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学ぶ 介護国試過去問ドリル 2020/11/26

#国家試験#認知症

血管性認知症における感情失禁とは?症状の原因と介護時の対応【国試過去問ドリル第7回】

文:白井孝子(東京福祉専門学校副学校長 看護師 介護支援専門員) drill_20201126_1_01.jpg

血管性認知症の症状には特徴がある

今回は、血管性認知症の症状のあるご利用者への支援方法に焦点をあてました。わが国では、2025年の認知症の有病者数は700万人と予測されています。主な原因疾患の分類を平成25(2013)年の報告でみてみると、アルツハイマー型認知症(67.6%)、血管性認知症(19.5%)、レビー小体型認知症(4.3%)前頭側頭型認知症(1.0%)となっています。

認知症の原因疾患にはそれぞれの症状に特徴があるため、ご利用者と関わる際には、原因疾患は何か、その主な症状は何かなど、認知症に関する基礎知識をもつようにしましょう。その上で個々のご利用者が望む生活に対応できる支援技術を身に付けることが求められています。

過去問題

第28回 午後 問題84

Eさん(88歳、女性)は、血管性認知症(vascular dementia)で左片麻痺がある。穏やかな性格である。認知症対応型共同生活介護(グループホーム)に入居し、グループホームでの役目として、食事前の挨拶を担当している。しかし、夏の暑さが続いたとき、食事前の挨拶の後「こんなことはやらせないで」と理由もなく泣きだすことがあった。介護福祉職が受容的な態度で接していると、Eさんは笑顔で「ご苦労様」と介護福祉職に声をかけるようになった。
このようなEさんについて考えられることとして、最も適当なものを1つ選びなさい。

1 睡眠不足による感情の変化
2 認知症(dementia)の急激な進行
3 感情失禁の症状
4 暑さによる中核症状の悪化
5 職員の対応に対する怒り

解答と解説

正解:3

血管性認知症のあるご利用者への支援方法

血管性認知症とは

血管性認知症は、脳梗塞や脳出血などが原因で生じる認知症です。脳の血液循環が悪くなり、脳の一部が壊死してしまいます。MRIを使って血管性認知症患者の脳の画像を見ると、脳の壊死したところが確認できます。脳の病変部位によって多様な障害を生じます。主な症状には半身麻痺や失語症などがあります。そのほか、脳の血流が悪くなることで、感情のコントロールがうまくいかない感情失禁がみられます。高血圧や糖尿病などの生活習慣病を予防することで、脳梗塞や脳出血の発症を防ぎ、血管性認知症を回避することもできます。

ダメージがある脳のイラスト

血管認知症の脳の一例

血管性認知症の主な症状

脳の病変部位により、半身麻痺、失語症などの症状が多様にみられます。脳の病変部位により、できること・できないことの差が大きく、1日のうちでもその時の体調によって差が現れます。また、自分の病気の自覚(病識)が強いとされているので、発症前にできていたことができない自分に対して引け目を感じ、うつ傾向や自発性の低下などがみられることもあります。感情のコントロールが難しくなるため、感情の起伏が激しくなる、いわゆる感情失禁がみられます。脳梗塞などの再発作をおこすたびに、症状が悪化・進行し、階段状の機能低下(発作などをきっかけに症状が悪化し、元のように回復しない)がみられます。

今回の設問を読む限り、Eさんは左麻痺ですから、食事の際に左側を認知できないことが考えられます。食事を残すことがある場合には、配膳の際に食器の位置を工夫するような配慮が介護福祉職には求められます。

それでは、各選択肢を振り返ってみましょう。

・選択肢1「睡眠不足による感情の変化」×

問題文からは、Eさんが睡眠不足であるという情報は得られず、睡眠不足で感情に変化をきたしたと判断することはできません。認知症の症状として、睡眠障害は出やすいという知識は重要ですので、現場では知識と現状をアセスメントする能力が必要です。

・選択肢2「認知症(dementia)の急激な進行」×

Eさんの場合、急に泣き出した後に笑顔で介護福祉職に声をかけています。血管性認知症の症状では、脳梗塞などの発作を起こすことにより「階段を下りるように段階的に進行する」という特徴があります。この症状は、一度低下すると元には戻りません。ですから、認知症の急激な進行とは考えられません。

・選択肢3「感情失禁の症状」 〇

 正答です。Eさんの状態は、感情失禁であると考えられます。感情失禁は血管性認知症に特徴的な症状です。感情失禁とは、感情機能のコントロールができず、感情が溢れてしまう症状のことで、泣いたり、怒ったりしてもすぐ何事もないような状態に戻ります。

・選択肢4「暑さによる中核症状の悪化」×

認知症の中核症状とは、記憶障害、見当識障害、実行機能障害、理解判断力障害など、脳の病変による認知機能の低下を指します。中核症状は、暑さによって悪化することはありません。暑さ・寒さ、不安などの環境因子の変化によって現れる症状は、二次的に生じるとされる行動・心理症状(BPSD)の悪化が該当します。

・選択肢5「職員の対応に対する怒り」×

問題文からは、職員がその時に挨拶を強要したような状況は確認できません。問題文では、理由もなく急に泣き出すとあるため、職員の対応が原因ではなく、血管性認知症による感情失禁によるものだと考えられます。

血管性認知症のあるご利用者の介護の実務での生かし方

血管性認知症のあるご利用者と、一般の人との関わりの場面では、急に怒りだしたご利用者をみて「どうしたの、何がいけなかったの」と不安になってしまったり、「怖い人」と誤解して避けてしまったりすることもあります。認知症の方を介護する介護者でも、病気の特徴を知らなければ、こういった対応を取ってしまうこともあるでしょう。そこで、病気の特徴を知る介護職が、感情的になっているご利用者に受容的な態度で接する姿を見ていただくことは、認知症への正しい対応を知っていただくということにつながります。

介護福祉職は、ご利用者だけでなく、介護するご家族や一般の方に介護の方法を指導する、理解を促す正しい知識をお伝えする、ということも役割の1つであることを再認識しておきましょう。このような専門職ならではの対応は、介護福祉職の尊厳を守り、ご利用者やご家族に安心を与えることにもなります。

■参考文献
最新「介護福祉士養成講座」13「認知症の理解」中央法規出版 2019年3月31日
厚生労働省社会保障審議会 介護保険部会(第78回)令和元年6月20日参考資料

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白井孝子(Takako Shirai)

東京福祉専門学校副学校長/看護師・介護支援専門員(ケアマネジャー)

聖路加国際病院、労働省(現厚生労働省)診療所勤務。小児病棟での終末期看護のあり方から在宅看護に興味を持つ。訪問看護業務に携わる中で、生活支援には保健医療福祉の連携が重要であることを体験する。その思いを形にするため、平成2年から介護福祉士養成に関わるようになる。現在東京福祉専門学校副学校長。

白井孝子の執筆・監修記事

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