認知症ケア専門士とは? 資格の取得方法やメリット・活用場面などを解説
文/三田裕一(理学療法士・認知症ケア専門士)
認知症ケアの現場にいると、「認知症の方が怒りやすくて困っている」「なんでこんなことをするのだろう」「トラブルが多くて大変」などと思うこともあることでしょう。しかし、認知症高齢者が急増している現在は、認知症の方を支える人材が不可欠。そうした状況を受けて、「認知症ケア」に関心を持つ医療・介護職の方も増えています。
認知症ケアを学ぶ資格はいくつかありますが、その1つである「認知症ケア専門士」は、認知症の症状や進行に応じた対応方法を専門的に学ぶ資格として知られています。
本記事では、認知症ケア専門士にスポットを当てて、取得方法や学べる内容、資格を生かせる場面などについて解説します。現場で認知症ケアに携わる方はもちろん、今後キャリアアップを目指していきたい方も、ぜひ参考にしてください。
- 目次
- 1.認知症ケア専門士とは
- 認知症ケア専門士の概要
- 資格取得者の役割
- 2.認知症ケア専門士の資格の取得方法
- 受験資格
- 試験内容
- 資格取得までの流れ
- 3.認知症ケア専門士の資格取得で学べること
- 認知症の基礎知識
- 実践的なケア方法
- 社会資源の活用と倫理的配慮
- 4.認知症ケア専門士取得のメリット
- ケアの質向上
- キャリアアップ
- 5.認知症ケア専門士の資格を活かせる場面
- チームケアの場面
- 個別ケアの場面
- 6.その他の認知症ケア関連資格
- 認知症ケア准専門士・認知症ケア上級専門士
- 認知症介護基礎研修・認知症介護実践者研修
- 認知症予防専門士
- 認知症ケア指導管理士
- 認知症介助士
- まとめ:認知症の方の尊厳のある生活の実現のためにも取得しておきたい資格
1.認知症ケア専門士とは
はじめに、認知症ケア専門士の資格概要と役割について見ていきましょう。
認知症ケア専門士の概要
「認知症ケア専門士」とは、一般社団法人日本認知症ケア学会が認定する民間資格で、「認知症ケアに対する優れた知識と高度な技能、倫理観を備えた専門技術士を養成し、わが国の認知症ケア技術の向上に貢献すること」を目的に設立されました。
認知症ケア専門士は、認知症ケアに取り組む介護職員、看護師、リハビリ職などを対象としており、認知症の症状や進行度に応じたケアの知識、倫理感、社会資源などについて学びます。高齢者が急増し、認知症ケアに関する需要が高まるなか、プロフェッショナルの育成を担う資格として、今後ますます注目度が高まるでしょう。
資格取得者の役割
認知症ケア専門士の有資格者は、現場でリーダー的な役割を果たし、ほかの介護職員や家族からの相談に対応することで、チームのケア力向上に貢献します。また、施設内で認知症ケアに関する勉強会を開催したり、認知症の方にかかわるトラブル防止に努めたりするのも大事な役割です。
2.認知症ケア専門士の資格の取得方法
認知症ケア専門士の資格を取得するには、いくつかの条件や段階、試験などがあります。そのためハードルがやや高く感じられますが、その分、資格取得者の専門性も高いといえるでしょう。5年ごとに資格の更新が必要な点も、質の高い資格であることの証です。
それでは認知症ケア専門士の資格取得方法について、受験資格、試験内容、手続きなどを見ていきましょう。
受験資格
認知症ケア専門士の受験資格を得るには、「認知症ケアに関する施設、団体、機関等において3年以上の実務経験を有すること」が求められます。認知症ケア学会が公表している受験資格に関する確認事項は、次の通りです。
<確認事項>
1. 認知症ケアの実務経験を証明する施設、団体、機関等は、認知症専門である必要はありません。また、職種や職務内容についても、認知症ケアに携わっている限り制限はありません。
2. 介護福祉士や介護支援専門員等、資格の有無にかかわらず受験が可能です。
3. 介護福祉士や介護支援専門員等、有資格者であっても認知症ケア実務経験証明書の提出が必要となります。
4. ボランティア活動、実習等は、認知症ケアの実務経験に含まれません。
