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高齢者レクリエーション 高齢者レクリエーションのノウハウ 2022/03/15

【医師が教える】認知症予防プログラム「コグニサイズ」の効果と実施のポイント

解説:国立長寿医療研究センター 老年医学・社会科学研究センター長 医学博士 島田裕之先生

認知症予防プログラム「コグニサイズ」で体と心をトレーニング!

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取材・文:小川裕子

老人ホームやデイサービスなどの介護施設では、認知症の予防や脳機能の維持・向上を目指して、脳トレや運動などさまざまな活動が行われています。

そうしたなかで、とりわけ注目を集めているのが「コグニサイズ」。国立長寿医療研究センターが開発した認知症予防プログラムです。

コグニサイズは、運動と脳トレの要素を組み合わせた点に特徴があり、継続して取り組むことで認知症の予防や身体機能の維持・向上などが期待できます。 ただし、コグニサイズの効果を十分に得るには、負荷量やモチベーションの保ち方など、「押さえておくべきポイント」を理解することが必要です。

そこで今回は、コグニサイズの開発に携わった島田裕之先生に、コグニサイズを楽しくかつ効果的に行うコツを教えていただきました。

認知機能の維持、改善に役立つ「コグニサイズ」とは?

現在、日本では大変なスピードで高齢化が進んでおり、それにともなって認知症の患者数も増えています。65歳以上の高齢者で認知症を発症している人の数は、2020年の時点でおよそ600万人(推計)。これが2025年には約700万人に増加し、高齢者の約5人に1人が認知症になると予測されています。また、認知症の前段階である「軽度認知障害」(MCIとも呼ばれます)の人の数も、今後急増することが予想されます。

一方で、さまざまな研究から、認知症のリスクを下げる方法についても少しずつわかってきました。たとえば、生活習慣病の予防・改善や禁煙、栄養バランスのよい食事は、認知症の予防および発症の遅延に効果があることが示唆されており、なかでも定期的な運動は、認知症のリスク低減に有効だと考えられています。

「運動をするとなぜ認知症のリスクが下がるのか、具体的なメカニズムについてはまだ明らかになっていない部分がたくさんあります。ただ、運動には、全身の血流アップのほかに、アルツハイマー型認知症の一因と考えられている慢性炎症を抑える抗炎症作用や、脳の成長に有効といわれるマイオカインの分泌など、さまざまな効果があるのは事実。こうした効果によって脳が活性化し、認知機能の維持・向上や認知症の予防につながると考えられます」

こう話すのは、国立長寿医療研究センターで老年医学・社会科学研究センター長をつとめる島田裕之先生です。とはいえ、運動が万能なのかといえば、そうではありません。認知機能は「実行機能」「注意」「記憶」などにわけられますが、運動の効果が期待できるのは、そのうちの「実行機能」と「注意」の維持・向上だけ「記憶」に対しては大きな効果がないといわれています。

しかし、記憶障害がアルツハイマー型認知症の中核的な症状であるように、認知症の予防には、「記憶」の維持・向上が不可欠。記憶の維持・向上のためには、運動以外の何が有効なのでしょうか。

パズルやクイズなどのいわゆる『脳トレ』は、記憶の維持・向上に一定の効果があるとされています。ただ、脳トレは基本的に座って行うため、運動によって得られるような実行機能、注意の維持・向上効果が期待できません。そこで私たちは、『運動と脳トレ的な要素とを組み合わせることで、認知機能全般の維持・向上、ひいては認知症の予防に役立てられないか?』と考え、『コグニサイズ』を開発したのです」

コグニサイズとは、国立長寿医療研究センターが開発した「認知症予防プログラム」のことで、その名称は英語のcognition (認知)とexercise (運動) を組み合わせた造語。いってみれば、運動と脳トレの"いいとこどり"によって生まれたプログラムというわけです。ちなみに、MCI高齢者を対象にコグニサイズを含む複合的プログラムを週1回、40回実施したところ、記憶を中心とした認知機能の維持、改善の効果が認められたそうです。

