重度訪問介護で働くのに必要な資格要件は?取得方法もあわせて解説
編集/中西紗羅(介護福祉士)
重度訪問介護とは、さまざまな障害を理由に、常時介護が必要な人に対して提供されるサービスです。重度訪問介護の利用者は年々増加傾向にあり、介護職としての需要も高まっています。
本記事では、重度訪問介護で働くために必要な資格要件と取得方法、主な仕事内容、働く魅力などについてそれぞれ解説します。
1.重度訪問介護で働くために必要な資格要件

厚生労働省の資料では、重度訪問介護で働くための資格や要件を下記のいずれかと記載しています。
- 居宅介護に従事可能な者
- 重度訪問介護従事者養成研修修了者
(参考:重度訪問介護の概要|厚生労働省)
上記の「居宅介護に従事可能な者」の例としては、次のような資格要件があります。
- 介護福祉士
- 看護師・准看護師
- 実務者研修
- 介護職員基礎研修(現在は廃止)
- 居宅介護従業者養成研修(訪問介護員養成研修)1級課程(現在は廃止)
- 居宅介護職員初任者研修
- 介護職員初任者研修
- 障害者居宅介護従業者基礎研修 など
上記をまとめると、主に介護福祉士やヘルパー経験のある人など、介護・介助の専門知識を有する人が「居宅介護に従事可能な者」に該当します。
もう一つの資格要件である「重度訪問介護従事者養成研修」は、介護福祉士や、その他の関連資格・要件を満たさない未経験者でも受講可能です。一方で、介護福祉士や、その他の関連資格・要件を満たす人は、重度訪問介護従事者養成研修を受講しなくとも、重度訪問介護に従事できます。
2.重度訪問介護とは

重度訪問介護とは、重度障害があることにより介護が必要な人が利用できるサービスです。障害者総合支援法に規定される「介護給付」のサービスに該当します。
障害者総合支援法では、重度訪問介護の利用者を下記のように定めています。
- 重度の肢体不自由者又は重度の知的障害若しくは精神障害により行動上著しい困難を有する者であって、常時介護を要する障害者
- 障害支援区分4以上に該当し、次の①又は②のいずれかに該当する者
① 二肢以上に麻痺等がある者であって、障害支援区分の認定調査項目のうち「歩行」、「移乗」、「排尿」、「排便」の全てに支援が必要だと認定されている
② 障害支援区分の認定調査項目のうち、行動関連項目等(12項目)の合計点数が10点以上である
(参考:重度訪問介護の概要|厚生労働省)
障害者総合支援法に基づくサービスを利用するには、障害者自身が「障害支援区分」の認定を受けることが必須です。区分は全部で6段階あり、区分1が軽症とされ、数字が大きくなるにつれて重症度が高くなります。
つまり、重度訪問介護は障害認定区分のなかでも、症状の重いケースの人が利用するサービスとして位置付けられています。
サービス内容は、介護者が利用者の自宅に訪問して、入浴、排せつ・食事などの介護や、調理・洗濯・掃除などの家事の支援を行うことです。生活全般に関する相談や助言、外出時における移動中の介護なども支援に含まれています。
重度訪問介護の現状
厚生労働省が令和5年9月に公表した「重度訪問介護に係る報酬・基準について」によると、重度訪問介護の月間利用者数は年々増加傾向にあります(令和4年時点:月平均利用者約12,000人)。
重度訪問介護は、通常の訪問介護とは異なり、1日3時間以上のサービス提供から開始するとされています。令和5年4月分のデータでは、全体の利用者のうち54%が1ヶ月間に150時間以上のサービス(平均して1日5時間)を受けています。
障害支援区分別にみた利用者数の割合の推移としては、区分6の者が約85%を占めており、ほとんどが障害の程度が重度な利用者となっています。
訪問介護との違い
訪問介護は訪問介護員等が、利用者(要介護者)の居宅を訪問し、入浴や排せつ、食事などの介護や調理や洗濯・掃除などの家事を提供するものと定義されています。
(参考:訪問介護の概要|厚生労働省)
サービスの内容は、下記のように定められています。
① 身体介護:入浴介助、排せつ介助、食事介助など
② 生活援助:調理、洗濯、掃除など
③ 通院等乗降介助:通院等のための乗車又は降車の介助
訪問介護は、介護者が利用者の自宅に訪問し、介護サービスを提供することは、重度訪問介護と違いはありません。しかし、それぞれのサービスが規定されている法律と、その対象者に違いがあります。
重度訪問介護 | 訪問介護 | |
---|---|---|
規定する法律 | 障害者総合支援法 | 介護保険法 |
対象者・対象要件 |
障害認定区分 (障害支援区分4以上に該当する人) |
要介護認定 (要介護1〜5の認定を受けた人) |
両者の棲み分け | 障害の重症度 | 介護の必要性 |
居宅介護との違い
居宅介護とは、重度訪問介護と同様に、障害者総合支援法にて規定されているサービスです。
居宅において、入浴、排せつ、食事などの介護や調理や洗濯、掃除などの家事を行います。また、生活に関する相談や助言、生活全般にわたる援助も行います。
(参考:障害福祉サービスの内容|厚生労働省)
居宅介護の対象者は、下記の要件を満たす人です。
- 障害支援区分が区分1以上
- 通院等介助(身体介護を伴う場合)を算定する場合は、次のいずれにも該当する支援の度合であること
① 障害支援区分が区分2以上に該当している
② 障害支援区分の認定調査項目のうち、次に掲げる状態のいずれか一つ以上に認定されている
- 歩行:全面的な支援が必要
- 移乗:見守り等の支援が必要、部分的な支援が必要、全面的な支援が必要
- 移動:見守り等の支援が必要、部分的な支援が必要、全面的な支援が必要
- 排尿:部分的な支援が必要、全面的な支援が必要
- 排便:部分的な支援が必要、全面的な支援が必要
重度訪問介護との違いは、より症状の重いケースは重度訪問介護が対象となり、軽症のケースでは居宅介護が対象となることです。
3.重度訪問介護で働くために必要な資格要件の取得方法

