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仕事・スキル 介護職のスキルアップ 2025/02/26

#認知症ケアの現場から

誤嚥が減る!認知症の利用者さんへの「食事介助のコツ10選」|認知症ケアの現場から(26)

文・写真/安藤祐介 care26_thumb.jpg

認知症の利用者は、症状の進行に伴い食事を認識することが難しくなったり、食器の使い方がわからなくなったりして、食事介助が必要になることがあります。ただし、上手に介助しないと誤嚥や窒息のリスクが高まったり、途中で摂取が進まなくなったりすることもあるため、食事介助に難しさを感じている職員もいるのではないでしょうか。

そこで本記事では、筆者が認知症の利用者とかかわる中で学んできた、「食事介助のコツ10選」をお伝えします。スプーンにのせる量や口に入れる時の角度が変わるだけで、利用者の食べやすさは大きく変わります。お互いにとって快適な時間となるように、食事介助の参考にしていただければ幸いです。

1.コツ①:利用者の利き手側から介助する

食事介助は、利用者の利き手側から行いましょう。利用者が右利きなら介助者は右側から、左利きなら左側から介助します。なぜなら、利用者は食事介助が必要になるまでの間、ずっと利き手側から食べ物を口に運んでいたからです。右利きの利用者であれば、長年右手を使って食事をしており、右手方向からの食事に慣れています。ですから、右利きの利用者に対して左側から介助すると、利用者は不慣れな左手方向から食事をすることになってしまうのです。

また、認知症の利用者の中には食事の認識が難しくなっている方もおり、慣れ親しんだ方向から介助したほうが、口の開きが良くなることがあります。比率として、利用者・介助者ともに右利きが多いため、利用者の右側から介助すれば、介助者が利き手で介助できるケースも増えるでしょう。食事介助では、繊細なスプーンの操作や利用者の手のサポートが求められるため、介助者が利き手で介助できるのは大きなメリットになります。

×好ましくない例 非利き手側からの介助

×好ましくない例 非利き手側からの介助

〇好ましい例 利き手側からの介助

〇好ましい例 利き手側からの介助

2.コツ②:座って介助する

食事介助は座って行いましょう。立ったまま介助すると、利用者の注意が上方向に向きやすく、スプーンも上方向から口元に向かうことになるため、利用者のアゴが上がりやすくなります。アゴが上がった姿勢は、気道確保をしているのと似たような状態であり、食事が気道に入りやすくなるため、誤嚥のリスクが高まります。特に、認知症の利用者は職員の顔や動いているスプーンに注意が向きやすく、「前を向いて食べてください」と声をかけても、言われた通りにするのは難しいです。

また、立ったままでは介助者も利用者ののどの動きが見にくいため、しっかりと飲み込みができているかを確認しづらくなります。介助者が近くに立ち続けていると、利用者が精神的な圧迫感を感じることもあるでしょう。座って食事介助すれば、利用者と目線が合いやすくなり、精神的な圧迫感も減って食事がしやすくなるはずです。

×好ましくない例 立ちながらの介助

×好ましくない例 立ちながらの介助

〇好ましい例 座って介助

〇好ましい例 座って介助

3.コツ③:スプーンは真正面&下方向から近付ける

利用者の口元にスプーンを近付ける時は、真正面&下方向からにしましょう。介助者が利用者の横に座っている場合、そのまま口元にスプーンを近付けると利用者の顔がスプーンのほうを向いて曲がってしまいます。そして、その状態だと首にねじれが生じて、咀嚼や嚥下に必要な筋肉が緊張で動きにくくなります。利用者の顔が正面を向き、首に緊張がない状態(ニュートラルな状態)で食事してもらえるように、スプーンは利用者の真正面から真っすぐに近付けましょう。

ただし、真正面といっても、スプーンを口元と同じ高さから近付けるのは避けてください。利用者は、首を反りながら口を開けることになるため、誤嚥のリスクが高まってしまいます。スプーンを利用者の真正面かつ下方向から近付けて目線を下げることで、アゴを上げずに食事してもらえます。

