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学ぶ やさしい介護法律講座 2021/03/11

#介護の法律#働き方#時間外手当#残業

老健と介護職、残業代にまつわる裁判例~付加金で倍返し?【弁護士とやさしく学ぶ介護の法律ー第9回】

文:中沢信介 弁護士 第9回 介護の裁判事案解説「残業代のいろは~付加金で倍返しだ!」.jpg

こんにちは。 弁護士の中沢信介です。
今回は前回に引きつづき労働の問題を見ていくことにしましょう。
前回は法律の基本的な知識をクイズ形式で確認しました。
今回は、実際の裁判で残業代がどのような争いになっていくのかを見ていくことにしましょう。

介護職の残業代で裁判になるのはどんなケースなの?

A奈美さん 今回は前回に引き続き残業代のことを勉強するんですよね。

中沢弁護士 そうです。実際に裁判となった事例を見ていきたいと思います。
具体的には、平成22年7月15日に大阪地方裁判所で判決となった裁判例を題材としていきます。

A奈美さん 具体的にどんな人が訴えを提起したのですか。

中沢弁護士 それは医療法人Yの運営する介護老人保健施設(以下「老健Y側」といいます。)の介護職員3名(以下X1さん、X2さん、X3さんをまとめてXさんたちといいます。)が割増賃金(残業代)の請求を行った事案です。

A奈美さん 3人が同時に行ったのですね。

中沢弁護士 複数のスタッフが同時に訴えを提起することは珍しくはありません。ただ、この裁判ではXさんたちの外、看護師ら3名を含めた合計10人が同時に訴えを提起しています。

更衣室のタイムカード論争

中沢弁護士 この事件においては、タイムカードをもとに労働時間が管理されていました。
タイムカードは更衣室の前に設置されていました。
老健Y側は、Xさんたちは出勤時にタイムカードを打刻してから更衣室で着替えたり、退勤時に更衣室で着替えてからタイムカードを打刻したなどと主張しました。そこで、老健Y側はタイムカードの打刻時間から、5分ないし10分程度の労働時間を控除すべきであると主張しました。

A奈美さん 結構細かくチェックされるのですね。この老健Y側の主張は通ったのですか。

中沢弁護士 通りませんでした。というのも、Xさんたちの終業打刻は、終業時間と同じか同時刻から1分程度しかたってない打刻があったりしたため、老健Y側の主張はおかしいと判断されました。

A奈美さん そうですよね。もし老健Y側の主張が正しいのであれば、終業時間が18時なら18時を5分くらい過ぎるのが自然ですよね。さすがに定時まで各就業場所にいないってわけにはいきませんもんね、他の人の目もありますし。

中沢弁護士 その通りです。

手当はみなし残業代だという老健側の主張

中沢弁護士 老健Y側はX1さんに毎月3万円を特別手当として支給していたところ、残業代毎月3万円分は前払いしてあるとの主張をしました。

A奈美さん これが前回勉強したみなし残業代の話ですね。

中沢弁護士 そのとおりです。詳しくは前回の座学を確認してもらえればと思いますが、ただ、特別手当を渡しているだけではそれが残業代だという主張は通りません。
もっと問題になるのは、「この手当は20時間分の残業代として〇万円を支給する。」などと一見もっともらしく書いてある場合です。

A奈美さん それでも残業代の支払いと認められないのですか。

中沢弁護士 認められないケースも多々あります。この点は繰り返しになりますが、導入しているまたは検討している事業者は専門家にしっかり確認をしてもらって下さい。

付加金とは?残業代が2倍に?

中沢弁護士 今回の判決においては、付加金というものが認定されています。

A奈美さん 付加金ってなんですか。

中沢弁護士 付加金というのは、事業者が割増賃金(残業代)等を支払わない場合であって、さらにそれが悪質なときに裁判所が本来支払うべき金額と同額までを認めることができる制度です。10万円の残業代の支払いを命じるとともに、10万円の付加金を命じることで、倍返しとなるわけです。

A奈美さん そういう意味ですか。今回は何が悪質だったのですか。

中沢弁護士 老健Y側は労働基準監督署の指導がなされるまでの間、全く残業代を支払っておらず、そればかりか、労働基準監督署の指導があったのちも、独自の計算に基づく低額な残業代の支払いしか行わず、さらに、訴訟においても裁判所の和解に応じようともしなかったというのが問題視された結果です。

A奈美さん なんと...!それはむちゃくちゃですね。また、ここまででなくとも事業者側としても残業代をしっかりと支払わないとこんなペナルティーがあるのですね。

中沢弁護士 事業者も介護職の皆さんも残業代についてはしっかり専門家に相談するのが良いと思います。

A奈美さん わかりました。

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中沢信介(Shinsuke Nakazawa)

弁護士

弁護士。1984年生まれ。2013年弁護士登録。 明治大学経営学部会計学科卒業後に弁護士になることを決意。明治大学法科大学院修了。法教育にも力を入れており年間十数件程度の小・中学校や高校を訪問している。多数の医療関係の法人の顧問も務め、病院の第三者委員会の委員としての経験も有している。

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