歩行介助とは?正しい方法と労災を防ぐための注意点【監修あり】
構成・文/介護のみらいラボ編集部 監修/安藤祐介
高齢者の歩行介助は、介護現場で働く人にとって毎日のルーティン業務です。しかし、一口に歩行介助と言っても、歩行者の状態やシーンによって、適切な歩行介助の方法は異なります。
当記事では、歩行介助方法を種類・シーン別に解説します。歩行介助を間違った方法で行うと、介助者の怪我や労災につながる恐れがあります。正しい歩行介助の方法や気をつけるポイントを知り、スムーズで安全な歩行介助を実践しましょう。
1.歩行介助とは?
歩行介助とは、身体機能が衰えた高齢者などの歩行を介助することです。日常的に車椅子を使用するほどではなくとも、移動するときのフラつきや転倒など歩行能力に不安を抱える人も少なくありません。介助者が利用者を見守ることで、自分の足で歩くときでも安心して移動することができます。
高齢者における歩行のメリット
高齢者における歩行のメリットとして、身体的および精神的なサポートになることが挙げられます。現役を退き、外出する機会の減る高齢者は、家に引きこもりがちです。日常生活で体を動かさずにいると、身体機能の衰えが加速するほか、精神的にも欝々とする人が少なくありません。
高齢者が普段からウォーキングや軽スポーツなど、積極的な身体活動を意識すると、日常生活動作障害の予防や余命延長につながります。また、地域のサークル活動などに参加して近隣の人と関わり合いを持つことが、生きる意味ややりがいとなる高齢者も多い傾向です。
高齢者の歩行速度が速いほど、健康を害する恐れが少ないという調査結果も報告されています。高齢者は足を使わないとすぐに衰えてしまうため、普段から歩行速度や歩行距離を意識して活動することが重要です。
(出典:厚生労働省「後期高齢者の健康」)
2.歩行介助の方法を種類別・シーン別に5つ解説!
高齢者の歩行シーンは様々であり利用者の介護度・歩行機能の状態によって介助の程度も異なります。同じ人を介助する場合でも、シーンによって介助方法を使い分けると、よりよいサポートにつながるでしょう。
ここでは、歩行介助を種類別・シーン別に5つの方法を紹介します。
見守り歩行
見守り歩行は、杖は使わないものの1人での歩行に自信がない人や、杖を使いつつ自分の力で歩ける人への介助方法です。歩行時に介助者が直接身体を支える必要がない状態の人に行われます。
見守り歩行を行うときは、杖の反対側や麻痺している側など身体の不安定になりやすいほうに付き添うとよいでしょう。また、横にぴったり張り付くのではなく、倒れたらすぐに支えられる距離感を保ちながら、斜め後ろから見守る形が基本です。介護施設では、近くで歩行を見守ることを近位見守り、遠くで歩行状態の観察を行うことを遠位見守りと呼んでいます。
付き添い歩行
付き添い歩行は、利用者の横に立ち、手を添えながら一緒に歩く介助方法です。介助者の一方の手で利用者の手を軽く握り、もう一方の手で身体を支えます。介助者と利用者が前を向くため、お互いにリズムを合わせて歩きやすい介助方法です。
寄り添い歩行を行うときは、離れすぎず、密着しすぎず、お互い気持ちのよい適度な距離を保つことが大切です。倒れる心配をして密着しすぎたり、脇の下に腕を入れて引き上げながら介助したりすると、利用者が歩きにくく逆効果となる可能性があります。歩行する際は利用者と介助者の出す足を同じにすると、お互いの動きを妨げ合うことなく歩行できます。
手引き歩行
手引き歩行は、介助者が利用者と向き合い、手を引きながら進む介助方法です。ベッドから車椅子に移るまでなど、短い距離のサポートに適しています。
利用者の両手を握るだけでは安定性に欠けるため、介助者は利用者の手首や肘を支えるとよいでしょう。また、介助者が後ろ向きで進むことになるため、利用者とともに転倒することがないよう足元に注意が必要です。手引き歩行というと介助者が利用者の身体を引きながら進む介助のように思われがちですが、実際の介助場面では利用者に介助者が支える手を押してもらいながら(シルバーカーを両手で押すように)進む手押し歩行と考えたほうが適切です。
階段を上り下りする際の歩行
階段を上り下りするときの介助は、利用者が転落して大怪我をする恐れがあるため、非常に重要な歩行介助です。階段にうまく足がかからず踏み外してしまう、麻痺のある足に力が入らず転倒してしまうなどの危険が潜んでいます。
階段の上り下りを介助する際は、利用者より下の段からサポートしましょう。階段を上るときに介助者が利用者の手を上から引っ張ると、バランスが崩れやすく危険です。下の段から、腰やお尻を軽く支えると利用者がバランスを取りやすくなり、万が一の転倒時にも身体を支えやすくなります。
歩行補助器具を使用する際の歩行
歩行補助器具にはさまざまな種類がありますが、基本的に利用者の斜め後ろから見守る形は共通しています。
病院や介護施設で使用されることの多い歩行器は、床が平坦な廊下などの場所で短い距離を移動するのに向いています。介助者は、利用者がまっすぐ立った時に軽く肘が曲がるくらいの高さに歩行器の高さを調整しましょう。また、上半身や腕の力に不安がある場合は、肘掛けの付いたアーム付き歩行器を使用するとよいでしょう。
長距離を移動する際は、収納や腰掛けを兼ねたシルバーカーの使用がおすすめです。
ただし、腰掛けは簡易的なものであり、座った拍子にシルバーカーが動き転倒する危険もあるため、使用する際には車輪にロックをかけるなどの注意が必要です。
3.歩行介助をする際のポイントや注意点は?