5. 再受験者は過去の試験において発行された結果通知にて、合否および合格有効期限(各分野の合格の有効期間は5年間)を確認し、必要な分野の受験申請を行ってください。
参考:一般社団法人日本認知症ケア学会「認知症ケア専門士認定試験」
試験内容
認知症ケア専門士の試験には、1次試験と2次試験があります。以下では、それぞれの試験内容や合格基準、受験料を紹介します。
【試験内容の概要】
試験名 | 第1次試験 | 第2次試験 |
---|---|---|
形式 |
Web試験 (五者択一) |
論述試験 |
内容 | 認知症に関する医学的知識やケア技術理論など4分野 | 認知症ケア事例(3題)に対する論述 |
合格基準 | 各分野で50問ずつ出題され、すべて70%以上正答すること | 論述の評価で5つの要件を満たすこと |
受験料 | 3,000円×受験分野数(4分野で12,000円) | 8,000円 |
1次試験では、認知症に関する医学的な知識やケア技術の知識・理論などが問われ、例年、以下の4分野から出題されています。
1. 認知症ケアの基礎
2. 認知症ケアの実践Ⅰ:総論
3. 認知症ケアの実践Ⅱ:各論
4. 認知症ケアにおける社会資源
なお、これらの問題は「認知症ケア標準テキスト」に準じて出題されています。参考書や問題集も市販されていますので、自分に合ったテキストで学ぶとよいでしょう。
2次試験では、論述の評価により以下の5つの要件を満たした者を合格としています。
1. 適切なアセスメントの視点を有している者
2. 認知症を理解している者
3. 適切な介護計画を立てられる者
4. 制度および社会資源を理解している者
5. 認知症の人の倫理的課題を理解している者
資格取得までの流れ
資格取得までの流れは、次の通りです。
【第1次試験】
「受験の手引き」を購入
↓
受験申請
↓
第1次試験(WEB試験)
↓
合格発表
【合格者のみ第2次試験へ】
受験申請
↓
第2次試験(論述試験)
↓
合格発表
【合格者のみ登録申請へ】
登録申請(倫理研修)
↓
専門士資格取得
出典:一般社団法人日本認知症ケア学会「認知症ケア専門士認定試験」
3.認知症ケア専門士の資格取得で学べること
認知症ケア専門士の資格を取得するにあたって、次のことが学べます。
認知症の基礎知識
資格取得の過程では、認知症の病態や種類、進行に伴う症状、認知症者のリハビリテーションなどを包括的に学びます。それによって、アルツハイマー型認知症、前頭側頭型認知症、レビー小体型認知症といった病態の特徴と、それぞれに適切なケアを提供するための知識が身につくでしょう。
実践的なケア方法
有資格者には実践的なスキルが求められるため、徘徊、暴言・暴力、不安、抑うつ、幻覚といったBPSD(行動・心理症状)の発生メカニズムや、対応方法などについても学びます。あわせて、リハビリテーションや非薬物療法(音楽療法や回想法)、環境調整のポイントなど、利用者の能力や安心感を引き出すための知識・技術も学習します。こうした知識は、認知症ケアにおける実践力の向上につながるでしょう。
社会資源の活用と倫理的配慮
認知症ケアにおいては、家族への支援や社会資源の活用も重要な要素となります。社会資源・制度について体系的に学ぶことで、家族への心理的フォローや、意思決定を尊重するための倫理的視点といった包括的な支援能力が身につくでしょう。
4.認知症ケア専門士取得のメリット
認知症ケア専門士を取得すると、以下のようなメリットがあります。
ケアの質向上
資格取得によって認知症への理解が深まり、より具体的な対応が可能になります。
私自身がレビー小体型認知症の方のケアを担当したとき、窓に反射する置物の影が人に見えていたため、カーテンを閉めるようにしたところ、幻視症状による不穏が軽減できました。それが実践できたのは、認知症ケア専門士の資格を取得する際、レビー小体型認知症について学んでいたからです。
このように、認知症ケア専門士の資格取得を通じて学んだ知識を活用することで、ケアの質の向上につながります。
キャリアアップ
資格を取得することで、医療・介護施設で役職についたり、研修会の講師を務めたりする機会が広がります。
