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高齢者レクリエーション 高齢者レクリエーションのノウハウ 2023/05/17

#認知症ケアの現場から

高齢者が楽しめる棒体操(上肢・手指の運動)盛り上げ方や声かけの例も|認知症ケアの現場から(6)

文・写真/安藤祐介 写真3/サムネイル.jpg

棒体操とは、その名の通り「棒を使った体操」のこと。運動用の棒があれば実施できる手軽さが魅力です。足腰が健康な方だけでなく、車いすを使用している方や認知症がある方も参加できるため、幅広い層の利用者さんに楽しんでいただけます。

本記事では、施設内で行っている棒体操についてお伝えします。今回は前編として、棒体操の目的や効果、棒の作り方、運動時のポイント、上肢・手指の運動について解説しますので、ぜひ最後までご覧ください。

1.棒体操の目的・効果

棒体操の目的や効果は以下の通りです。

  • 身体を動かすことで、体力の維持を目指す
  • 心身に活力を与えることで、認知機能の維持につなげる
  • 楽しい時間を過ごすことで、気分転換ができる
  • 活動と休息のメリハリがついて、生活リズムが整う
  • 他の利用者さんと交流することで、孤独感が軽減される
  • 職員との信頼関係が深まり、日々の介護が円滑になる

2.棒の作り方

材料

  • 新聞紙、または塩ビパイプ(水道管などに使用されるもの)
  • カラーテープ(飾りつけをする場合)

素材選びのポイント

●新聞紙は、安価なことに加えて、使用する枚数によって太さや重さを調整できるのが長所です。利用者さんによって重い棒・軽い棒・太い棒・細い棒など好みが分かれるので、いくつかの種類を作っておいて、運動開始時にご自身の好みの棒を選んでもらうとよいでしょう。

●塩ビパイプは、ホームセンターなどで購入できます。新聞紙よりも費用はかかりますが、耐久性に優れており、長く使用しても折れ曲がりにくいのが長所です。また、パイプを切るだけで原型ができるので準備も容易です。

作り方

①新聞紙の場合は、必要な枚数を重ねて硬く丸める。塩ビパイプの場合は、パイプカッターで肩幅程度の長さに切る。



②カラーテープなどを巻く。この工程は必須ではありませんが、見た目がきれいだったり、華やかだったりするほうが、利用者さんの運動に対する意欲が向上します。


3.棒体操の実施方法

棒体操は基本的に座位姿勢で行います。普段から車いすを使用している利用者さんは、車いす座位のまま参加していただいて構いません。身体機能が高い利用者さんは、立位姿勢でも取り組めるかもしれませんが、下肢の運動時はバランスを崩しやすいので、いすに座って行うほうが安全です。

また、運動を指導する職員も、利用者さんが動きをまねしやすいように座って行うとよいでしょう。

参加人数は、利用者さんの状態にもよりますが、運動内容を指示する職員1名に対して数十名が参加するような、大集団での実施が可能です。また、身体機能が同じくらいの利用者さん数名で小集団を作ったり、個別で指導が必要な利用者さんと1対1で行ったりと、状況に応じて参加人数を調整できるのも、棒体操の利点と言えるでしょう。本記事では数十名が参加する大集団での実施を想定して、解説を進めます。

実施時のポイント・盛り上げ方

●運動内容を忠実に行うことよりも、場に参加できていることや雰囲気を楽しめていること、ご自分のできる範囲で取り組めていることを重視しましょう。例えば、認知症がある利用者さんの場合、指導する運動内容とは異なった動きをしていても、ご本人が笑顔で楽しめている様子であれば、動きを修正したりせずに、温かく見守る姿勢が大切です。

●運動時にかけ声を出してもらうと、場の一体感が高まります。声を出してもらうと、呼吸を止めずに運動ができるので、血圧の上昇を防ぐ効果もあると言われています。カウントの取り方はいろいろありますが、私の経験上で最も利用者さんが理解しやすかったのは、「1、2、3、4、5、6、7、8、9、10」と1種類の運動内容につき、10回同じ運動を繰り返すやり方でした。体力が低下した利用者さんが多い場合は、「1、2、3、4、5」とカウントを半分にして、次の運動に進むのもよいでしょう。

●運動を繰り返すだけだと、利用者さんが早々に疲れてしまったり、飽きられてしまったりすることがあります。司会進行を担当する職員は、1つひとつの運動内容に対して「生活上のどんな場面に役立つか」を伝えたり、利用者さんの笑いを誘う一言を添えたりすると、最後まで楽しく参加してもらえるでしょう。次に紹介する「棒体操の手順」では、声かけの一例も記載しておきますので、参考にしてみてください。

4.今日も元気に遊棒(あそぼう)体操|上肢の運動

①肩の上げ下げ



声かけの例「肩を上げ下げする運動を10回行います。これができると、高い所にも手が伸ばしやすくなります。ただし、五十肩の人は無理をしないでください。昔、五十肩だった人は、一生懸命やってもらって大丈夫です!それではいきます、せーの...」