歩行介助を行うときは、以下の4点に特に注意しましょう。
服装に注意する |
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転倒のリスクを高める恐れがあるため、歩行介助に入る前に利用者の足元をしっかりチェックしましょう。裾が長すぎたり、ウエストが緩く落ちてきたりするズボンは、裾を踏んでつまずく可能性があるため注意が必要です。 また、スリッパなどかかとのない靴は脱げやすく、滑って転倒しやすいため避けたほうがよいでしょう。利用者の足のサイズに合った、軽くて滑りにくい靴や、屋内では滑り止めの付いた靴下を選ぶのがおすすめです。 |
障害物に注意する |
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屋内外問わず、歩行の妨げとなる障害物は事前に移動させておきましょう。屋内では、家電類のコードやカーペットなど少しの段差につまずく恐れがあります。普段から使用する部屋は床に物を置かないなど、一定のスペースや移動動線を確保しましょう。 屋外歩行は、雨で滑りやすかったり路面が凍結していたりすると、転倒の危険性が高まります。障害を取り除くことはできなくとも、平坦で広い道をリサーチしておくなど、利用者が歩きやすい道を事前に確認するとよいでしょう。 |
補助器具のメンテナンスを徹底する |
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長期間使用した歩行補助器具は劣化や破損が避けられないため、メンテナンスを徹底することが大切です。杖先のゴムや歩行器のタイヤの回転・すり減り、フレームの歪みなど細かな点までしっかりチェックしましょう。転倒や怪我などの事故を未然に防止するには、1か月に1度の定期メンテナンスを行うと安心です。 |
利用者のペースに合わせる |
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歩行介助を行うときは、利用者の歩き方や歩行ペースに合わせてサポートすることが重要です。病気や麻痺、身体能力によって、一人ひとり歩調が異なります。また、高齢者は短い距離でも疲れやすく、転倒やフラつきにつながる恐れがあるので、適度に休憩しながら歩行介助を行うとよいでしょう。 |
利用者の歩行にただ寄り添うだけでなく、事前準備を行うことで事故を未然に防ぎ、気持ちよく歩行してもらえるようサポートしましょう。
労災が発生しないような対策も重要
歩行介助を行う中で、介助者自身が腰痛を患ったり転倒したり、労災につながるシーンも少なくありません。
歩行介助を行うときに利用者の前に立って手を引く動きは、介助者が転倒したり階段から落ちたりなど、介護事故につながる恐れもあり、危険です。必ず立ち位置の動線を事前に確認してから、相手に歩調を合わせてゆっくり確実に歩行をサポートしましょう。
(出典:厚生労働省「高齢者介護施設における雇入れ時の安全衛生教育用パンフレット」)
まとめ
今回は、高齢者の歩行介助の方法や注意点を紹介しました。さまざまな歩行介助の方法がありますが、いずれも利用者の歩行状態や歩調に合わせて行うことが重要です。介助者と利用者の双方が息を合わせて、スムーズな歩行につなげましょう。
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※当記事は2022年3月時点の情報をもとに作成しています
▼監修者からのアドバイス
歩行介助を行う時に何よりも心配なのが転倒事故だと思います。特に背の高い男性利用者を介助する際や麻痺やパーキンソン症状などで足取りが不安定な方を介助する際は気を使うのではないでしょうか。
稀に私も自らの不注意が原因で転倒事故を招いてしまうことがあり、ひどく落ち込むと共に利用者やご家族に対する申し訳なさで胸がいっぱいになります。
こちらの記事に書かれている内容は基本ではありますが、初心者だけではなく介助に慣れている上級者も改めて意識したいものばかりだと思います。介護現場から少しでも悲しい事故が減り、双方が過ごしやすい場所となることを願ってやみません。
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