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学ぶ 介護国試過去問ドリル 2020/07/21

#国家試験#在宅#訪問介護

軽度アルツハイマー型認知症の症状は?介護時の対応方法も【国試過去問ドリル第3回】

白井孝子(東京福祉専門学校副学校長 看護師 介護支援専門員) drill_20200721_1_01.jpg

2025年には、65歳以上の高齢者の認知症患者数は約700万人で、5人に1人になると見込まれています。さらに認知症と診断された要支援・要介護認定者のうち、約8割は在宅で生活する方々です。

在宅のご利用者を支援する場合は、訪問時の限られた時間でご利用者の状況を把握し、そのご利用者にあった支援を行わなければならないという特色を持ちます。そのため、認知症に関する基本知識はもとより、どのような支援がご利用者の安心につながるかという支援技術が重要になります。

介護福祉士国家試験 過去問題 

第29回 午前 認知症の理解 問題 84 設問

Cさん(80歳、女性)は、軽度のアルツハイマー型認知症(dementia of the Alzheimer's type)と診断され、訪問介護(ホームヘルプサービス)を受けて自宅で一人暮らしをしている。几帳面な性格で、大切な物はタンスの中にしまっている。最近物忘れが多くなってきた。ある日、訪問介護員(ホームヘルパー)が訪ねると、Cさんが、「泥棒に通帳を盗まれた」と興奮して訴えてきた。部屋はきれいな状態であった。

訪問介護員(ホームヘルパー)のCさんへの対応として、最も適切なものを1つ選びなさい。

1 保管場所を忘れたのだろうと伝える。
2 気分を変えるために話題を変える。
3 一緒に通帳を探すことを提案する。
4 認知症(dementia)が進んできたための症状であることを伝える。
5 通帳の保管場所を忘れないように保管場所に目印をつけてもらう。

介護福祉士国家試験 解答と解説

正解:3

軽度のアルツハイマー型認知症の症状と介護福祉士の対応

アルツハイマー型認知症は、発症の時期を明確に判断しにくい病とされています。物忘れがゆっくりと進行してゆくことで、周囲の人が気づくという状況も多いものです。物忘れは加齢に伴い現れる症状ですが、加齢によるものと認知症による物忘れは次のような点で異なります。(表1)

表1:認知症と加齢 物忘れによる違い

加齢に伴う物忘れ 認知症に伴う物忘れ 認知症に伴う物忘れ
物忘れの範囲 出来事の一部を忘れる
(おかずの種類を忘れる)
出来事すべてを忘れる
(食べたことを忘れる)
物忘れの自覚 している していない
再認 できる(指摘され思い出す) できない(指摘されると怒ったりする)
日常生活 支障ない 支障をきたす

また、認知症のあるご利用者への対応には、認知症の症状として、中核症状=脳の障害で生じる、行動・心理症状(BPSD、周辺症状ともいう)についての知識が必要となります。図1で示すように中核症状はご利用者の性格・素質、環境・心理状態により、行動・心理症状が変化するものでもあります。

図1:認知症の中核症状と行動・心理症状の関係

介護時の軽度アルツハイマー型認知症にみられる主な中核症状の特徴

(1)記憶障害 

何度も同じ行動を繰り返すなどの症状です。記憶の低下は頻度が次第に増え、認知障害へと進行していきます。

「ものを盗られる妄想」はよく見られる症状の一つで、自分がしまい忘れたことを誰かに盗まれたと思い込み、周りの人に疑いをかけたりします。

(2)見当識障害

時間や場所についての障害では、時間→場所→人物の順にみられるとされています。

(3)実行機能障害

認知機能が障害されることで、物事の理解と判断ができなくなります。手順を踏む必要のある一連の行為ができなくなったりします。

認知症のあるご利用者の基本的な介護方法

認知症のあるご利用者の基本的な介護方法としては、介護福祉士本位の視点ではなく、ご利用者本位の視点で行うことです。

そのための留意点としては、否定せず、言葉や行動を受け入れること、話を聞き安心感を与えること、不安を取り除くために一緒に考え行動することなどがあります。

設問では、Cさんは「泥棒に通帳を盗まれた」と興奮して訴えてきている状態です。今回の正しい対応は、選択肢3「一緒に通帳を探すことを提案する。」です。

選択肢1「保管場所を忘れたのだろうと伝える」は、Cさんの訴えを否定するような対応です。Cさんの不安感を煽ってしまうかもしれません。

選択肢2「気分を変えるために話題を変える。」も同様に、Cさんの不安を煽る行動となります。先述したように、Cさんは、「泥棒に通帳を盗まれた」と訴えており、その思いを受け止めてくれるであろうと思った介護福祉士に、急に話題を変えられても受け入れることは難しいでしょう。

選択肢4「認知症(dementia)が進んできたための症状であることを伝える。」は、介護福祉士として症状が進んできているという観察は必要ですが、介護福祉士の独断でご利用者に病状を伝えてはいけません。症状の判断・診断は医師の役割です。

選択肢5「通帳の保管場所を忘れないように保管場所に目印をつけてもらう。」は、Cさんが物忘れを自覚している場合の対応なので、今回の対応としてふさわしくありません。
「泥棒に通帳を盗まれた」という訴えを否定し、ご利用者によっては、この介護福祉士は自分を否定しているという思いにさせてしまいます。

認知症のあるご利用者向け在宅支援の実務での活かし方

認知症のあるご利用者を在宅で支援することは、ご利用者の「住み慣れた家で過ごしたい」、「家族とともに過ごしたい」、「地域の中で生活したい」といった希望を実現するために必要な支援の1つです。

施設と異なり、ご利用者が自分の家で過ごすということは、可能な限り自分の役割を継続できるように支援することにつながります。

わが国では、その思いを支援することがご利用者のQOL(生活の質)を向上させることとして地域環境などを整備しています。

介護福祉士には、施策の理解や、地域ネットワークの把握、多職種との情報共有などを行い、ご利用者の思いを実現させる重要な役割
があるといえるでしょう。そのためには、介護福祉士自らが情報発信し、会議や多職種との交流などに積極的にかかわることが必要です。

介護現場で見る認知症の種類の記事を見てみる

参考:

最新「介護福祉士養成講座」13「認知症の理解」中央法規出版 2019年3月31日
新・介護福祉士養成講座12「認知症の理解」中央法規出版 2016年2月1日

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白井孝子(Takako Shirai)

東京福祉専門学校副学校長/看護師・介護支援専門員(ケアマネジャー)

聖路加国際病院、労働省(現厚生労働省)診療所勤務。小児病棟での終末期看護のあり方から在宅看護に興味を持つ。訪問看護業務に携わる中で、生活支援には保健医療福祉の連携が重要であることを体験する。その思いを形にするため、平成2年から介護福祉士養成に関わるようになる。現在東京福祉専門学校副学校長。

白井孝子の執筆・監修記事

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