通院などに介助を要することが前提となるため、同乗は基本的にできないと覚えておきましょう。
ただし、次のようなケースでは、同乗が認められることもあります。
- 痰の吸引が必要な場合
- 認知症・精神疾患・失語症などにより、家族がいないと病状を正確に伝えられない場合
- 認知症や精神疾患により、家族がいないと精神的に不安定となり、安全に移送できない場合
判断がつきにくいときは、管轄の自治体に確認するのがよいでしょう。
一方の福祉タクシーは、家族も一緒に乗れます。その理由は、乗務員の保有資格が二種免許のみであり、家族が同乗しないと介助ができないからです。
ただし、事業者によっては、介護関連の資格を持った乗務員が在籍している場合もあるため、必ずしも家族の同乗が求められるわけではありません。
●関連記事:福祉タクシーとは?利用条件や料金を紹介!介護タクシーとの違いも
3.介護タクシーの利用対象者・利用条件
介護タクシーは、訪問介護の「通院等乗降介助」にあたるため、利用者は介護保険サービスの利用対象者でなければなりません。ただし、利用できるのは要介護度が1以上の方で、要支援の方は利用できないことを押さえておきましょう。
また、訪問介護は介護保険サービスのなかの「居宅サービス」に位置づけられています。そのため、特別養護老人ホームや介護老人保健施設などの施設に入所している方は利用できません。対象となるのは、自宅や有料老人ホーム、サービス付き高齢者向け住宅などに住んでいる方です。
4.介護タクシーの料金
介護タクシーにかかる料金は、以下の3種類です。
- タクシーの運賃
- 介助にかかる料金
- 介護機器のレンタル料金
介護保険が適用されるのは介助にかかる料金のみで、運賃と福祉用具のレンタル料金は全額自己負担になります。では、それぞれの項目について詳しく見ていきましょう。
タクシーの運賃
タクシーの運賃は、事業者によって以下3種類の形態が採用されています。
- 時間制運賃:時間に応じた運賃(例:30分ごとに2,000円など)
- 距離制運賃:走行距離に応じた運賃(例:初乗り2kmで800円、以降250mごとに90円など)
- 時間距離併用制運賃:時間と走行距離に応じた運賃(例:時速10km以下の場合、95秒ごとに100円など)
なお、介護保険が適用となる場合、運賃を上記の半額ほどで設定している事業者もあります。
介助にかかる料金
介助にかかる料金とは、通院等乗降介助にかかる費用のことであり、介護報酬上は片道97単位です。つまり、介護保険の負担割合が1割の方は、片道で約100円、往復で約200円かかります。
介護保険が適用されない福祉タクシーの場合は、介助にかかる料金が全額自己負担です。また、提供するサービスの内容や料金は事業所によって異なります。
介護機器のレンタル料金
介護機器のレンタル料金は、使用した機器によって異なります。以下に料金の一例を紹介しておきますので、参考としてご覧ください。
- 車いす:無料~1,400円
- リクライニング車いす:1,000~2,000円
- ストレッチャー:1,000~6,000円
- 担架:500~5,000円
- 酸素吸入器:3,000円~
介護機器は、自宅で使っているものを持ち込むことも可能です。
介護タクシーを利用するまでの流れ
介護タクシーを利用するまでの流れは、以下のとおりです。
【手順1】要介護認定を受ける
【手順2】ケアプランを作成する
【手順3】介護タクシー事業者を選定し契約する
【手順4】介護タクシーを利用する
ここからは、それぞれの手順の詳細を解説します。
【手順1】要介護認定を受ける
通院等乗降介助を利用するためには、介護保険の申請をして、要介護認定を受ける必要があります。要介護認定の流れは、次のとおりです。
(1)住所地のある市区町村の窓口、もしくは地域包括支援センターに介護認定の申請をする
(2)市区町村の職員による認定調査を受ける
(3)かかりつけ医に主治医意見書を記載してもらう
(4)認定調査と主治医意見書をもとに、コンピュータによる一次判定を行う
(5)一次判定結果と主治医意見書をもとに、介護認定審査会による二次判定を行う
(6)市区町村による要介護の決定がなされる
申請するにあたっては、以下の書類が必要です。
- 要介護・要支援認定の申請書
- 介護保険被保険者証(第1号被保険者:65歳以上の方)
- 健康保険証(第2号被保険者:40~64歳の方)
- 印鑑や委任状(本人以外が申請する場合)
- マイナンバーカードもしくは通知書(個人番号が確認できるもの)
- 申請者の身元確認書類(免許証、障がい者手帳など)
- 主治医の情報がわかる書類(診察券など)
要介護認定の結果、要支援や非該当になった場合は、通院等乗降介助が利用できません。その場合は、自己負担で福祉タクシーのサービスを利用することになります。
【手順2】ケアプランを作成する
介護タクシーの利用を希望する利用者は、担当のケアマネジャーがケアプランを作成するタイミングで、通院等乗降介助の利用希望を伝える必要があります。
なお、ケアプランには介護タクシーを利用する理由、目的地、利用日時、必要な介助内容などが記載されます。
【手順3】介護タクシー事業者を選定し契約する
ケアプランが作成できたら、事業者を選定します。事業者の選定にあたっては、以下の点を確認しておくとよいでしょう。
- ・料金はどの程度か
- スタッフの人柄はよいか
- 取り扱っている福祉用具や医療機器には何があるか
- 介護や運転に関して高い技術を持っているスタッフがどの程度いるか
事業者が決まったら担当者に訪問してもらい、契約となります。
【手順4】介護タクシーを利用する
事業者との契約を終えたら、介護タクシーが利用できます。サービスは、基本的にケアプランの内容に沿って提供されますが、身体の状態によっては介助の内容や通院先が変わる場合もあります。
まとめ
介護タクシーは、要介護状態の方の外出をサポートする移送サービスです。介護タクシーの乗務員は介護関連の資格を持っているため、訪問介護の通院等乗降介助として、通院に必要な介護サービスを受けることができます。
一方、福祉タクシーは、介護保険外のサービスとなるため料金が高くなりますが、さまざまなニーズに対応できるのが特徴です。
この記事で介護タクシーについての理解を深めて、日々の活動にお役立てください。
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