Produce by マイナビ介護職 マイナビ介護職

介護の未来ラボ -根を張って未来へ伸びる-

仕事・スキル 介護職のスキルアップ 2025/03/18

#認知症ケアの現場から

車いす座位の崩れはどうすれば整うの?プロが教える3つのポイント|認知症ケアの現場から(27)

文・写真/安藤祐介 care27_thumbnail.jpg

利用者さんの中には、座位が左右に傾いていたり、座面からずり落ちそうになっていたり、頭が反るように後ろに突っ張っていたりと、座位が崩れやすい方がいると思います。

医療・福祉・介護現場では、姿勢を整えることを「ポジショニング」と言い、車いすやいすの座位を整えることを「シーティング」と呼びます。

本記事では、老健で働く現役OTが、シーティングを行う上で必ず押さえておきたい重要ポイントを3つ紹介します。3つのポイントを知っているかどうかで、座位の整い方が格段に変わるため、ぜひ参考にしてください。

1.座位を整えることはなぜ大切なの?

座位を整えることは、ときに食事・排泄・入浴といった日常的な介護を行うこと以上に大切です。なぜなら、"座位"は日常生活に欠かせないものであり、介護の質に大きくかかわるものだからです。

座位は人の姿勢の1つであり、立ったり歩いたりするのが難しい利用者さんは、寝ている時間以外を車いすやいすに座って過ごします。例えば、日中に2時間、夜間に8時間、計10時間寝る利用者さんがいたとして、単純計算で24時間-10時間=14時間座っていることになります。あらためて現場を振り返ってみると、とても長い時間、座って過ごす利用者さんがいると気付くのではないでしょうか。だからこそ、座位が崩れると、食事や歯磨き、テレビ鑑賞、机上の活動、日常会話など、生活上の多くの場面に支障が出るのです。

さらに、座ることが難しくなった利用者さんは、最終的にほとんどの時間をベッド上で過ごすことになり、いわゆる"寝たきり"と言われる状態に近付いていきます。つまり、座位を整えることは、利用者さんが快適な日常生活を送るための基盤を作ることであり、それを日々支える職員の介護を楽にすることにもつながっているのです。

■座位が崩れている3つの例

左右への傾き

左右への傾き

ずっこけ座り(仙骨座り)

ずっこけ座り(仙骨座り)

後方への突っ張り

後方への突っ張り

2.車いす座位の崩れを整える3つのポイント

ポイント1:動きやすい座位を目指す

シーティングは利用者さんの座位を整えるために行いますが、ゴールとなる"良い座位"とは具体的にどのような状態を指すのでしょうか? 見た目で言えば、体が傾いていないこと、両足が床に着いていること、顔がまっすぐ前を向いていることなどが挙げられるかもしれません。また、生活の視点で言えば、食事しやすいこと、自操しやすいこと、褥瘡ができないことなどが挙げられるでしょう。

何が良い座位なのかは、職種の専門性や学問的な理論によっても違いますが、すべての利用者さんに共通した良い座位のポイントと言えるものが1つあります。それは、「動きやすいこと」です。

例えば、背筋を伸ばした状態で、1分間まったく動かずに座ってみてください。頭や手足の位置を変えず、お尻や背中をモゾモゾさせず、じっと静かに座り続けます。果たして、どう感じるでしょうか? おそらく多くの人が「つらい」「疲れる」「大変」など、快適とは言えない感覚を抱くと思います。

参考画像

次は、動きたくなったら自由に動きながら、1分間座ってみてください。周囲を見回すのも、伸びをするのも、お尻の位置を調整するのも自由です。先ほどと比べて、どうでしょうか? おそらく多くの人が、動けなかったときよりもかなり快適に感じたと思います。

つまり、背筋が伸びた見た目の良い座位だったとしても、動けない状態が続くのは短時間であってもつらいのです。

参考画像

車いすやいすに長時間座る利用者さんにとって、動きたいときに動けることは必要不可欠です。私たちも電車やバスで座っているときは、動きやすいほうが快適です。特に新幹線や飛行機などで長時間座り続けるときは、かなりの頻度でお尻や背中の位置を微調整したり、手足を組み替えたりします。そして、そうやって動けるからこそ、長く座り続けることができます。

以上のことから、利用者さんにとっての良い座位とは、「動きやすいこと」だと理解してください。この視点を持っていると、現場での座位の見え方も変わってきます。例えば、こちらの写真をご覧ください。

参考画像

参考画像

車いすにクッションが敷いてあり、その上に人が座っています。特に問題ないように見えるかもしれませんが、実はお尻がクッションに沈み込んでおり、利用者さんは動きにくい状態です。「お尻がクッションに包み込まれているほうが、快適なのでは?」と考える人もいるかもしれませんが、「包み込まれている=動きが妨げられている」とも言えます。

