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仕事・スキル 介護職のスキルアップ 2025/05/26

#インタビュー

利用者さんやご家族との関係性を向上させるにはどうすべき?介護現場で活かせるコミュニケーション術を紹介

取材・文/タケウチノゾミ 編集/イージーゴー iv250501_thumb.jpg

「なんだか最近、利用者さんとうまくコミュニケーションを取れない」「ご家族とトラブルになってしまった」と悩んでいませんか。介護職は利用者さんやご家族、一緒に働くスタッフなど、常に様々な人と接する機会が多い仕事のため、人間関係やコミュニケーション方法でお悩みの方も多いかもしれません。では、周囲の人との関係性を向上させるには、どのような点に注意すれば良いのでしょうか。コミュニケーション術の専門家であり、2024年に『利用者・家族・スタッフに信頼される 介護のステキ言い換え術』を出版した大野萌子氏に、介護現場で活かせるコミュニケーション方法について聞いてみました。

ーー利用者さんやご家族との関係性について、悩んでいる介護スタッフは多い傾向にあります。介護の現場において、コミュニケーションを見直す重要性やメリットを改めて教えてください。

大きなメリットは、人間関係が改善し、働きやすくなることだと考えています。介護職は、感情を伴う労働である「感情労働」に分類されると言われており、肉体面・精神面の両方において負荷が大きい仕事です。このような、様々な人との関わりが常にある仕事をスムーズに進めるには、コミュニケーションスキルが欠かせません。私は心理カウンセラーとしての長年の現場経験から、心の病気に関する研修をいくら行なってもメンタル不調は減らせないものの、コミュニケーションの研修を行うと格段に効果が現れるように感じています。コミュニケーションをスムーズに取れるようになると、心の安定や働きやすさだけでなく、ケアの質の向上も期待できます。まずは、思ったことをそのまま伝えるのを止め、簡単な言葉の言い換えから始めてみることがおすすめです。

ーー仕事が忙しいと、ついコミュニケーションがおろそかになってしまうことも多いように感じています。介護の仕事にて、思ったことをそのまま伝えるトラブルとしては、具体的にどのようなことが挙げられますか。

介護現場でよくあるトラブルは、正論を言って利用者さんを混乱させてしまうことです。具体的には、帰宅願望のある入居者さんに「ここが〇〇さんのお家ですよ」と言うことなどが挙げられます。もちろん、正しいことを伝えなければいけないケースもありますが、正論を言うことは、必ずしも良いこととは限りません。特に認知症の利用者さんに対しては、トラブル発生の原因になりかねないと感じています。

経験がある方も多いかと思いますが、人は自分の気持ちを理解してもらえるだけでも、心を落ち着けやすくなるものです。例えば、周囲の人に悩みを相談した際に、アドバイスをもらえた訳ではないけれど、なんだか気分がスッキリとしたことはありませんか。利用者さんも同様に、「自分の気持ちを受け止めて欲しい」と考えています。そのため、すぐにイエスかノーで返事をするのではなく、一旦気持ちを受け止めることを心がけてみてください。

介護士と老人

ーー正しいことを伝えることが、必ずしも利用者さんのためになるとは限らないのですね。介護職では初対面の利用者さんと接する機会も多いですが、その際に意識すべきことがあれば教えてください。

仲良くなりたいからといって、慣れ慣れしくしないことが重要です。介護職は利用者さんとの距離が近い仕事なので、「家族のように接した方が良いのでは」と考えている方もいらっしゃるかもしれません。しかし、過度な馴れ馴れしさは利用者さんに恐怖感を覚えさせてしまうこともあるため、注意が必要です。自分自身に置き換えて考えてみると分かりやすいと思うのですが、例えば初対面の人に、急に昔からの友人のような態度を取られたら、身構えてしまう人は多いのではないでしょうか。利用者さんも同じように感じているため、お客様であることを忘れずに接するようにしましょう。また、利用者さんには常に丁寧語で話しかけ、馴れ馴れしさと親しみやすさを混在させないことを心がけてみてください。

ーーその他に、利用者さんに対する言葉選びで特に気をつけるべきポイントや、言葉のトーンについて意識すべきことはありますか。

声に抑揚をつけて話すことです。聴力が低下している高齢者にとっては、一定のトーンで話すよりも、抑揚がついている方が聞き取りやすい傾向にあります。そのため、話すスピードにメリハリをつけたり、会話に間を持たせたりしてみてください。「重要なところは少し大きな声でゆっくりと、その他のところは普通のトーンで話す」といった工夫をすると、より伝わりやすくなります。

さらに、少し低めの声で話すことも効果的です。人の耳は高音から聞こえにくくなるため、甲高い声は高齢者にとって聞き取りづらいといえます。特に女性は、公の場で声が高くなりやすい傾向にあるため、意識して低い声を出すようにすると良いでしょう。その際、なるべく早口にならないように、「ゆっくり・はっきり」と話すこともポイントです。

