事故報告書はどう書く? 書き方とポイントを徹底解説
文/まさ(理学療法士)
介護の現場では、利用者さんの安全を守ることが最優先事項です。しかし、どれだけ注意しても、転倒や誤薬、ヒヤリハットなどの事故を完全に防ぐことはできません。だからこそ、「事故が起こったときにどういった対応をするか」は、とても大事です。適切に対応すれば、利用者さんやその家族との信頼関係を保てるだけでなく、事業所の介護サービスの質を向上させることにもつながるでしょう。
適切な対応を考える際に、重要な役割を果たすのは事故報告書です。事故報告書は単なる記録ではなく、事故の背景や原因を洗い出し、再発防止策を考えるための貴重な書類だからです。そこで今回は、介護職の経験が浅い方でもわかりやすいように、事故報告書の基本的な役割や作成手順、具体的な書き方、注意点などを解説します。ぜひ最後までご覧ください。
1.事故報告書とは?
介護現場における事故報告書とは、介護事故が発生したときに、その詳細を報告するための書類です。
介護現場では、利用者さんの安全を守ることが何より重要ですが、ときに転倒や転落、誤薬、備品破損などの事故が起こることがあります。大きな事故には至らないものの、その危険性があったりヒヤリハットが発生したりすることもあります。
そのようなときに作成されるのが、事故報告書です。
事故報告書が必要な場面
介護現場では、次のような場合に事故報告書を提出する必要があります。
・事故の再発防止が必要な場合
事故の大きさに関係なく、事故の再発防止を防ぐことを目的に事故報告書を作成し、原因分析や再発防止策を検討します。
・医療行為に関連する事故
誤薬のような誤った医療行為が行われた場合や、医療機関への搬送が必要な状況になった場合も事故報告書が必要です。
・重篤な傷害を伴う事故
転倒や事故によって、利用者さんが骨折、外傷などの重篤な傷害を負った場合や、死亡に至った場合も事故報告書の作成が必要です。
なお、「死亡に至った事故」「医師(施設の勤務医、配置医を含む)の診断を受け投薬、処置等何らかの治療が必要となった事故」の場合は、国が定める事故報告書の様式に記載して、5日以内に市区町村へ提出することが義務づけられています。
義務化されている以外の事故については、自治体によって報告義務の有無が異なるため、勤務先のある自治体がどのような対応になっているかを、事前に理解しておきましょう。
事故報告書の目的
そもそも、事故報告書はなぜ作成しなければいけないのでしょうか? 主な目的は、以下の3つに大分されます。
・事故の再発を予防する
事故報告書を作成することで、事故が発生するに至った状況を整理したり、その後の対応、事故が発生した原因を見直したりできます。また、事故をしっかり見直すことで、「同様の状況になったとき、事故を発生させないためにはどのような対策が必要か」「何に注意するべきか」といった、具体的な対策が講じられるようになります。
事故というのは、大きいものであれ小さいものであれ、原因が同じだったりするものです。例えば、介護職員が目を離しているすきに、歩けない利用者さんが立ち上がって転倒した場合、骨折をしてしまったら大きな事故になります。一方で、打撲した程度であれば大きな事故とはいえません。
しかし、事故が発生したそもそもの原因は、「介護職員が目を離してしまったこと」にあります。つまり、「大きな事故だから再発予防が必要」ということではなく、事故の大小にかかわらず、1つひとつの事例に対して丁寧に向き合うことが重要なのです。
なお、事故報告書の内容は、事業所全体に周知させる必要があります。ほかの職員がかかわった事故報告書を読み、「自分ならどのように行動していただろう」と考えることで、多く学びが得られるでしょう。
・事故の原因を分析する
介護事故は、職員の不注意で発生する場合もありますが、事業所のシステム自体に問題があるケースも見られます。同じような事故報告書が多く提出されるようであれば、職員だけでなくシステムを見直す必要があるかもしれません。
システムの見直しは、小さな事故やヒヤリハットが起こった時点で考えるようにしましょう。重大な事故を防ぐには、「ハインリッヒの法則」の教訓を生かすことが大事だからです。
ハインリッヒの法則というのは、「1件の重大な事故の背後には、29件の軽微な事故が隠れており、さらにその背景には300件のさまざまな危険性(ヒヤリハット)がある」という、労働災害における経験則のこと。つまり、小さな事故やヒヤリハットのときにシステムの見直しをしなければ、いつか大きな事故につながってしまう可能性があるというわけです。
