第4回 マズローの欲求階層説を介護の現場で活かす考え方
文:馬淵 敦士(まぶち あつし) 「ベストウェイケアアカデミー」学校長。介護福祉士・社会福祉士・介護支援専門員(ケアマネジャー)。 心理学者マズローの「欲求階層説」は、心理学や教育学では必ず学ぶものです。また、ビジネス上においても、この理論が語られる場面に多く遭遇します。
この理論は、人の欲求を理論化したものなので、単なる心理学で終わるものではなく、対人援助職である介護の現場でも活かすことができます。
そこで、介護福祉士国家試験に実際に出題された問題を解説し、実務へ活かせる方法について考えていきます。
設問
過去問題
第32回 午後 問題97
問題 97 マズロー(Maslow, A.)の欲求階層説の所属・愛情欲求に相当するものとして、適切なものを 1 つ選びなさい。
1 生命を脅かされないこと
2 他者からの賞賛
3 自分の遺伝子の継続
4 好意がある他者との良好な関係
5 自分自身の向上
解答と解説
正解:4
マズロー(Maslow, A.)の欲求階層説とは
アメリカの心理学者マズローは、人間の欲求を5段階に分類し、ピラミッドに見立てて振り分けました。これは「欲求の5段階説」と名付けられ、下層の欲求が満たされないとその上層の欲求が生まれないという論が定義づけられています。
5段階の欲求について下からみていくと、食欲・睡眠欲など、生命維持に関わる「生理的欲求」、生命に関わるものの安全の維持を求める「安全の欲求」、他者との関わりや組織への所属を求める「所属と愛情の欲求」、他者から自身の存在について承認を求める「承認の欲求」、自身の能力を高め創作などを求める「自己実現の欲求」に分けられています。
設問にある「所属・愛情欲求」は、5段階あるうちの3段階目にあります。その下層には、「生理的欲求」「安全欲求」があります。マズローの論と照らし合わせると、この2つの欲求が満たされないと、所属・愛情欲求は生まれてきません。
各設問の回答
本問の正答として、「所属・愛情欲求」に当てはまるのは、選択肢4の「好意がある他者との良好な関係」です。
選択肢1「生命を脅かされないこと」は、「命を守りたい」と思う「安全の欲求」です。
選択肢2「他者からの賞賛」は「承認欲求」です。所属・愛情の欲求より上層にあり、「所属する集団において他者から自身の価値を認められたい」という尊重欲求に値します。
選択肢3「自分の遺伝子の継続」は、生命維持に関わる「生理的欲求」にあたります
選択肢5「自分自身の向上」は、ピラミッドの頂点の「自己実現の欲求」です。下層の4段階欲をすべて満たし、さらなる発展を目指す段階です。
実務での活かし方
それでは、具体的にマズローの欲求階層説は、介護の現場においてどのように実務に活かせるか、考えてみましょう。
例えば、介護施設のレクリエーションイベントへの参加を拒否するご利用者(Aさん)がいたとします。
Aさんがなぜレクリエーションに参加したがらないのかを探るために、「集団に参加したがらない=『所属と愛情の欲求』が満たされていない」という仮説を立ててみましょう。
次に、「所属と愛情の欲求」より下層にある「生理的欲求が満たされているか?」「安全欲求が満たされているか?」を考えます。その視点を元にミーティングを行うと、「Aさんは、入所して3カ月経っているが、なかなか職員ともなじめずにいる。『自分はここにいても大丈夫なのだろうか』という不安の声を聴いた」という職員が現れました。
この発言を受け、「Aさんは安全欲求が満たされていないかもしれない」と仮説を立てることができます。すると、施設職員がアプローチすべき点は、「レクリエーションのイベントに参加してもらうこと」ではなく、「Aさんにとって、この施設が安心・安全の場となるような支援を行うこと」が優先的順位としては上である、ということが見えてくるのです。
このように、ご利用者の言動をマズローの欲求階層説に照らし合わせ、考察してみることで、今すべき正しい支援が見つかることがあります。欲求階層のステージを意識してご利用者に関わりを持つと、支援に対して新たなアプローチを考えるきっかけになるかもしれません。
スピード転職も情報収集だけでもOK
マイナビ介護職は、あなたの転職をしっかりサポート!介護職専任のキャリアアドバイザーがカウンセリングを行います。
はじめての転職で何から進めるべきかわからない、求人だけ見てみたい、そもそも転職活動をするか迷っている場合でも、キャリアアドバイザーがアドバイスいたします。
SNSシェア