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国立長寿医療研究センター コグニサイズのパンフレットより引用

>>実践編!1人でもグループでも楽しめる「コグ二ステップ」はこちら

コグニサイズは「間違えるのが前提」。適切な負荷で楽しく続けましょう

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コグニサイズは、足踏みをしながら計算をしたり、歩きながらしりとりをしたりと、体と脳を同時にトレーニングできるのが特徴です。具体的なやり方についてはこちらに譲るとして、ここでは効果を十分に引き出すための実施方法について説明しましょう。大切なのは「正しい負荷をかけること」です。

運動は、全身を使い、軽く息が弾んで脈拍数が上昇する程度の負荷が理想。その方の健康状態などにもよりますが、目安は1分間の脈拍数120拍程度です。一方の脳の負荷については、簡単すぎても、難しすぎてもよくありません運動の方法や問題をたまに間違えてしまうくらいの難易度がおすすめです」

また、コグニサイズは「続けること」も重要です。自宅で1人で取り組む場合は、「毎朝10分やる」という具合に時間を決めて、まずは10か月間の継続を目指しましょう。

「運動は、多くの人にとってあまり楽しいものではありません。1人で続けるのはなかなか難しいでしょう。けれど、老人ホームやデイサービスなどの介護施設の仲間や、ご家族などと一緒に取り組めば、モチベーションが格段にアップして、続けやすくなるはずです。その際、介護従事者の方には、誰かが間違えるたびにみんなで盛り上がるような楽しい雰囲気づくりを心がけてほしいですね」

さらに、島田先生は「介護施設の仲間やご家族といったグループで取り組むことで、高齢者が自発的に体を動かす機会も増える」と話します。

コグニサイズは間違えることを前提としています。ただ、『間違えてもいい』と言われても、人前で間違えるのはやはり悔しいですよね。そのため、『次は間違えないようにしよう』と考えて、次の活動までにご自宅で練習する方が少なくありません。自宅で練習すれば、それだけ体を動かす機会が増えますから、心身の健康維持に非常に有効だといえるでしょう」

といっても、「認知症予防にいいみたいだから」と無理にすすめるのは禁物です。特に、身内から言われると、高齢者は「私は大丈夫」と逆に反発してしまう可能性も......。
本人があまり乗り気でない場合は、介護施設の仲間や地域の人たちなどの第三者に誘ってもらったり、本人の目のつくところにコグニサイズのパンフレットを置いてみたりして、自ら関心を持つような機会をつくるのがいいでしょう。

まとめ

最後に、島田先生から読者のみなさんに向けてのアドバイスも紹介しておきます。
「コグニサイズに取り組むのに、遅すぎるということはありません。脳も体も、使わないと機能がどんどん衰えてしまいます。けれど、コグニサイズによって脳と体に適切な負荷をかければ、何歳であっても心身の機能は向上するはずです。みんなでたくさん間違えて、いっぱい笑いながら、楽しくコグニサイズを続けてください」
介護のみらいラボでは、コグニサイズのやり方をイラスト付きで分かりやすく紹介しています。ぜひチェックしてください!

>>イラスト付きで解説!「コグニサイズ」の紹介一覧はこちら

[参考]
厚生労働省「認知症の人の将来推計について」


プロフィール

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島田 裕之(しまだ ひろゆき)

国立長寿医療研究センター
老年医学・社会科学研究センター長 医学博士

老年学、神経科学、リハビリテーション医学の観点から、高齢者の健康増進のためのプログラムの開発と効果の検証に取り組み、認知症や寝たきりの予防を目指している。『3STEPで認知症予防 コグニサイズ指導マニュアル』(医歯薬出版)、『1日5分から始める! コグニサイズ、コグニライフで認知症は自力で防げる!』(すばる舎)など著書多数

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