×好ましくない例 横からスプーン 首が曲がっている

×好ましくない例 横からスプーン 首が曲がっている

〇好ましい例 正面からスプーン 顔が前を向いている

〇好ましい例 正面からスプーン 顔が前を向いている

×好ましくない例 目線の高さからスプーン アゴが上がっている

×好ましくない例 目線の高さからスプーン アゴが上がっている

〇好ましい例 下方向からスプーン アゴが上がっていない

〇好ましい例 下方向からスプーン アゴが上がっていない

4.コツ④:下唇に合図を送り開口を促す

スプーンを口元に近付けたら、声かけをしたり体に触れたりしながら開口を促します。円滑に開口できる利用者であれば問題ありませんが、中には傾眠していたり食事を認識しづらかったりして、口が開きにくい利用者もいると思います。その時は「口元まで食事がきましたよ」と合図を送るように、下唇をスプーンで軽く刺激しましょう。下唇を刺激するのは、アゴを下げた状態での開口を促して、誤嚥のリスクを減らしたいからです。私たちも食事をする時は、最初に下唇でスプーンの背の感触を感じながら開口し、上唇を閉じるように閉口しますが、それと同じです。アゴが上がりやすい利用者の場合は、介助者の指で下唇とアゴの間の凹み(オトガイ唇溝と呼ばれる部分)を下方向に刺激すると、アゴを下げながら開口する動きを促しやすくなります。

ただし、口周辺はデリケートな部位なので、スプーンなどで強く刺激すると筋肉の緊張が高まって、口の開きが悪くなることもあります。刺激の強さを控え目にするのはもちろん、スプーンを口元まで運んだら、ご本人が開口するまで待つように心がけましょう。口がわずかしか開けない利用者の場合は、口を大きく開けなくても入りやすいように、小さくて薄い形状の介助用スプーンやティースプーンを活用してみてください。

×好ましくない例 上唇を刺激

×好ましくない例 上唇を刺激

〇好ましい例 下唇を刺激&オトガイ唇溝に指を置く

〇好ましい例 下唇を刺激&オトガイ唇溝に指を置く

5.コツ⑤: スプーンの前半分を口に入れる

利用者が開口したら、スプーンを口の中に入れます。この時、スプーンのくぼみ部分(つぼと呼ばれる部分)全体を、口に入れないように気を付けましょう。健康に過ごしている人でも、付け根が隠れるほどスプーンを口に入れて食べることは、ほとんどありません。付け根まで入れると、スプーンが舌の動きをじゃましてしまう上に、異物感で口腔内の緊張が高まり、逆に食べにくくなるからです。

利用者の口にスプーンを入れる時は、半分程度を心がけることで、舌の動きをじゃますることが少なくなります。また、閉口した際に上唇がちょうどスプーンのくぼみ部分にかかるため、引き抜いた時にスプーン上の食事がきれいになくなるはずです。ポイントは、スプーンですくう段階から、食事を前半分にのせることです。くぼみ全体に食事をのせると、全部食べてもらおうとして、スプーンを付け根付近まで入れがちになるので注意してください。スプーンの前半分にのせるようにすれば、スプーンを口の奥まで入れることが減り、一口量が多くなりすぎる心配もなくなるでしょう。

×好ましくない例 スプーンのくぼみ全体が口に入っている

×好ましくない例 スプーンのくぼみ全体が口に入っている

〇好ましい例 スプーンの前半分が口に入っている

〇好ましい例 スプーンの前半分が口に入っている

6.コツ⑥:閉口を促すように下唇に圧をかける

スプーンを口の中に入れたら、利用者に閉口を促します。ご自分で閉じられる方は問題ありませんが、認知症の利用者の中には口が開いたままだったり、口を閉じずに飲み込もうとして誤嚥してしまったりする方もいます。そうならないためにも、スプーンを口の中に入れたら、スプーンの背の部分で下唇から舌の前にかけて軽く押すように圧をかけてください。

すると、利用者は口腔内の刺激を通して、食事が入ったことを認識しやすくなります。また、首が下方向に下がるため、上唇を閉じながら閉口する動きが促されて、誤嚥のリスクも低減できます。私たちも、食事をする時には軽くお辞儀をするように首を下げ、上唇をスプーンのくぼみ部分にかぶせるようにしますが、それと同じ要領です。