介護士と老人

ーー介護における様々なシチュエーションのなかでも、特に注意すべきシーンや、言い換えを意識した方が良いシーンがあれば教えてください。

特に気をつけて欲しいシーンは、周囲の人からのお願いを断るときです。日本人は断ることが苦手なため、本当はできないのに、つい「考えておきます」などと言ってしまいがちです。しかし、曖昧な返事は相手に無駄な期待を抱かせてしまい、トラブルの原因にもなりかねません。例えば、仕事をしている最中、利用者さんに「話を聞いて欲しい」と言われたとしましょう。この際、「今ちょっと忙しいので後で......」などと言ってしまいがちですが、「ちょっと」は曖昧な表現で、どれくらい忙しいのかを判断することが難しいといえます。利用者さんにとっては、「ちょっと忙しい=5分くらいで終わる作業をしている」と感じるかもしれません。また、忙しいと伝えるのは「あなたに使う時間はない」と言っているようで失礼であり、理由として適切ではありません。今は手が離せない場合は、「今は難しいですが、洗濯の後でしたら大丈夫です」といったように、いつであれば対応できるのかを伝えることがベストです。

ーー利用者さんのご家族に対してはどうでしょうか。同様に、気をつけるべきポイントや注意すべきシーンはありますか。

ご家族に対しても、同様に曖昧な返事を避けることを意識してみてください。例えば「〇〇をして欲しい」と言われた際に、本当は難しいにもかかわらず、「考えておきます」と答えたことがある方は多いかもしれません。しかし、このような曖昧な返事をすると、相手は「考えてくれる=やってもらえる」と良い方に捉えがちです。そのまま明確な返事をせずにいれば、「考えておくって言っていたのに、〇〇はどうなったの?」というクレームにも繋がりかねません。もしできない場合は、はっきりと対応が難しい旨を伝えましょう。

とはいえ、一方的にできないことを伝えると「冷たい対応だ」と思われることもあります。このようなケースでは、代案を示すことが効果的です。例えば「食事のメニューを父だけ変更して欲しい」という要望があり、施設の決まりでは対応できないとします。この際、「当施設ではそのような対応はしていません」とだけ伝えるのではなく、「施設での対応はできませんが、ご家族がお持ちいただいたものをお出しすることはできます」などと伝えると、相手に寄り添うことができます。もちろん、代案を提示できないこともあると思いますので、その際は要望に応えられないことを素直にお詫びしましょう。また、自分だけでは判断できない場合は、「私に言われましても......」と言うのではなく、「判断しかねるので、上司に確認して〇日までにお知らせします」などと伝えることがベストです。

ーー「言い換えができるようになれば、コミュニケーションがよりスムーズになりそう」と感じる一方で、なんだか難しそうだとも感じています。言い換えを日常的に行えるようになるためのコツはありますか。

大きく3つの方法があります。1つ目は、ネガティブな表現をポジティブな表現に変えることです。例えば、以下のようなものが挙げられます。

  • 失敗しないでくださいね→うまくできるといいですね
  • 風邪をひかないようにしてください→元気で過ごしてください

2つ目は、否定的な表現を肯定的な表現に変えることです。して欲しくないことではなく、「して欲しいこと」を伝えるようにしましょう。

  • 立たないでください→座っていてください
  • 一人でやらないでください→やる時は声をかけてください

3つ目は、曖昧な表現を具体的にすることです。先ほども少しご紹介したとおり、数字を使って具体的に表現すると、相手への伝わりやすさが格段にアップします。

  • ちょっと待っていてください→あと10分待っていてください
  • もう少し頑張りましょう→あと3回頑張りましょう

最初は難しいかもしれませんが、意識して使っているうちに段々と慣れてくると思います。まずは、できることから取り組んでみてください。

介護のステキ言い換え術: 利用者・家族・スタッフに信頼される

介護のステキ言い換え術: 利用者・家族・スタッフに信頼される

プロフィール

大野萌子

大野萌子

一般社団法人日本メンタルアップ支援機構(メンタルアップマネージャー資格認定機関)代表理事、公認心理師、産業カウンセラー、2級キャリアコサルティング技能士。法政大学卒。企業内カウンセラーとしての長年の現場経験を生かした、人間関係改善に必須のコミュニケーション、ストレスマネジメントなどの分野を得意とする。現在は防衛省、文部科学省などの官公庁をはじめ、大手企業、大学、医療機関などで講演・研修を行う。

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タケウチ ノゾミ(Nozomi Takeuchi)

ライター・編集者

福岡市在住のフリーライター・編集者。介護、医療、ビジネスを中心に幅広いジャンルの記事を執筆。趣味は観劇と美術鑑賞、猫を揉むこと。

タケウチ ノゾミの執筆・監修記事

EGGO(イージーゴー)

イージーゴーは東京・九州を拠点にWEBコンテンツ、紙媒体、動画等の企画制作を行う編集制作事務所です。ライターコミュニティ「ライター研究所」も運営しています。

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