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仕事・スキル 介護士の給料と年収 2024/07/31

処遇改善手当とは?介護現場での支給対象や支給方法・支給までの流れを解説!

文/中西紗羅(介護福祉士) thumbnail_0731.jpg

処遇改善手当とは、介護現場で働く職員の賃金改善を目的に設けられた加算制度です。令和6(2024)年4月の介護報酬改定で、これまでの「介護職員処遇改善加算」「介護職員等特定処遇改善加算」「介護職員等ベースアップ等支援加算」が、「介護職員等処遇改善加算」に一新され、6月から施行されています。

「介護職員等処遇改善加算」では、介護職員の段階的なベースアップや制度・手続きの簡素化が実施されるため、請求業務を担当している管理者や事務職はもちろん、手当を受け取る職員の側も「処遇改善手当とは何か?」を知っておくとよいでしょう。

そこでこの記事では、介護報酬による処遇改善手当の支給対象や支給方法、支給されるまでの流れを紹介します。処遇改善手当が支給されないケースについても解説しますので、処遇改善手当について理解を深めたい方は、ぜひご一読ください。

(参考:厚生労働省「福祉・介護職員の処遇改善」

注:障害福祉サービス等報酬での処遇改善手当についても内容の多くは重複しますが、介護報酬とは異なる点もあります。詳しくは、厚生労働省のWebサイト「福祉・介護職員の処遇改善」をご参照ください。

1.処遇改善手当とは

処遇改善手当とは、介護保険給付に上乗せする形で「介護職員等処遇改善加算」を算定し、そこで得られた報酬を現場の介護職員等に支払う仕組みです。
介護現場で働く職員に処遇改善手当が支給されるには、介護保険施設や介護サービス事業所が介護職員処遇改善加算の要件を満たしたうえで、国に申請する必要があります。

処遇改善手当は、2009(平成21)年度に設けられた「介護職員処遇改善交付金」が前身となっており、その後介護報酬の改定を重ねるなかで徐々に内容が充実してきました。

「介護職員処遇改善交付金」は、2012(平成24)年度に「介護職員処遇改善加算」へと改定され、2019(令和元)年には「介護職員等特定処遇改善加算」がスタート。2022(令和4)年には「介護職員等ベースアップ等支援加算」が追加され、2024(令和6)年6月からは、「介護職員処遇改善加算」と「介護職員等特定処遇改善加算」「介護職員等ベースアップ等支援加算」の3つ(以下、旧加算)を一本化した、「介護職員等処遇改善加算」(新加算)が創設されたのです。
なお、新加算では、加算率を引き上げるなどして2024(令和6)年度に2.5%、2025(令和7)年度には2.0%のベースアップを目指しています。

2.介護職員等処遇改善加算(新加算)の取得要件

新加算を申請するために、介護保険施設や介護サービス事業所は以下の3つの要件を満たす必要があります。

  • キャリアパス要件
  • 月額賃金改善要件
  • 職場環境等要件

ここからは、それぞれについて詳しく紹介しましょう。

キャリアパス要件

キャリアパス要件の具体的な内容は、次の5つです。キャリアパス要件のⅠ~Ⅲについては、すべての介護職員に周知が必要です。

キャリアパス要件 詳細 移行について
Ⅰ 任用要件・賃金体系 介護職員について、職位・職責・職務内容等に応じた任用等の要件を定め、それらに応じた賃金体系を整備する。 2024(令和6)年度中は年度内の対応の誓約で可
Ⅱ 研修の実施等 介護職員の資質向上の目標や以下のいずれかに関する具体的な計画を策定し、当該計画にかかる研修の実施または研修の機会を確保する。 ①研修機会の提供または技術指導等の実施、介護職員の能力評価 ②資格取得のための支援(勤務シフトの調整、休暇の付与、費用の援助等) 2024(令和6)年度中は年度内の対応の誓約で可
Ⅲ 昇給の仕組み 介護職員について以下のいずれかの仕組みを整備する。 ①経験に応じて昇給する仕組み ②資格等に応じて昇給する仕組み ③一定の基準に基づき定期に昇給を判定する仕組み 2024(令和6)年度中は年度内の対応の誓約で可
Ⅳ 改善後の賃金額 経験・技能のある介護職員のうち1人以上は、賃金改善後の賃金額が年額440万円以上であること。 *小規模事業所等で加算額全体が少額である場合などは、適用が免除される。 2024(令和6)年度中は月額8万円の改善でも可
Ⅴ 介護福祉士等の配置 サービス類型ごとに一定割合以上の介護福祉士等を配置していること。