小さな事故やヒヤリハットが起こったときは、この法則を意識しながら事業所全体のシステムを見直し、適切な対策を講じる必要があります。
・事故の記録・証拠としての役割
事故の詳細を正確に記録しておけば、その後、いつでも事故の検証ができるようになります。記録があれば、自治体や利用者家族への説明もスムーズになり、結果として信頼関係の維持にもつながるでしょう。
大きい事故の場合は訴訟に発展する可能性もあるため、事業所や職員を守る意味でも、事故報告書をしっかりと作成しておくことが重要です。
2.事故報告書の作成手順
事故報告書は、発生した事実を正確に記録する書類であり、再発防止のための重要な書類でもあります。ここでは、事故発生から報告書の完成までの基本的な手順を解説します。
厚生労働省が公開している書式を使用する
事故報告書の書式は、厚生労働省が公開しているものを使うのがよいでしょう。厚生労働省の書式は、以下の9要素を記載するフォーマットになっているため、詳細を一覧で確認できます。
1.事故状況
2.事業所の概要
3.対象者
4.事故の概要
5.事故発生時の対応
6.事故発生後の状況
7.事故の原因分析
8.再発防止策
9.その他特記事項
なお、市区町村ごとに事故報告書が用意されていることもあるため、どの書式を利用するかは、事前に事業所に確認しておきましょう。
事故の概要を詳細に記載する
「1.事故状況~3.対象者」までは、書類に沿って作成すれば、大きな問題はないはずです。
事故報告書を作成するにあたって、最も重要なのは、事故の概要をできるだけ詳細に記載することです。内容は、記述式で記載するようになっているため、わかりやすくかつ具体的に記載することを意識しましょう。
この部分を詳細に記載することで、「なぜ事故が発生したのか」だけでなく、「今後の対策」や「事業所全体のシステムの問題」など、さまざまな内容を見直すことができます。
事故発生時の対応
事故発生時に、「利用者さんに対してどのような行動・対応をしたのか」だけでなく、周囲のスタッフなどに対してとった行動・対応についても、詳しく記載しましょう。
事故発生後の状況
事故発生後の利用者さんの状況、ご家族などへの連絡状況を記載します。ご家族などへの報告の部分には、後から認識のズレが生じないように、報告した年月日を正確に記入するようにしてください。
事故の原因分析
事故の原因分析を行う際は、以下の3つに分けて記載しましょう。
① 本人要因
「歩くのに杖が必要な状態にもかかわらず、杖を使用せずに歩いたため転倒した」などのように、利用者さんにどのような原因があったのかを分析し、記載します。
② 職員要因
「歩行時に介助が必要な利用者さんにもかかわらず、そばを離れてしまった」などのように、スタッフにどのような原因があったのかを分析し、記載します。
③ 環境要因
「利用者さんが歩いていた地面が濡れて滑りやすくなっていた」などのように、周囲や事業所の環境に原因がなかったかを分析し、記載します。
再発防止策
同じような事故を発生させないためにも、再発防止策をしっかり考えましょう。その際に、「事故の原因に対応した再発防止策になっているか」「実際に運用・実現できる再発防止策か」「実施したときに効果がある再発防止策か」などを考えることが重要です。
3.事故報告書の書き方・例文
ここでは、実際の事故報告書の書き方を例文で紹介します。
転倒事故の事例
タイトル | 居室内での転倒事故 |
発生日 | 〇年11月22日 14:30 |
発生場所 | 利用者(○○様)の居室 |
関係者 | 利用者(○○様)、職員A、職員B |
事故の経緯 |
午後の休憩時間中に、利用者○○様が居室内で椅子から立ち上がろうとした際、バランスを崩して転倒。 職員Aが近くで対応中だったため、介助したものの、支えきれずそのまま床に尻もちをつかれる形となった。その後、職員Bがすぐに現場に駆けつけ、痛みの確認などの安全確認を実施した。 |
原因 | 椅子の高さが利用者様に適していなかった可能性がある。また、利用者○○様は午前中に入浴があったため、少し疲労感があった。 |
対応 |
・利用者様の状態確認(痛みなし) ・医師による簡単な応急チェックを実施(外傷なし) ・家族に電話で状況を報告(14:50) |