スプーンで首の前屈を促しつつ閉口している

スプーンで首の前屈を促しつつ閉口している

7.コツ⑦:閉口したらスプーンを水平&ゆっくり引き抜く

利用者が閉口したら、スプーンを引き抜きます。この時は、引き抜く方向に注意しましょう。例えば、スプーンのくぼみ部分に入っている食事を前歯でこそげ落とすように、斜め上方向に引き抜いたらどうなるでしょうか。スプーン上の食事はきれいになくなるかもしれませんが、利用者のアゴが上がって誤嚥のリスクが高まります。そういった介助が何度も続けば、利用者は食事が口に入るたびに、アゴを上げながら咀嚼・嚥下する危険な習慣が身についてしまうかもしれません。

それを予防するためには、コツ⑥でお伝えしたアゴを上げず、上唇を閉じるように閉口してもらう介助が必要です。スプーンを引き抜く方向は、上や下ではなく、水平を意識しましょう。その際は、引き抜く速度も重要です。素早く引き抜こうとすると、スプーンの動きが強い刺激となって口腔内の緊張を高め、飲み込みに悪影響が出る可能性があります。さらには、口の中を傷付ける危険性もあるでしょう。利用者が不快にならないように、引き抜く際はゆっくり丁寧に行ってください。

×好ましくない例 上方向に引き抜く

×好ましくない例 上方向に引き抜く

〇好ましい例 水平に引き抜く

〇好ましい例 水平に引き抜く

8.コツ⑧:飲み込みを目や音で確認する

利用者が食事を咀嚼・嚥下している最中は、声かけを控えましょう。介助者に「おいしいですか?」「次はどれを食べますか?」などと声をかけられると、認知症の利用者は口の中に食事が入っているにもかかわらず、返答しようとすることがあります。しかし、人は声を出している時はもちろん、口が少し開いているだけでも口腔内の内圧を高められず、上手に飲み込めません。しゃべりながら食事をすると、空気と一緒に気管に食事が入り、誤嚥してしまうこともあります。

また、ひんぱんな声かけは、食事への集中力を低下させ、良いリズムで行えていた咀嚼・嚥下を中断させてしまうこともあります。利用者が咀嚼・嚥下している時は、声かけを控えて口やのどの動きに注目しましょう。一口量が多すぎて口の動きが悪くなっていないか、ゴックンと飲み込む時にのどぼとけがしっかりと動いているか、飲み込んだと思った後に口の中に食事が残っていたりしないか。それらを目で見て確認しつつ、次の食事を口に運ぶ段階まできたら一度声を出してもらい、『利用者の声』を聞いてみてください。もし、発した声が濁っていたり、のどの奥からゴロゴロした音が聞こえたりしたら注意が必要です。お名前を呼んで声を出してもらったり、せきばらいを促したり、食事が入っていない空のスプーンでもう一度嚥下を促したりして、声がはっきり聞こえるようになってから、次の一口に移りましょう。

9.コツ⑨:利用者の手をサポートして食事動作への参加を増やす

食事に全介助が必要とされる利用者の中にも、数%であれば食事動作への参加が可能な方がいるかもしれません。例えば、介助者がスプーンを持ち、スプーン上に食事をのせ、利用者の口元まで運んで食べてもらっていた場合、利用者は自分の手を使う機会がまったくありません。しかし、その利用者に「肘を曲げ伸ばしする力」が秘められてたらどうでしょうか? スプーンを持ったり、スプーンに食事をのせたりすることは難しくても、介助者がスプーンを持ちながら手や肘を支えれば、利用者が自分で肘を曲げてスプーンを口元まで運べるはずです。また、それによって利用者の食事動作への参加が増えます。自分にとって好ましい速度でスプーンを口に近付けられるほか、口を開けるタイミングもつかみやすくなるでしょう。