(出典:厚生労働省「『処遇改善加算』の制度が一本化[介護職員等処遇改善加算]され、加算率が引き上がります」

月額賃金改善要件

月額賃金改善要件にはⅠとⅡがあります。
Ⅰは、規定の加算率(例えば、訪問介護の場合14.5%)によって算出された加算額の1/2以上を、月給の改善に充てるものです。

Ⅱは、旧加算の1つである「介護職員等ベースアップ等支援加算」が未算定の事業所のみに適用されるもので、介護職等ベースアップ等加算に相当する賃金改善が行われます。

職場環境等要件

職場環境等要件では、「入職促進に向けた取り組み」や「資質の向上・キャリアアップに向けた支援」「生産性向上のための業務改善の取り組み」など、職場環境をよりよくするための処遇改善に取り組んでいることが求められます。

2024(令和6)年度は旧加算の要件のまま継続できますが、2025(令和7)年度からは必要項目が増える予定です。

3.介護職員等処遇改善加算(新加算)の区分

新加算は、以下の4段階に区分されています。Ⅳの要件が満たされたらⅢ、Ⅲの要件が満たされたらⅡといった具合に、要件を満たすにしたがって加算率が上昇します。

なお、加算率はサービス区分ごとに異なるため、本記事では訪問介護を例に記載しています。

要件 加算率 (訪問介護の場合)
Ⅰ 新加算(Ⅱ)に加え、以下の要件を満たすこと。 ・経験技能のある介護職員を事業所内で一定割合以上配置していること 24.5%
Ⅱ 新加算(Ⅲ)に加え、以下の要件を満たすこと。 ・改善後の賃金年額440万円以上が1人以上いること ・職場環境の更なる改善と見える化が行われていること 22.4%
Ⅲ 新加算(Ⅳ)に加え、以下の要件を満たすこと。 ・資格や勤続年数等に応じた昇給の仕組みが整備されていること 18.2%
Ⅳ ・新加算(Ⅳ)の1/2(7.2%)以上を月額賃金で配分していること ・職場環境の改善(職場環境等要件)が行われていること ・賃金体系等の整備及び研修の実施等が行われていること 14.5%

(出典:厚生労働省「処遇改善に係る加算全体のイメージ[令和4年度改定後]」

新加算の要件のなかには、勤続年数や研修の実施など、現場で働く介護職員の協力があってはじめて満たされるものもあります。

注:一本化後の新加算Ⅰ~Ⅳへただちに移行できない事業所のため、2025(令和7)年3月までの間に限り、激変緩和措置として新加算Ⅴが設置されています。新加算Ⅴは、旧加算に基づく加算率を維持したうえで、改定による加算率の引き上げを受けられるようにする経過措置です。

4.処遇改善手当の支給対象

処遇改善手当が支給される対象者は、新加算を取得する事業所で働く「介護職員その他の職員」です。そのため、常勤や正社員だけでなく派遣労働者やパート、EPA(経済連携協定)による介護福祉士候補者、介護職種の技能実習生なども支給の対象となります。