再発防止策 | 利用者様専用の適切な椅子を再度検討する。また、座った状態から立つ際など動作を行う際は、スタッフが必ずそばで介助を行うよう再度徹底する。 |
誤薬事故の例
タイトル | 薬の投与ミス |
発生日 | 〇年12月1日 08:00 |
発生場所 | 食堂内(朝食時) |
関係者 | 利用者(○○様)、職員C |
事故の経緯 | 朝食時に職員Cが配薬する際、隣のテーブルに座っていた利用者○○様に、他の利用者様の薬を誤って手渡した。もう一方の利用者様に薬を渡す際、そのことに気づき即座に対応するも、利用者○○様は薬を飲み終えていた。 |
原因 | 配薬手順の確認不足により、薬の管理があいまいだった。ラベルの確認が徹底されていなかった。 |
対応 |
・医師へ報告し、ただちに利用者様の状態を観察(体調の変化なし)。 ・家族に状況を報告し謝罪。 |
再発防止策 | 配薬時に、二重確認を実施するルールを追加した。また、薬を管理するトレーに名前を明記し、スタッフ間での確認体制を整備する。 |
設備破損の例
タイトル | 車椅子ブレーキ故障による危険事案 |
発生日 | 〇年11月30日 11:00 |
発生場所 | 施設内の廊下 |
関係者 | 利用者(○○様)、職員D |
事故の経緯 | 職員Dと利用者○○様が車椅子で移動中、廊下で一時停止しようとした際に車椅子のブレーキが作動せず、軽い衝突事故が発生。利用者○○様にけがはなく、備品にも大きな損傷は確認されなかった。 |
原因 | 車椅子のメンテナンスが定期的に行われていなかったことが原因と考えられる。 |
対応 |
・利用者○○様の健康状態を細かく確認する(異常なし)。 ・問題の車椅子を施設内で使用停止とし、修理手配を実施。 |
再発防止策 | 定期的な車椅子のメンテナンススケジュールを策定し、月に一度の点検を行う。 |
4.事故報告書を書く際の注意点
事故報告書は、以下の内容に注意して記載することが重要です。
客観的な事実のみを記載する
事故の発生にかかわった当事者の場合、「利用者さんが勝手に動いた」「いつもは問題なかった」など、主観的・感情的な内容を記載したくなるかもしれません。しかし、事故報告書は個人の反省文ではなく、発生した事故を通して、同様の事故の発生を防ぐことを目的としています。また、事故報告書は、介護サービスの向上や質の改善を図るためのきっかけにもなります。
だからこそ、事後が発生した際の経緯、利用者・周囲の状況といった事故状況・事故内容を「客観的」に記載することが大切です。
「5W1H」を意識する
When(いつ)、Who(誰が)、Where(どこで)、What(何を)、Why(なぜ)、How(どのようにして)の頭文字をとった「5W1H」を意識して記載することで、事実をわかりやすく伝えることができます。
専門的・難しい用語は使用しない
事故報告書は、必ずしも専門的な知識を持っている人が読むわけではありません。専門的かつ難しい用語は、できるだけ使用しないで作成しましょう。
介護現場の事故は、全スタッフが当事者になる可能性があります。同じ職場や作業環境で働いている以上、過去の事故内容の詳細が正確に伝わっていなければ、再度似たような事例が発生してしまうかもしれません。
全職員に事故報告書の内容を浸透させるためにも、誰が読んでも事故の内容を理解できるように作成することが大事です。
個人情報保護を配慮する
事故報告書には利用者さんや関係者などの多くの情報が含まれるため、個人情報に注意しながら作成しましょう。
事故報告書に個人情報を記載する際には、必要な範囲の情報だけを記載し、不要な個人情報の記載はしないようにします。特に、氏名・住所・連絡先などのように個人を特定できる情報には十分な注意が必要です。
まとめ:事故報告書をきっかけに介護の質を高めよう
介護現場における事故報告書は、反省文ではなく「なぜ事故が発生したのか」「どのような対策を行えばよかったのか」などを丁寧に振り返り、同じような事故を発生させないための重要な書類です。
今回紹介したポイントを意識して事故報告書を作成することで、ご自身はもちろん事業所の介護の質も高められます。当記事を参考にしながら、小さな内容でも積極的に事故報告書を提出し、事業所全体の介護の質を向上させていきましょう。
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