②肘の曲げ伸ばし



声かけの例「肘を曲げ伸ばす運動を10回行います。これができると遠くのものに手が届きやすくなります。食事中に、前の利用者さんの食器にまで手が伸びる人もいるかもしれませんね(笑)。それではいきます、せーの...」

③お辞儀



声かけの例「棒を下に下げるお辞儀の運動を10回行います。これができないと、落としたお金を拾うことができません! 必ずできるようになってくださいね。それではいきます、せーの...」

④①~③の複合







声かけの例「次はちょっと難しいです。今まで行った棒を上げる、伸ばす、下げるという3つの動きを順番にやってみたいと思います。特に大事なのが、下げる動きです。これが上手になると、お尻が上がりやすくなって椅子からの立ち上がりも楽になります!それではいきます、せーの...」

⑤肩の回旋



声かけの例「もう一段階難しくなります。次は棒をプロペラや風車のように回す運動です。これは肩の回旋の動きといって、苦手な人が多いんです。でも、ここまで運動してきたみなさんならきっとできます! ぜひチャレンジしてみてください。それではいきます、せーの...」

⑥剣



声かけの例「剣を持つように棒を立ててください。そのまま上から下に振り下ろす運動です。学校の授業で剣道を習っていた人もいるんでしょうか。構えがさまになっています。前に人がいる場合は、たたかないように注意してくださいね! それではいきます、せーの...」

⑦やり



声かけの例「やりを持つように棒を構えてください。そのまま前に突き出す運動です。護身術でなぎなたを習っていた女性もいるみたいですね。前に一生懸命やりすぎて入れ歯が飛び出てきた人がいたので、みなさんも気を付けてくださいね(笑)。それではいきます、せーの...」

⑧肩たたき



声かけの例「ここまでありがとうございました。最後に頑張った自分の肩をねぎらうために、棒で肩たたきをしましょう。前に、肩ではなく頭を一生懸命たたいていた人がいたので、間違えないでくださいね(笑)。気持ちいいくらいの強さでお願いします。それではいきます、せーの...

(5分間程度の小休止)

5.今日も元気に遊棒(あそぼう)体操|手指の運動

①棒回し(横)



声かけの例「棒を横に持って回す運動です。すべての指を細かく動かす必要があるので、見た目より難しいかもしれません。特に、普段あまり使わない小指や薬指を動かしにくい人が多いみたいです。簡単にできる人は難易度を上げて、早い動きでやってみてください。それではいきます、せーの...」

②棒回し(縦)



声かけの例「棒を縦に持って回す運動です。雑巾を絞るときの動きに似ていますね。みなさんもこんな手の形で、雑巾を絞ってきたんじゃないでしょうか。簡単にできる人は、左右の手の位置を入れ替えたり、反対回しにチャレンジしたりしてみてください。それではいきます、せーの...」

③棒の受け渡し



声かけの例「どちらか一方の手で棒を持ち、もう片方の手と交互に受け渡す運動です。左右の手で、棒を握る動きと離す動きの両方を行う必要があります。前に、握ったまま離さない人がいましたが、それはそれで握力の運動になるのでよいことですね(笑)。しっかり運動したい人は大きく手を広げて、受け渡す距離を長くしてみてください。それではいきます、せーの...」

④手首回し



声かけの例「棒を片手で持ってください。そのままバトンのように回す運動です。これは手首が柔らかくないとなかなか難しいです。特に、利き手じゃないほうの手でやるとすごく難しいですよ。手首も、日ごろから動かしていないと硬くなりやすいので、できる範囲でやってみてください。それではいきます、せーの...」

⑤手のひら転がし



声かけの例「手を広げて、手のひらにのせた棒を転がす運動です。この運動は手のひらの繊細な感覚が求められます。やった前と後を比べると、棒をつかむ感覚がよりはっきりと感じられるかもしれません。できる人は、腕のほうまでコロコロと転がしちゃってください。それではいきます、せーの...」

⑥棒飛ばし



声かけの例「手のひらにのせた棒を、そのまま上に放り投げる運動です。左右の手の力が同じくらいでないと棒が真っすぐ飛ばないので、両方の手を協調して動かす必要があります。余裕がある人は高く投げてもいいですが、もし落としたらご自分で拾ってくださいね(笑)。それではいきます、せーの...」

⑦手のひらバランス



声かけの例「手のひらを広げて、棒を真っすぐ立ててください。そのまま10秒バランスを取ります。棒のしっぽをつかむとあまり意味がありませんので、手はパーの状態でお願いします。棒がグラグラするかもしれませんが、そのなかでバランスを取るのが大事です! 注意力や集中力が養えますよ。ただし、数を早く数えちゃダメです(笑)。それではいきます、せーの...」
※厳密には、上肢や手指以外の運動内容も含まれていますが、特定の部位を動かすことよりも利用者さんの取り組みやすさを重視しているので、その旨ご了承ください。

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安藤祐介(Yusuke Ando)

作業療法士

2007年健康科学大学を卒業。作業療法士免許を取得し、介護老人保健施設ケアセンターゆうゆうに入職。施設内では認知症専門フロアで暮らす利用者47名の生活リハビリを担当し、施設外では介護に関する講演・執筆・動画配信を行っている。

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