手当の支給配分については、介護職員への配分が基本とされていますが、介護サービス事業者などの判断により、介護職員以外の職種への配分も認められています。

5.処遇改善手当の支給方法

処遇改善手当の職員への支給方法は、安定的な処遇改善が重要であるという観点から、「基本給による賃金改善が望ましい」とされています。

なお、賃金改善は、以下のうち対象とする項目を特定したうえで実施するよう決められています。

  • 基本給に組み込まれ支給される
  • 賞与として支給される
  • 手当として支給される

手当の名称については、「職能手当」「資格手当」「役職手当」など、処遇改善手当と異なるものを用いても問題ありません。自分が働く介護保険施設や介護サービス事業所がどのような形で処遇改善手当を支給しているか気になる方は、事業所や施設に確認するとよいでしょう。

6.処遇改善手当が支給されるまでの流れ

介護現場で働く職員に処遇改善手当が支給されるまでの流れは、次の通りです。

  • 期日までに新加算を算定するための届出を行う
  • 処遇改善計画書を作成・提出する
  • 計画書に沿った施策の実行・算定
  • 毎月の介護報酬に加算される
  • 処遇改善手当が職員に支給される
  • 介護保険施設や介護サービス事業者は事業年度ごとに実施報告書を作成・提出する

処遇改善手当の支給を申請するためには、介護保険施設や介護サービス事業所が、都道府県知事・市町村長宛に新加算を算定するための届出を行います。

次に処遇改善手当の支給要件を満たすための計画を立案・提出し、計画書通りに処遇改善の取り組みを実行。介護保険施設・介護サービス事業所の担当者が処遇改善手当を算定します。

処遇改善手当は、介護報酬に加算されたうえで毎月支給され、処遇改善手当として介護現場の職員に支払われます。このように、処遇改善手当は職員が個人的に申請するのではなく、介護保険施設や介護サービス事業所が、手続きを行う必要があることを覚えておきましょう。

7.処遇改善手当がもらえない場合もある?

処遇改善手当は、要件を満たしていない場合には支給されません。また、勤務している介護保険施設や介護サービス事業所への新加算の給付額が少ない場合、要件に合致しない職員は処遇改善手当の対象外となったり、支給額が人によって異なったりすることもあります。自分はどれくらい支給されているのか、給与明細を確認してみましょう。

処遇改善手当が毎月の給与で支給されている場合、給与が増えた結果として税金や社会保険料も増えてしまい、手取りの金額に変化が見られないというケースもあるようです。

なお、介護職員が配置されていない以下のサービス事業所は、新加算の対象外となります。

訪問看護、訪問リハビリテーション、居宅療養管理指導、福祉用具貸与、特定福祉用具販売、介護予防訪問看護、介護予防訪問リハビリテーション、介護予防居宅療養管理指導、介護予防福祉用具貸与、特定介護予防福祉用具販売、居宅介護支援、介護予防支援

(出典:厚生労働省「介護職員等処遇改善加算等に関する基本的考え方並びに事務処理手順及び様式例の提示について」

まとめ:処遇改善手当の支給には現場で働く職員の協力が不可欠

処遇改善手当は、介護現場で働く職員の賃金や雇用の安定のために設けられた手当です。2024年6月からスタートした新制度では、これまでの処遇改善に関する制度が一本化され、加算率が引き上げられました。

処遇改善手当の申請を行ったり、受給するための環境を整えたりするのは、介護保険施設・介護サービス事業所の役目ですが、受給要件を満たすためには介護現場で働く職員の協力が不可欠です。だからこそ、職員1人ひとりが処遇改善手当についての理解を深めておく必要があるでしょう。

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中西紗羅(Sara Nakanishi)

介護福祉士

2014年介護福祉士養成校を卒業し、介護福祉士の資格を取得。その後、従来型の介護老人福祉施設にて4年勤務する。「より個人に寄り添ったケアを実現したい」という思いから、ユニット型の介護老人福祉施設に転職。ユニットリーダー研修を受講し、利用者さんが「ありのまま自分らしく」過ごしてもらえるよう、1人ひとりに寄り添ったケアを目指している。

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