私たちも、ハンモックの上にいるように、お尻が包み込まれた状態では自由に動くことができません。この状態が長く続くと、お尻にかかる圧の位置を変えられなくて褥瘡の原因になったり、体が動かしにくくなって筋力の低下や拘縮の進行が早まったりすることもあります。そのため、筆者が働く老健では、多くの利用者さんのクッションの下に、木の板を敷いています。

参考画像

参考画像

木の板があるとお尻が沈み込まず、体が動かしやすい環境になります。座りに違和感があるときも、自分で姿勢を調整できます。隣の利用者さんと話をするときに体を傾けたり、立ち上がるときに前屈みになったりもしやすいので、生活全体の快適さにつながるはずです。

健康で元気な人にとっては、木の板があってもなくても動きに影響はないかもしれません。しかし、体の力が衰えている利用者さんにとっては、小さな工夫が大きな変化につながります。事実、高さが38cmのいすで立つのに苦労していた利用者さんが、40cmのいすに変わった途端、楽に立てたというケースもあるほどです。

木の板はホームセンターなどで手に入るうえに、介護現場に取り入れやすい工夫なので、参考にしていただければ幸いです。

ポイント2:正しい座位を押し付けない

私たちはある種の先入観のように、"正しい座位"のイメージを頭の中に持っています。例えば、「きれいに座ってください」「座りを整えてください」と言われれば、多くの人が背筋を伸ばし、体を左右対称にして、少しアゴを引いたような座位を取るのではないでしょうか。

シーティングの重要ポイントの2つめは、そうした正しい座位のイメージを利用者さんに押し付けないことです。

参考画像

介護業界には昔から"90度ルール"というものがあり、股関節・膝関節・足関節の3か所が90度に曲がった姿勢が、正しい座位とされています。確かに、90度ルールの姿勢であれば見た目は整うかもしれませんが、果たしてその状態でどのくらいの時間座っていられるでしょう? 体が元気な人でも、1時間もしないうちに大変さを感じ、姿勢を崩したくてたまらなくなると思います。

自宅のリビングでくつろいでいるときや、映画館にいるときにわざわざ90度ルールで座っている人は少なく、多くの人が背もたれに体をあずけ、お尻を少し前に出し、姿勢を崩しながら座ると思います。だとしたら、なぜ高齢で体の力が低下しつつある利用者さんだけが、正しいとされる座位で過ごさなくてはいけないのでしょうか。

参考画像

座位で大切なのは、「リラックス」です。手足の筋肉が過度に緊張することなく、深く呼吸できる。つまり、全身が楽な状態であれば、人は長い時間を座って過ごせます。これは重要ポイント1で解説した「動きやすい」にも言えることで、体がガチガチに緊張していたら、その場でじっとしていることはできても、自由に動けません。リラックスしているからこそ、動きたいときに自由に動けるのです。

利用者さんの中には、無理に正しい座位にさせられている人もいます。例えば、車いす座位が右に傾いている利用者さんに対して、体の右側にクッションを入れる対応があったとしましょう。クッションが入ることで体はまっすぐになりますが、利用者さんは無理に姿勢を正されているため、全身の緊張が高まります。右半身をクッションに押され続ける状態になり、クッションがないとき以上に体が緊張してしまうのです。

この状態が長く続けば、圧迫による痛みや緊張による拘縮の進行を招く場合があります。動きづらくなることで、介助時の負担が増える場面もあるでしょう。

参考画像

そうしたときに必要なのが、リラックスの視点です。例えば、クッションを姿勢の矯正ではなく体を楽に支えるものとして使い、できるだけリラックスした座位を取ってもらえば、過度に緊張を高めることはありません。「リラックスできている=動きやすい」ということなので、仮に体が傾いていたとしても、その状態でモゾモゾと動くことができれば、結果的に拘縮予防や褥瘡予防につながるでしょう。

参考画像

利用者さんは、長年の習慣により体が左右非対称であったり、腰や首が曲がっていたり、麻痺や骨折によって関節が変形していたりと、1人ひとりに個性があります。だからこそ、正しい座位もそれぞれに違って良いはずです。全員に90度ルールを当てはめるのではなく、「利用者さんがリラックスしているかどうか」を正しい座位の指針にしてください。

ポイント3:利用者さんの車いすに職員が座る

座位が崩れている利用者さんがいたとき、座位を整えるために職員は何をするでしょうか。多くの場合は、崩れる原因を考えるでしょう。「体調が悪いのかもしれない」「疲れているせいかも」「筋力が低下しているから崩れるのだろうか」などと考え、いろいろな可能性を探ります。そして、思い当たる原因に対して何かしらの対処をしていきます。

通常のアプローチとしては正しい流れですが、ここにぜひ加えてほしいことがあります。3つめの重要ポイントである「利用者さんの車いすに職員が座る」というものです。一見するとおかしな行動に見えるかもしれませんが、ちゃんとした理由があります。