私は資格取得後、職場の研修会や地域の認知症予防講座などで講師を務め、職場での評価が高まりました。前職も現職も、認知症ケア専門士の有資格者には手当がついたため、収入アップにもつながっています。
また、認知症ケア学会に登録することで、学会誌への論文投稿や学会での発表機会が得られるので、学術的分野でのキャリアアップも目指せます。
5.認知症ケア専門士の資格を生かせる場面
認知症ケア専門士の資格は、以下のような場面で生かせます。
チームケアの場面
認知症ケア専門士は、多職種連携が求められる医療・介護現場において、リーダーシップを発揮できます。こちらも私自身の事例ですが、易怒性のある認知症者を担当した際、BPSDの課題分析を行い、具体的な声のかけ方などをチームで共有したことで、支援者間の対応のばらつきが改善。怒ってしまう場面を減らせた経験があります。
対象者の安心はもちろんのこと、かかわる職員の安心感や危険の回避、支援時間の効率化といった効果も得られました。
個別ケアの場面
同じアルツハイマー型認知症という診断名でも、生活歴や環境といった人生の背景は1人ひとり異なります。そのため認知症ケアでは、その方特有の背景に着目した個別ケアが、不安の軽減や意欲の向上につながります。
例えば、学校の先生をしていた方に対して、生徒のように教えてもらう場面をつくり出したところ、日常生活の意欲が増し、ケアがスムーズになったことがありました。
6.その他の認知症ケア関連資格
認知症ケア関連の資格には、似たような名前のものが多くあります。資格取得を検討する際の参考になるように、代表的なものを5つ紹介しておきます。
認知症ケア准専門士・認知症ケア上級専門士
前述の認知症ケア専門士には、入門資格(認知症ケア准専門士)と上位資格(認知症ケア上級専門士)があります。認知症ケア准専門士は、認知症ケアの実務経験がない方を対象とした資格です。一方の認知症ケア上級専門士は、チームリーダーや地域のアドバイザーとして活躍できる人材を養成するための資格です。
認知症介護基礎研修・認知症介護実践者研修
いずれも都道府県などの自治体が主体となる公的な資格です。
認知症介護基礎研修は、認知症介護の基本を学ぶ新任の介護職員向けの入門的研修となっています。2024(令和6)年度からは、介護事業所で介護に従事する無資格者に受講させることが義務となりました。受講方法は、原則としてeラーニングです。
認知症介護実践者研修の受講対象は、「介護保険施設・事業所等に従事する介護職員等であって、一定の知識、技術および経験を有する者」とされています。研修を受講することで、認知症介護に関する実践的な知識・技術が修得できます。
認知症予防専門士
認知症予防専門士は、一般社団法人日本認知症予防学会が認定する民間資格です。認知症に対する十分な知識と、認知症予防に関する技術を兼ね備えた専門家を養成する資格となっています。
認知症ケア指導管理士
認知症ケア指導管理士は、一般財団法人職業技能振興会が認定する民間資格です。医療・介護現場で働く方のスキルアップを目的としており、2年ごとの更新制度があります。
認知症介助士
認知症介助士は、公益財団法人日本ケアフィット共育機構が認定する民間資格です。従来の認知症関連資格が医療・福祉従事者を対象にしているのに対し、認知症介助士は個人、企業、市民を対象としている点に特徴があります。
まとめ:認知症の方の尊厳のある生活の実現のためにも取得しておきたい資格
認知症ケア専門士は、認知症高齢者が急増しているわが国の介護現場において、需要が高まっている認知症ケアの関連資格です。認知症の方が尊厳を持った生活を送るうえで、認知症ケア専門士の存在は、今後ますます重要になるでしょう。
認知症ケア専門士は、認知症ケアの関連施設・団体で3年以上の実務経験があれば受験可能です。現場でリーダーシップを発揮するためにも、また医療・介護の人材としてキャリアアップしていくためにも、ぜひ資格取得にチャレンジしてください。
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