医療ソーシャルワーカーはどんな相談を受ける?実際の相談例を紹介
文/倉元せんり(社会福祉士)
医療現場で患者さんや家族の不安に寄り添い、課題解決のサポートをする医療ソーシャルワーカー(以下、MSW)。MSWを目指す方のなかには、「どんな相談を受けるの?」「実際の仕事内容は?」といった疑問をお持ちの方も多いのではないでしょうか。
本記事では、筆者の8年間の実務経験をもとに、MSWが受ける相談例について解説します。経済的不安の解消から退院後の生活支援まで、MSWがどのように患者さんをサポートするのか、リアルな現場の姿をお伝えしますので、ぜひ最後までご覧ください。
1.医療ソーシャルワーカーの仕事内容
MSWは、医療機関で患者さんやその家族の困りごとを聞き、福祉の専門知識を生かして適切なサポートを行う仕事です。MSWの仕事内容は「医療ソーシャルワーカー業務指針」(厚生労働省健康局長通知)によって、以下の6つに分けられています。
- 療養中の心理的・社会的問題の解決、調整援助
- 退院援助
- 社会復帰援助
- 受診・受療援助
- 経済的問題の解決、調整援助
- 地域活動(地域の保健医療福祉システムづくりに参画)
MSWの業務は、基本的に患者さんや家族との面接から始まります。面接では、1人ひとりの状況やニーズを丁寧に確認し、必要な支援を見極めていきます。
例えば、退院後の生活に関わる相談であれば、医師や看護師、リハビリスタッフなどの他職種と連携し、生活再建に向けて包括的にサポートするのがMSWの役割です。
患者さんのなかには、経済的困窮や老々介護、住居確保の困難さなど、複数の課題を持つ方も少なくありません。また、病気の発症をきっかけに、これまで潜在化していた家族関係の希薄さや、社会的孤立などの問題が表面化することもあります。
MSWは、どのような環境におかれている方であっても、さまざまな制度を利用したり、地域の関連機関と連携したりしながら、患者さんにとって必要な支援を提供します。
2.医療ソーシャルワーカーにはどんな相談が多い?
MSWは、主に次のような相談を受けます。
- 医療費や生活費など経済面の不安
- 退院後の生活に対する不安
- 転院先の紹介依頼
- 利用できる制度に関する相談
実際の相談例を交えて、1つずつ解説します。
医療費や生活費など経済面の不安
MSWには、病気の診断直後の患者さんから、経済面の不安に関する相談が多く寄せられます。その理由は、突然の病気によって「医療費を支払えるか」「仕事はいつ復帰できるか」といった不安を持つ方が多いためです。
特に、「入院費はいくらかかるか」はよく聞かれる相談で、経済面に不安があることで治療やリハビリに専念できなかったり、必要な治療を受けずに退院を希望したりする患者さんもいます。過去に担当させていただいた方のなかにも「お金がないから入院できない」と相談にこられた方がいました。
このような場合、MSWは患者さんが治療に専念できるようにサポートする必要があります。例えば、所得に応じて医療費の自己負担額が一定額に抑えられる「高額療養費制度」の活用もその1つ。それによって、入院費のめどが立ち、安心して治療を受けられる可能性があります。
休職中の収入減を心配する現役世代の方には「傷病手当金」、指定難病の診断を受けた方には「特定医療費受給者証」について説明するなど、その方に合わせた情報提供も大切です。
MSWは直接治療には携わりませんが、医療チームの一員として患者さんの経済的不安を取り除き、治療に専念できる環境を整えることで、回復をサポートしています。
退院後の生活に対する不安
経済面の不安と並んで多いのは、退院後の生活に関する相談です。患者さんやその家族から、次のような相談を多く受けます。
- 後遺症があるけれど自宅に帰れるだろうか
- 自宅で生活できるように手すりやスロープをつけたい
- 介護保険サービスを利用してみたい
- 家族の介護ができるか心配
以前、筆者が担当していた方で、脳梗塞で体に麻痺が残り、日常生活に介助が必要となったAさんという方がいました。Aさんは、もともと認知症の奥さんを介護しながら生活していましたが、発症後は自身の身の回りのこともできない状態に。娘さんは「両親そろって施設に入ってもらったほうがいいのか」と不安を抱えていましたが、Aさんは一貫して「自宅に帰りたい」と希望していました。
このように、MSWは複数の課題を抱えた方の相談を多く受けます。Aさんのケースでは、まず他職種(医師や看護師、リハビリスタッフなど)と協議し、Aさん夫婦が必要な支援を受けながら、安全に自宅生活を継続できる可能性を模索しました。その結果、娘さんの支援や介護保険サービスの利用によって、在宅復帰のめどが立ち、退院の調整を進めることになりました。
その場合の具体的なMSWの役割には、ケアマネジャーの選定、自宅の手すり設置といった環境調整、退院後に利用する介護サービス事業者とのカンファレンス設定などがあります。そうやってさまざまな支援を行い、患者さんが治療後も安心して生活を続けられるよう橋渡しするのも、MSWの重要な役割なのです。
転院先の紹介依頼
入院期間が限られている急性期病院のMSWは、治療後すぐに在宅復帰できない患者さんから、「リハビリを続けられる病院を紹介してほしい」という相談を受けるケースがあります。また、「家には帰れないので、長く入院できる病院に移りたい」といった相談も少なくありません。
こうした場合、MSWは患者さんの身体状況を詳細に把握した上で、状態に合った転院先を選定する必要があります。そして、転院先の病院に患者さんの状況を正確に伝え、転院後も適切な治療やリハビリが継続されるよう調整します。
転院先の選定は患者さんの回復に大きく影響するため、日頃から地域の医療機関の特性や受け入れ状況を把握しておくことが大切です。状態に合わない転院先を選んで、患者さんに不利益が生じることのないよう、MSWは常に地域の社会資源について情報収集し、最適な転院先を提案できるように備えなくてはなりません。
利用できる制度に関する相談
「経済的負担を減らせる制度を知りたい」という相談も多く寄せられます。
経済的負担を軽減するにあたっては、障害者手帳や障害年金制度といった社会保障制度から、オムツ代の医療費控除のような特定のニーズに対応する制度まで、さまざまな選択肢が考えられます。
そうしたなかで、患者さんが利用できる制度について情報提供し、申請をサポートすることは、MSWの重要な役割の1つです。過去には「障害者手帳の対象になるなんて知らなかった。早く申請しておけば交通費の助成が受けられたのに」と話された患者さんもいました。
また、多くの制度申請には医師の診断書が必要なため、適切なタイミングで医師に依頼するのもMSWの役割です。各制度の申請時期や必要な診断書の内容を把握しておくことは、患者さんが利用できる制度を最大限活用することにつながるでしょう。
まとめ:医療ソーシャルワーカーが受ける相談内容はさまざま
MSWは、患者さんやその家族が、病気によって抱えるさまざまな不安や困りごとの相談に対応します。相談を受けた際は、医療費の負担軽減や退院後の生活支援、転院先の調整、制度活用の説明など、ニーズに応じたきめ細かい支援が求められます。
患者さんや家族は、病気によって精神的な不安を抱えている場合も多く、その気持ちに寄り添いながら必要な情報提供や支援につなげていくのが、MSWの重要な役割です。そのためにも、福祉の専門知識を活用しながら、他職種や地域の社会資源とうまく連携することが大切になるでしょう。
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