利用者さんの「やりたい」をサポートするうえでの工夫は?自発的な活動を支援するデイサービス「デイサービスSoda」に注目|気になるあの介護施設
取材・文/タケウチノゾミ 編集/イージーゴー
岡山県総社市にある「デイサービスSoda」は、利用者さんがやりたいことに取り組めるデイサービスです。事前に決められたプログラムはなく、利用者さんは来所後、料理や手芸、散歩などの自分が好きなことに取り組みます。Soda代表の土井脩平氏に、設立の背景やサービス提供時に注意していることなどについて聞いてみました。
ーー「やりたいことに取り組めるデイサービス」を設立しようと思ったきっかけを教えてください。
画一的なレクリエーションに馴染めない方々に、「"心も体も元気になれるサービス"を提供する施設を作りたい」と思ったことがきっかけです。私はもともと岡山県出身で、大学卒業後に地元の岡山に戻り、理学療法士として病院やデイケアで働いていました。そこで感じたのは、レクリエーションに馴染めない利用者さんがいたことです。どうにかしたいという思いはありましたが、当時の自分には何もできず、もどかしさを感じていました。そんな時に、高齢者や障がい者に向けた旅行サービスを提供する介護事業所が愛知県にあることを知り、興味を持ちます。実際に見学させていただくと、利用者さんが非常に活き活きとした姿で活動しており、これは素晴らしいサービスだと強く感じました。そこで、「自分も理想的なデイサービスを立ち上げたい」との想いから、同事業所に転職。経営のノウハウなども学びながら、3年間働きました。そして2024年の春に岡山に戻り、8月に「デイサービスSoda」のオープンに至りました。
ーー利用者さんそれぞれの「やりたいこと」をサポートするのは容易ではなさそうですが、どのように対応しているのでしょうか。施設利用の流れを教えてください。
流れには大きく2通りあります。1つは、すでに利用者さんご自身のやりたいことが明確になっており、ご家族や担当ケアマネジャーから「〇〇をやりたいと言っているのですが、できますか?」と問い合わせを受けるパターンです。こちらの場合では、将棋や散歩など、その方のやりたいことに沿った活動ができるように準備を進めます。
もう1つは、意欲低下が見られるようになったことをきっかけに、「Sodaであれば前向きに取り組めるものが見つかるのではないか」とご家族や担当ケアマネジャーから問い合わせを受ける場合です。前者と後者であれば、後者の場合が多いですね。この場合では、その方の得意なことや好きなことをヒアリングしつつ、こちらから取り組むことをご提案するようにしています。また、当施設では常に複数のアクティビティが同時進行しているため、他の利用者さんの活動を見て、やりたいことを決めていただく場合もあります。例えば、4人の利用者さんがそれぞれ料理・体操・散歩・読書に取り組んでいて、新しい利用者さんが料理に興味を持った場合は、一緒に料理をするといったイメージです。その結果、今までご自身やご家族も把握していなかった「好きなこと」や「得意なこと」が見つかり、次回以降の活動に繋がることもあります。

もともと折材店として使われていた物件をリノベーションし、デイサービスに
ーー利用者さんのヒアリングをする際に意識していることはありますか。
どちらの場合でも、利用者さんのお話をしっかりと聞くことを大切にしています。また、担当者会議の前に一度ご自宅に伺うことで、生活のご様子や好きなことを確認するようにもしています。担当者会議は時間が限られており、必要最低限の話だけで終わってしまうことがほとんどです。そのため、事前にご自宅を訪問し、ご本人について少しでも多くの情報を集めることを心がけています。実際に利用予定者の方のご自宅を訪れると、その方が作ったものや大切にしているものが飾られていることが多く、そこから「心が動く瞬間」に関するヒントを得られるのです。例えば、ご自宅に飾られていた表彰状から、かつて会社で役職を任されていたことが分かったとします。そこから、他の人に指導することが得意なのではないかと推測。利用開始後は、ご自身の得意なことを他の方に教えてもらうなど、その方の強みを活かせるように工夫しています。こうした、ご自宅で得た情報はスタッフ全員に共有し、その方が強みを発揮できるよう心がけています。

書き初めなど季節感のある活動を行うことも
ーーその他に、様々な「やりたいこと」に取り組んでいただくうえでの工夫があれば教えてください。
受け身の介護サービスを提供しないことです。当施設では利用者さんが主体的に行動することを重視しているため、スタッフが一人の利用者さんの活動に付きっきりになることはありません。たとえ利用者さん自身が「やりたいこと」を明確に把握できていなくても、スタッフは基本的に提案をするだけにとどめ、その活動に取り組むかどうかはご本人に決めていただいています。また、活動を開始した後も、ご自分で作業を進められるようであれば、できるだけ利用者さん自身にお任せする様にしています。スタッフは基本的に、お一人おひとりの作業をサポートするのではなく、常に全体を見渡しながら、困っている方はいないか、危険がないかなどのリスク管理に徹しているんです。
例えば、お昼ご飯を作る際も「この野菜を切ってください」「次はこのお皿を洗ってください」などと細かく指示を出すことはありません。「今日はこのメニューを7人分作ります。手順やレシピはこの通りです」と説明したうえで、簡単に役割分担をするだけで、皆さんスムーズに作業を進めることができています。もちろん、認知症の方が味付けをしたかどうかを忘れてしまったり、まだ火が通っていないお肉をフライパンから出そうとしたりすることもありますが、一歩引いた位置からスタッフが全体を見守り、必要に応じてフォローをしています。このような主体性を重視した活動は、多少怪我のリスクが付き物ですが、ご家族からは「本人の好きなことをさせてあげてください」というお言葉をいただくことが多く、ご理解を得られていると感じています。
ーー今後の展望をお聞かせください。
今後も地域に開かれた介護事業所を目指し続けたいと考えています。理想は、デイサービスをはじめとした介護事業所が、飲食店や美容院のように、もっと分かりやすく身近な存在として地域に根付くことです。そのためには、介護事業所側からアプローチをしていく必要があると考えています。当施設のような施設を増やし、「介護や福祉をなんとなく知るきっかけとなる場所」を地域のあちこちに点在させることで、誰もが自然と介護を身近に感じられる環境を生み出したいです。また、今後は介護事業所主体ではなく、利用者さんの意思や思いを尊重したサービス・ケアが介護業界のスタンダードになって欲しいとも考えています。その実現に向けて、今後も積極的な発信を続けることで、より多くの方に当施設の取り組みを知っていただければうれしいです。
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