重度訪問介護で働くために必要な資格のうち、代表的なものを紹介します。
重度訪問介護従事者養成研修
介護福祉士などの介護関連の資格要件を満たしていない(未経験者)の場合で、重度訪問介護に従事する際に受講が必要となる研修です。全部で4つの研修課程があり、修了した課程によって提供できるサービスの範囲が異なります。
- 基礎課程
- 追加課程
- 総合課程
- 行動援護課程
基礎課程:合計10時間
基礎課程を修了すると、障害支援区分4〜5の人に対して、重度訪問介護を提供できるようになります。研修は、概ね2日間で終わります。
重度の肢体不自由者の地域生活等に関する講義 | 2時間 |
基礎的な介護技術に関する講義 | 1時間 |
基礎的な介護と重度の肢体不自由者とのコミュニケーションの技術に関する実習 | 5時間 |
外出時の介護技術に関する実習 | 2時間 |
追加課程:合計10時間
追加課程を修了すると、障害支援区分6の人に対しても重度訪問介護を提供できるようになります。基礎課程と同様に、概ね2日間で終わります。
医療的ケアを必要とする重度訪問介護利用者の障害及び支援に関する講義 | 4時間 |
コミュニケーションの技術に関する講義 | 2時間 |
緊急時の対応及び危険防止に関する講義 | 1時間 |
重度の肢体不自由者の介護サービス提供現場での実習 | 3時間 |
統合課程:合計20.5時間
基礎課程と追加課程の内容に加えて、喀痰吸引などの医療的ケアに関連した内容を学べます。統合課程の研修を開講している企業は多くあり、概ね3日〜4日ほどの研修プログラムが組まれています。
重度の肢体不自由者の地域生活等に関する講義 | 2時間 |
基礎的な介護技術に関する講義 | 1時間 |
コミュニケーションの技術に関する講義 | 2時間 |
喀痰吸引を必要とする重度障害者の障害と支援に関する講義・緊急時の対応及び危険防止に関する講義① | 3時間 |
経管栄養を必要とする重度障害者の障害と支援に関する講義・緊急時の対応及び危険防止に関する講義② | 3時間 |
喀痰吸引等に関する演習 | 1時間 |
基礎的な介護と重度の肢体不自由者とのコミュニケーションの技術に関する実習 | 3時間 |
外出時の介護技術に関する実習 | 2時間 |
重度の肢体不自由者の介護サービス提供現場での実習 | 3.5時間 |
行動障害支援課程:合計12時間
「強度行動障害支援者養成研修(基礎研修)」のカリキュラム内容と同じ研修です。本研修を修了することで、重度訪問介護を提供できるようになります。
なお、本研修を修了していなくとも、上述した基礎・追加・統合課程のどれかを修了していれば、強度行動障害の人へ重度訪問介護が提供可能です。
強度行動障害がある者の基本的理解に関する講義 | 1.5時間 |
強度行動障害に関する制度及び支援技術の基礎的な知識に関する講義 | 5時間 |
基本的な情報収集と記録等の共有に関する演習 | 1時間 |
行動障害がある者の固有のコミュニケーションの理解に関する演習 | 3時間 |
行動障害の背景にある特性の理解に関する演習 | 1.5時間 |
介護福祉士
介護福祉士は、介護系資格で唯一の国家資格です。介護福祉士の資格があれば、重度訪問介護をはじめ、さまざまな介護施設・事業所などで勤務できます。介護福祉士を取得するには、大きく4つのルートがあるため、自分に最適なものを選びましょう。
- 養成施設ルート
- 実務経験ルート
- 福祉系高校ルート
- EPAルート
実務者研修修了者
介護職として、3年以上の実務経験のある人が、介護福祉士国家試験を受験するために必要な研修です。授業の時間は450時間であり、受講修了までに最短でも6ヶ月以上の期間を要します。研修は、昼間・夜間・通信教育を問わず、さまざまな教育機関などで開講されています。
介護職員初任者研修
介護職として従事する人が、業務を遂行するうえでの最低限の知識や技術などを身につけて、基本的な介護業務ができることを目的とした研修です。
実施主体は都道府県であり、合計130時間の講義・演習プログラムを受講し、筆記試験に合格すると取得できます。受講資格の定めはなく、未経験の人が初めに受ける研修として向いています。
4.重度訪問介護の主な仕事内容