全介助で食事するというのは、実は介助者だけではなく、利用者にとっても難易度が高い行為です。スプーンにのせる一口量を選べず、スプーンを口に近付ける角度や速度、スプーンをどのくらい口の中に入れるかも選べない。スプーンを引き抜くタイミングや、次の食事が口に入るペースもすべて介助者にゆだねられている。そんな状況で、誤嚥することなくおいしく食事を食べ切れるのか......。想像してみると、とても難しいことをしているのがわかるのではないでしょうか。

だからこそ、例えわずかであっても、自分で行える部分があるというのはお互いの行動を楽にします。特に、認知症の利用者は、口元に食事だけ運ばれてきても「食べる」という認識がしづらく、自分でスプーンを持ったり、食器の重さを感じたり、ごはんの匂いを嗅いだり、スプーンでかき混ぜたりすることで、「今食事をしているんだな」という感覚が高まります。そして、感覚が高まることで、咀嚼・嚥下する力が引き出されます。100%の介助が必要な利用者もいるかもしれませんが、一部分であってもできる部分を探して参加してもらえたら、より質の高い食事介助につながるということを、ぜひ覚えておいてください。

スプーンを介助者が持ち、利用者に手を添えてもらっている

スプーンを介助者が持ち、利用者に手を添えてもらっている

コップを利用者が持ち、介助者が手や肘を支えている

コップを利用者が持ち、介助者が手や肘を支えている

10.コツ⑩:無理に食べやすい姿勢を作らない

食事は股関節・膝関節・足関節が90度になった「90度ルール」の座位姿勢で食べるのが好ましいとされていますが、その姿勢が無理に作られたものだとしたら逆効果です。例えば、車椅子上で仙骨座り(ずっこけ座り)になっている利用者がいたとしましょう。90度ルールからすれば好ましくない姿勢ですが、利用者が楽に座れていて、顔や首に過度な筋肉の緊張がなければ食事可能な姿勢と言えます。

一方、90度ルールの座位をとっていたとしても、利用者がリラックスできず全身がガチガチに緊張していたらどうでしょうか。呼吸がしづらく、口も開閉しにくいでしょう。顔や首が緊張しているために、咀嚼・嚥下することも大変難しくなるはずです。つまり、大切なのは「どんな姿勢で食べているか」ではなく、利用者が「楽な姿勢で食べられているか」なのです。

介助者から見て整った姿勢であっても、利用者が苦痛を感じていたら意味がありません。ですから、現場で利用者の姿勢をクッション類でサポートしたり、車椅子を調整したりする時には、利用者にとって「楽な姿勢かどうか」を基準にしてください。座っている時に体がリラックスできているか、楽に呼吸できているか、ゴソゴソと小さく動くことができるか。こういった部分が満たされていれば、利用者も食事に参加しやすくなり、お互いに楽な食事介助につながります。

×好ましくない例 背中にクッションがあり90度座位だけど緊張している

×好ましくない例 背中にクッションがあり90度座位だけど緊張している

〇好ましい例 仙骨座りだけどリラックスしている

〇好ましい例 仙骨座りだけどリラックスしている

まとめ

今回は、認知症の利用者への「食事介助のコツ10選」をお伝えしました。食事介助は、食事をスプーンで口元に運ぶという一見単純そうな介助に見えますが、実は誤嚥や窒息のリスクと隣り合わせの作業です。また、おいしく食事をしてもらうためには一口量、ペースなどにも細やかな配慮が必要になります。スプーンをどの方向から口に運び、どんな姿勢で食べてもらうかで安全性や介助の時間が大きく変わることもあるため、本記事で紹介したコツが少しでもお役に立てば幸いです。

参考書籍
『認知症患者の摂食・嚥下リハビリテーション』(南山堂/編:野原幹司、著:山脇正永・小谷泰子・山根由起子・石山寿子)
『食べられるようになるスプーンテクニック』(日総研出版/著:佐藤良枝)

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安藤祐介(Yusuke Ando)

作業療法士

2007年健康科学大学を卒業。作業療法士免許を取得し、介護老人保健施設ケアセンターゆうゆうに入職。施設内では認知症専門フロアで暮らす利用者47名の生活リハビリを担当し、施設外では介護に関する講演・執筆・動画配信を行っている。

安藤祐介の執筆・監修記事

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