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仕事・スキル 介護士の常識 2022/07/14

【作業療法士監修】機械浴とは?種類と入浴介助で利用する際の注意点

構成・文/介護のみらいラボ編集部 3.jpg

介助を必要とする高齢者が利用する介護施設では、一般的な入浴設備以外に介護浴槽や機械浴などを取り入れています。介護職にとって、機械浴を利用した入浴介助は時間や負担が軽減できる方法ですが、誤った使い方が原因で問題が起こることも珍しくないため、正しい知識とやり方を身に付ける必要があります。

この記事では、機械浴の概要と種類、入浴介助で利用する際の注意点を解説します。機械浴の正しいやり方を理解して、スムーズで快適な入浴を提供しましょう。

1.機械浴とは?

機械浴とは、自力での入浴が困難な方の入浴をサポートする機器や、その機器を使った入浴方法のことです。機器の不具合や操作ミスが起こらない限り、人力のみで介助するよりも負担が少なく、安全に入浴できます。

機械浴は、ハーバード浴(特殊浴槽)とも呼ばれ、ストレッチャー浴、チェアー浴、リフト浴の3種類に分けるのが一般的です。

ストレッチャー浴

ストレッチャー浴は、ストレッチャー(簡易ベッド)に寝た状態のまま入浴できる方法です。単に機械浴という場合は、ストレッチャー浴を指すことが多く、寝台浴と呼ばれることもあります。

ストレッチャー浴に使用される機械は、事前にお湯を張るタイプと利用者が浴槽に入ってからお湯を張るタイプに分かれますが、基本的な入浴手順はほぼ同じです。また、お湯につかるタイプだけでなく、シャワータイプの機械もあります。使用する際は、利用者にタオルをかけるなど、プライバシーに十分配慮しましょう。

下記は、ストレッチャー浴のメリットとデメリットです。

メリット
座位が保持できない利用者でも入浴できる
●介助者の負担が軽減できる

デメリット
●利用者の身体機能が生かせない
●周囲の様子が分かりにくいため、利用者が不安を感じやすい

下記は、ストレッチャー浴を行う際の大まかな手順となります。

(1) 浴槽を準備する
(2) 利用者の服を脱がせ、ストレッチャーに乗ってもらう
(3) 髪や体を洗う
(4) お湯につかってもらう


チェアー浴

チェアー浴は、椅子に座ったままの状態で入浴する方法です。浴槽は開閉式のボックス型になっており、チェアー浴専用の椅子をそのまま差し込めるので、浴槽をまたいだりリフトを昇降したりする必要がありません。

下記は、チェアー浴のメリットとデメリットです。

メリット
●周囲の状況を確認できるため、利用者が安心して入浴できる
●自分で体を洗うこともでき、自立支援につながる

デメリット
●機械の駆動音や金属音を嫌がる利用者がいる
●浴槽の形状になじみがないため、リラックスできない方がいる

下記は、チェアー浴を行う際の大まかな手順となります。

(1) 利用者に服を脱いでもらう
(2) チェアー浴用の椅子に乗り換えてもらう
(3) 髪や体を洗う
(4) 椅子ごと浴槽に入れ、風呂の開閉扉を閉める
(5) 浴槽にお湯を張って入浴してもらう


リフト浴

リフト浴は、リフトの座部に座ったままの状態で入浴してもらう方法です。足を下げたまま椅子を大きく昇降させるタイプと、足を延ばして長座位のままスライドさせるタイプに分かれます。

下記は、リフト浴のメリットとデメリットです。

メリット
●自力で浴槽をまたげない方でも安全に入浴できる
●自宅などの使い慣れた浴槽でも使用でき、リラックスしやすい

デメリット
●昇降式の場合、利用者が高さに恐怖を感じることがある
●手動式の場合、介助者に多少の負担が生じる

下記は、リフト浴を行う際の大まかな手順となります。

(1) 利用者に服を脱いでもらう
(2) 髪と体を洗う
(3) リフトの座部に乗り換えてもらう
(4) リフトを座面ごと浴槽の中に移動させて、入浴してもらう


2.入浴介助における介助者の負担を軽減できる機械浴

介護の現場では、介助者の腰痛予防が課題となっていますが、介助者が腰痛を患う原因として多く挙げられるのが、入浴の介助です。

入浴介助では、ベッド→車椅子→ストレッチャー→着衣用ベッド→車椅子→ベッドなど、何度も移乗介助を行います。そのため、介助者は利用者を抱え上げる際に、前かがみや中腰のまま力を込めたり体をひねったりすることが少なくありません。

また、浴室では足元が不安定になりやすいことも、介助者の腰に負担がかかる要因です。入浴介助に機械浴を取り入れることによって、利用者の体を支える介助や無理な姿勢で行われる介助を減らし、介助者の腰痛を軽減する効果が期待できるでしょう。

高齢化が進む現在、介護の現場だけでなく、国としても介助者の腰痛予防・改善は重要な問題です。国は、最先端のテクノロジーを活用した介護ロボットの開発・普及に力を入れており、移乗支援・入浴支援ロボットを導入する施設に対しては、補助金の支給も行っています。

(出典:厚生労働省「介護業務で働く人のための腰痛予防のポイントとエクササイズ」
(出典:厚生労働省「介護ロボット-導入活用事例集2020」
(出典:厚生労働省「介護ロボットの開発・普及の促進」