利用者の自宅に訪問して、下記のような介護ケアや支援などを行います。
- 入浴、排せつ及び食事などの介護
- 調理、洗濯及び掃除などの家事
- その他生活全般にわたる援助
- 外出時における移動中の介護
- 入院中の病院等における意思疎通支援(令和元年10月追加) など
- その他、日常生活に生じるさまざまな介護の事態に対応するための見守りなどの支援を含む
在宅だけではなく、医療機関に入院している利用者に対する支援が含まれていることも、居宅介護とは異なる点です。
また、「喀痰吸引等研修」を修了し、「認定特定行為業務従事者」として認定されることで、医療的ケアのなかでも「たんの吸引」や「経管栄養の処置」などが可能になります。
5.重度訪問介護で働く魅力

重度訪問介護で働く魅力を紹介します。
介護の知識や技術を高められる
重度の障害を抱えた人への介護や支援では、利用者の抱える障害特性に対する理解も必要です。従来の介護ケアに加えて、「たんの吸引」「経管栄養の処置」などの医療ケアが求められることもあります。そのため、これまで以上に高い介護スキルが求められるため、介護専門職としてのスキルアップ・レベルアップが目指せます。
一人ひとりに寄り添ったケアができる
重度訪問介護では、1日3時間以上、平均すると5時間程度の介護ケアを行います。利用者一人ひとりにつきっきりな介護となるため、おのずとその人に寄り添ったケアができます。利用者それぞれの背景を理解しながら、最適な介護ケアを実践したい場合には、重度訪問介護は最適といえるでしょう。
利用者やその家族との関係性を築きながら仕事ができる
利用者一人ひとりに費やす時間が多いため、利用者や、その家族とコミュニケーションを取る時間もおのずと多くなります。一度に大勢の入居者の対応に追われることはなく、利用者やその家族との関係性を構築しながら仕事ができます。
キャリアの幅を広げられる
重度訪問介護事業所の数や、サービス利用者の数は年々増加傾向にあります。少子高齢化社会の日本においては、今後もさらなる需要が見込めるでしょう。重度訪問介護の経験やスキルを身につけることで、キャリアの選択肢をさらに広げることにもつながります。
まとめ

重度訪問介護に従事するには、介護福祉士などの介護系の資格要件を満たす、あるいは重度訪問介護従事者養成研修などの研修課程を修了することが求められます。
重度訪問介護には、介護職としての大変さがある一方で、一人の利用者に長い時間を費やし、最適な介護ケアを実践できる魅力があります。自身の介護スキルをさらに高める、キャリアの選択肢を広げたいと思う人は、重度訪問介護での勤務を一つの選択肢として考えてみてはいかがでしょうか。
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