参考画像

多くの職員は利用者さんを目で見て、視覚的に確認することに慣れています。会話のときは表情を見て、入浴介助のときは全身の皮膚状態を見る。食事のときは口やのどの動きを見るといった具合です。視覚からは数多くの情報が得られるため、座位も「見ることによって崩れる原因がわかる」と思われがちですが、実は座位には見ているだけではわからない情報がたくさんあります。特に大切なのが、触覚を通してはじめて知ることができる「座り心地」です。

木製のいすに座ったときと円座に座ったとき、ソファーに座ったときを比較すると、座り心地はすべて違いますが、それがわかるのはお尻で感覚を確認できるからです。じっと見ているだけでは、何時間経っても座り心地などわかりません。みなさんも、自宅にソファーを買うときは実際に座ってみて、お尻や背中や手で弾力、肌触りを確認したいと思うはずです。利用者さんの車いすも同じで、実際に座ってみてはじめて気付くことがあります。

参考画像

参考画像

参考画像

こんな事例があります。ある事業所に、ずっこけ座り(仙骨座り)になりやすい利用者さんがいました。職員は「お尻が痛いのかも?」「体が大変なのかも?」「麻痺の影響かも?」など、いろいろな原因を考え対処しますが、ずっこけ座りは直りません。

しかし、職員が利用者さんの車いすに座らせてもらったところ、原因はすぐにわかりました。実はクッションの下にタオルが敷かれており、それが座面の後ろ側にずれたことで、"滑り台"のようにお尻がずっこけやすい状態になっていたのです。

参考画像

座面の硬さやフィット感、角度、背もたれの幅や高さ、寄りかかりやすさなど、車いすには座ってみなければわからない情報がたくさんあります。そして、職員が利用者さんの車いすに座ることは、それらを一度に知ることができる画期的な方法なのです。

座り心地の確認は職員のお尻や背中の触覚を使いますが、利用者さんの体に直接手で触れれば、手の触覚を通してもう1つ大切な情報である「体の緊張」を確認することもできます。重要ポイント2で解説した「利用者さんがリラックスできているかどうか」も、体に触れてみることでより明確に知ることができるのです。

体が硬いか柔らかいか、押すとユラユラ動くかガチガチに固まっているか。そういった情報は、見ているだけではわかりづらいものです。座位が崩れている利用者さんがいたら、一度車いすやいすに座らせてもらったり、直接体に触れさせてもらったりしてください。お尻や背中、手でしかわからないことが、触覚を通してしっかりと感じられるはずです。

参考画像

まとめ

今回は、「車いす座位の崩れはどうすれば整うのか」についてお伝えしました。ポイントとなるのは、①動きやすい座位を目指す、②正しい座位を押し付けない、③利用者さんの車いすに職員が座ってみるの3つです。これらを踏まえながらシーティングすれば、無理な姿勢で苦しい思いをする利用者さんは、確実に減るでしょう。

重度の利用者さんほど、座っているときの大変さを口に出して伝えることができません。つまり、座位の崩れは私たちに大変さを伝えようとしている、精一杯の姿かもしれないのです。今回の記事を参考に、ぜひシーティングにチャレンジしてください。

●関連記事
誤嚥が減る!認知症の利用者さんへの「食事介助のコツ10選」
何度も同じことを訴える認知症の利用者さんへの傾聴テクニック
介護拒否がある認知症の利用者さんへの対応のコツ10選

スピード転職情報収集だけでもOK

マイナビ介護職は、あなたの転職をしっかりサポート!介護職専任のキャリアアドバイザーがカウンセリングを行います。

はじめての転職で何から進めるべきかわからない、求人だけ見てみたい、そもそも転職活動をするか迷っている場合でも、キャリアアドバイザーがアドバイスいたします。

完全無料:アドバイザーに相談する

最新コラムなどをいち早くお届け!
公式LINEを友だちに追加する

お役立ち情報を配信中!
X(旧Twitter)公式アカウントをフォローする

介護職向けニュースを日々配信中!
公式Facebookをチェックする

SNSシェア

安藤祐介(Yusuke Ando)

作業療法士

2007年健康科学大学を卒業。作業療法士免許を取得し、介護老人保健施設ケアセンターゆうゆうに入職。施設内では認知症専門フロアで暮らす利用者47名の生活リハビリを担当し、施設外では介護に関する講演・執筆・動画配信を行っている。

安藤祐介の執筆・監修記事

介護の仕事・スキルの関連記事

  • 介護施設・職場

    2025/03/19

  • 老人ホームに0〜3歳の赤ちゃんを採用している理由は?「銀杏庵 穴生倶楽部」における赤ちゃん職員の実施背景|気になるあの介護施設

  • 取材・文/タケウチノゾミ 編集/イージーゴー
  • 介護職のスキルアップ

    2025/03/18

  • 車いす座位の崩れはどうすれば整うの?プロが教える3つのポイント|認知症ケアの現場から(27)

  • 文・写真/安藤祐介
  • 介護施設・職場

    2025/03/17

  • ヘルパーの仕事とは?訪問介護の業務内容・スケジュール・やりがいを徹底解説!

  • 文/山本史子(介護福祉士)
もっと見る