3.機械浴を利用する際の注意点

機械浴は、介助者の負担を軽減しつつ利用者が快適に入浴する方法としての効果が期待できます。しかし、正しい使用法を守らないと事故に発展する可能性もあり、注意が必要です。

過去には、リフト浴の最中に安全ベルトを装着し忘れたまま湯船につからせてしまい、溺水事故につながった事例もあります。幸い命に別状はなかったものの、一歩間違えれば取り返しがつかなくなるところでした。

介助中の事故を防止するためには、事前に機械の操作方法を習熟するとともに、下記の3点に十分配慮しましょう。

●利用者の体が動かないと決めつけない
●利用者の体型に合った器具を選ぶ
●事故に注意して器具を使う

ここからは、上記の注意点について詳しく解説します。

(出典:独立行政法人福祉医療機構「第14回:リフト浴で溺水事故-安全ベルトは未装着」

体が動かない人だと決めつけない

機械浴は、利用者と介助者、双方の負担を軽減する便利な方法です。ただし、機械浴を必要としない方にまで使用してしまわないように注意が必要です。

介護現場では、利用者の残存能力をできる限り活用することが望まれます。利用者ができることまで機械や介護職が肩代わりしてしまうと、本来なら維持・向上できるはずの残存能力を奪いかねません。

だからこそ、適切に介助すれば自力で入浴できる利用者には、介助者・施設の都合で機械浴を押しつけないことが大切です。利用者の身体能力を保つことは、同時に介助者の負担を軽減することにもつながります。利用者の特性に応じた介助方法を考え、自力でできることは可能な限り行ってもらえるように環境を整えましょう。

利用者の体型に合った器具を選ぶ

機械浴用の器具は、平均的な体型の方が使用することを想定し、設計されるケースがほとんどです。しかし、実際に入浴する方の体型は個々で異なるうえに、障害によっては器具のスペースに収まらない、あるいは広すぎる(大きすぎる)ことも珍しくありません。例えば、大柄な利用者は椅子やストレッチャーから転落しやすく、小柄な利用者は浮力に負けてバランスを崩しやすいといったリスクが想定されます。

そうしたリスクを避けるには、利用者の体型や障害に合わせて対応できるように、複数の大きさ・タイプの器具を導入するとよいでしょう。複数の導入が難しい場合は、しっかりと体を固定して安全性を確保する工夫が大切です。また、利用者に対する入浴前の説明や注意喚起、入浴中の声かけも怠らないようにしましょう。

事故に注意して器具を使う

機械浴用の器具は、正しく使用すればリフトの動き方やお湯の温度などが常に安全かつ最適になるよう、メーカーが設計しています。しかし、介助者が装置の操作方法を習得していなかったり、操作確認を怠ったりすると、事故が発生する危険性が高くなります。機械浴をはじめて行う介助者や経験が少ない介助者は必ず講習を受け、正しい使用方法を身につけてから使いましょう。

また、日常的に操作していても、ミスを完全になくすことは不可能です。「使用方法やチェック項目を記載した簡易的なマニュアルを作成する」「1人ではなく複数名で実施する」など、ミスを防ぐための工夫もきちんと行ってください。

まとめ

機械浴は、自力で入浴できない方を機械で補助する入浴方法で、介助者の力だけで入浴させる場合に比べて、時間や手間が軽減できます。ただし、機械浴が不要な方にまで使ってしまうと、かえって健康を損ねる場合もあるため慎重に判断しなければなりません。

「介護のみらいラボ」では、介護職が知っておきたい介護現場での常識をはじめ、さまざまなお役立ち情報を多数掲載しています。職場でのお悩み相談やその解決法なども紹介しているので、介護について疑問や悩みをお持ちの方はぜひチェックしてみてください。

※当記事は2022年4月時点の情報をもとに作成しています

▼監修者からのアドバイス

介護施設の入浴ケアは一般家庭にもある浴槽を使ったもの(以下、個浴)と機械浴に大別できます。介護の考え方は様々ですが、私は極力最期まで個浴に入れることを目指すのが好ましい介護だと考えています。なぜなら、利用者さんが施設利用に至るまでの数十年間入り続けてきたお風呂は個浴であり、場所や形は違っても、なるべく馴染みがある環境で暮らせたほうが安心できる方が多いと思うからです。特に認知症がある方は、機械浴を見ても「お風呂」と認識することが難しく、入浴ケアを拒否する原因になることもあります。その一方で、病気や障碍の影響で機械浴を必要としている方がいるのも事実です。介護職それぞれが持っている価値観や、目の前の利用者さんが求めていることを踏まえて、個浴も機械浴もどちらの選択肢も選べる柔軟さや環境整備が必要なのだと思います。機械浴を必要としている利用者さんと出会った際は、今回の記事を参考に気持ち良いお風呂の時間を提供して頂ければ幸いです。

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安藤祐介(Yusuke Ando)

作業療法士

2007年健康科学大学を卒業。作業療法士免許を取得し、介護老人保健施設ケアセンターゆうゆうに入職。施設内では認知症専門フロアで暮らす利用者47名の生活リハビリを担当し、施設外では介護に関する講演・執筆・動画配信を行っている。

安藤祐介の執筆・監修記事

介護のみらいラボ編集部(kaigonomirailab)

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