喀痰吸引には資格が必要?研修の内容や受講するメリット
構成・文/介護のみらいラボ編集部
喀痰(かくたん)吸引は、介護現場において需要が高い処置です。しかし、医療ケアに当たるサービスのため、医療資格を持たない通常の介護職員が実施することはできません。介護職員が喀痰吸引を行うには、喀痰吸引や経管栄養法の専門的な知識を学び、技術を身に付ける「喀痰吸引等研修」を修了する必要があります。
この記事では、喀痰吸引の概要と喀痰吸引等研修の詳細を解説します。喀痰吸引等研修の資格を取得するメリットも紹介するため、介護現場でキャリアアップを考えている方はご一読ください。
1.喀痰吸引を行うには資格が必要?
「喀痰吸引」とは、吸引装置を使用して口腔内や鼻腔内、気管カニューレ内部に溜まった痰や唾液、鼻汁などを取り除く行為のこと。自力で吐き出せない利用者さんの痰、唾液、鼻汁などを除去することで呼吸をしやすくし、窒息や誤嚥を防ぎます。喀痰吸引には、チューブやカテーテルを使用して、胃や腸に直接栄養を注入する「経管栄養」も含まれているため、両方を合わせて「喀痰吸引等」と呼ぶのが一般的です。
喀痰吸引は医療行為に当たるため、本来は医師や看護師でなければ行うことができません。しかし、社会福祉士及び介護福祉士法が改正されたことにより、2012年4月1日以降は、介護職員であっても「喀痰吸引等研修」を修了し、「認定特定行為業務従事者」として認定されれば、喀痰吸引が実施可能となりました。
また、認定特定行為業務従事者が所属する事業所は、「登録喀痰吸引等事業者」もしくは「登録特定行為事業者」として都道府県に登録を受けた上で、利用者さんに喀痰吸引等を実施することが可能となります。
ただし、介護職員による喀痰吸引および経管栄養の実施は、医療関係者と連携した上で安全を確保されていることが前提であり、自己判断で勝手に行うことは許されません。加えて、利用者さんやそのご家族に喀痰吸引の必要性を説明し、同意を得る必要もあります。
(出典:厚生労働省「喀痰吸引等制度について」)
(出典:厚生労働省「喀痰吸引等の制度について」)
(出典:厚生労働省「喀痰吸引等制度論」)
2.喀痰吸引等研修とは
喀痰吸引等研修とは、喀痰吸引や経管栄養を行える介護職員を養成するための研修です。
チューブやカテーテルを使用して痰や唾液、鼻汁を排出したり、栄養剤を注入したりするのは医療行為に当たります。そのため、医療資格を持たない介護職員が実施することはできませんでした。しかし、現在は医師や看護師の指示・監督のもと、喀痰吸引等研修を修了した介護職員が、喀痰吸引や経管栄養を実施することが可能となっています。
介護現場では、喀痰吸引や経管栄養の処置を必要とする利用者さんが増えています。今後も需要の増加が見込まれるため、喀痰吸引等研修修了者が現場から必要とされる機会はますます増えていくでしょう。
以下では、喀痰吸引等研修の詳細を解説します。
3.喀痰吸引等研修の内容
喀痰吸引等研修は、「基本研修+実地研修」の2段階で構成されています。研修内容は、行っても良い処置と、処置を行う対象者によって「第1号研修」「第2号研修」「第3号研修」の3種類に分けられているため、業務に必要な研修を選んで受講すると良いでしょう。
第1号研修
第1号研修は下記の行為を行えるようになるための研修です。なお、対象は不特定多数の利用者さんとなります。
● 口腔内・鼻腔内の喀痰吸引
● 気管カニューレ内部の喀痰吸引
● 胃ろう・腸ろうによる経管栄養
● 経鼻経管栄養
第1号研修の基本研修では、合計50時間の講義を受けた後、筆記試験に合格しなければなりません。また、シミュレーターを使った演習を受け、十分な技量が身に付いたことが評価されてから実地研修に移ります。
下記は、第1号研修で学習する科目および受講時間・研修の実施回数です。
科目又は行為 | 時間数又は回数 | ||
---|---|---|---|
1 基本研修 | ①講義 | 人間と社会 | 1.5時間 |
保健医療制度とチーム医療 | 2時間 | ||
安全な療養生活 | 4時間 | ||
清潔保持と感染予防 | 2.5時間 | ||
健康状態の把握 | 3時間 | ||
高齢者及び障害児・者の喀痰吸引概論 | 11時間 | ||
高齢者及び障害児・者の喀痰吸引実施手順解説 | 8時間 | ||
高齢者及び障害児・者の経管栄養概論 | 10時間 | ||
高齢者及び障害児・者の経管栄養実施手順解説 | 8時間 | ||
②演習 | 口腔内の喀痰吸引 | 5回以上 | |
鼻腔内の喀痰吸引 | 5回以上 | ||
気管カニューレ内部の喀痰吸引 | 5回以上 | ||
胃ろうまたは腸ろうによる経管栄養 | 5回以上 | ||
経鼻経管栄養 | 5回以上 | ||
救急蘇生法 | 1回以上 | ||
2 実地研修 | 口腔内の喀痰吸引 | 10回以上 | |
鼻腔内の喀痰吸引 | 20回以上 | ||
気管カニューレ内部の喀痰吸引 | 20回以上 | ||
胃ろうまたは腸ろうによる経管栄養 | 20回以上 | ||
経鼻経管栄養 | 20回以上 |
(引用:厚生労働省「喀痰吸引等制度論」_引用日2022/05/28)
第2号研修
第2号研修は下記の行為を行えるようになるための研修です。対象は、第1号研修と同じく不特定多数の利用者さんとなります。
● 口腔内・鼻腔内の喀痰吸引
● 胃ろう・腸ろうによる経管栄養
第2号研修のカリキュラム項目は第1号研修とほぼ同じですが、実地研修において下記の2科目が省かれます。
● 気管カニューレ内部の喀痰吸引
● 経鼻経管栄養
そのため、この研修を修了しても、気管カニューレ内部の喀痰吸引および経鼻経管栄養を実施することはできません。
第3号研修
第3号研修は、特定の対象者に処置を行うことを前提とした研修です。第1号研修・第2号研修とはカリキュラムが異なり、必要な科目および行為のみを重点的に学習します。
そのため、講義と演習を合計しても9時間(重度訪問介護従事者養成研修と同時の場合は20.5時間)と短めです。また、実地研修でも対象者に必要な行為しか履修しません。ただし、実地研修の回数が定められている第1号研修・第2号研修とは異なり、第3号研修では、医師などから十分な技能が身に付いたと評価される必要があります。
科目又は行為 | 時間数又は回数 | ||
---|---|---|---|
1 基本研修 | ①講義 | 重度障害児・者の地域生活等に関する講義 | 2時間 |
喀痰吸引等を必要とする重度障害児・者等の障害及び支援に関する講義 | 6時間 | ||
緊急時の対応及び危険防止に関する講義 | |||
②演習 | 喀痰吸引等に関する演習 | 1時間 | |
2 実地研修 | 口腔内の喀痰吸引 | 医師等の評価において、受講者が習得すべき知識及び技能を修得したと認められるまで実施 | |
鼻腔内の喀痰吸引 | |||
気管カニューレ内部の喀痰吸引 | |||
胃ろうまたは腸ろうによる経管栄養 | |||
経鼻経管栄養 |
(引用:厚生労働省「喀痰吸引等制度論」_引用日2022/05/28)
各研修の修了後、各都道府県から「認定特定行為業務従事者認定証」を交付されることで、研修機関の処置を行えるようになります。
(出典:厚生労働省「喀痰吸引等の制度について」)
(出典:厚生労働省「喀痰吸引等制度論」)
4.喀痰吸引等研修の受講資格・受講方法・受講費用
喀痰吸引等研修の受講資格や受講方法は下記の通りです。
受講資格 | 特に制限なし |
---|---|
受講方法 | 都道府県に登録済みの研修機関で受講する |
喀痰吸引等研修を受講するために必須の資格、要件はありません。実務者研修などの医療的ケアを修了していれば、一部科目の履修が免除されます。
受講費用の相場は、履修科目の多い1号研修のほうが高めに設定されている傾向にあります。ただし、研修機関によって費用の設定が異なるため、複数のスクールを比較して選ぶのが良いでしょう。また、国や自治体からの助成金・補助金が利用できたり、早期申し込み割引きが受けられたりすることもあるため、事前の情報収集が大切です。
5.喀痰吸引等研修の合格率・難易度
喀痰吸引等研修の合格率は公表されていませんが、筆記試験の正答率は90%以上と、厳しい基準が設けられています。
とはいえ、各講座では専門的な技術を身に付けるために、基礎から実地までをしっかりと学習します。講義内容を理解できるまで十分に復習しておけば、難易度はそこまで高く感じないでしょう。不合格者に対して再試験を実施するスクールも多いため、不安な場合は追試ありの研修を選ぶと安心です。
6.喀痰吸引等研修を修了するメリット3つ
喀痰吸引等研修は、介護現場における需要が高い研修です。ここでは、喀痰吸引等研修を修了した方が得られるメリットを3つ紹介します。資格を取得するべきか迷っている方は、判断材料の一つにしてください。
実践的な技術が学べる
喀痰吸引等研修では、介護現場で実際に使用される機材や人体模型を使用した演習で、実践的な技術を身に付けます。また、看護師などから指導を受ける実地研修はスムーズに処置できるようになるまで合格できません。研修を修了するまでには十分な知識と技術が身に付くため、資格取得後はすぐに現場で処置を行うことができます。
採用されやすくなる
介護施設を担当する医師や看護師の数は、十分に確保できていないのが現状です。一方で、喀痰吸引や経管栄養を必要とする利用者さんは増加傾向にあります。そのため、医師や看護師に代わって喀痰吸引や経管栄養を提供できる介護士は、さらに需要が高まると予想されます。喀痰吸引等研修の資格取得は、就職や転職の場でも役に立つでしょう。
介護の現場でキャリアアップにつながる
喀痰吸引等研修の資格を取得し医療ケアが行えるようになることで、介護士として担当できる仕事の幅が広がります。また、さまざまな仕事ができることで、昇進や昇給につながりやすくなることも考えられます。職場によって金額に差はあるものの、実際に資格手当が支給されるところも少なくありません。
まとめ
喀痰吸引等研修を修了すると、医師や看護師でなくても喀痰吸引や経管栄養の処置ができるようになります。合格ラインは「正答率90%以上」となっているものの、受講内容をきちんと理解できていれば、難易度自体はさほど高くありません。
認定証の交付を受けると担当できる仕事内容が増えたり、キャリアアップにつながったりするため、興味のある方は取得を目指してみると良いでしょう。「介護のみらいラボ」では、喀痰吸引等研修以外にも介護職員のキャリアアップにつながる資格やスキルを紹介しているため、ぜひ参考にしてください。
※当記事は2022年6月時点の情報をもとに作成しています
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