体の突っ張りが和らぎ快適に座れる!プロが教えるシーティングの工夫5選|認知症ケアの現場から(30)
文・写真/安藤祐介
利用者さんのなかには、車いすや椅子の背もたれに体を強く押し付け、突っ張りながら座る方がいます。突っ張りがあると、前屈みになれず移乗介助が大変になったり、背中への圧迫が増えて褥瘡リスクが高まったりと、生活する上で好ましくない影響が出ます。常に体が緊張することで、拘縮の進行が早まる可能性もあるでしょう。
現場ではこれらを改善するために寝る時間を増やしたり、クッション類を調整したりしますが、そうしたなかには逆に突っ張りを強めかねない対応もあります。そのため、どうすればいいのか悩んでいる職員もいるのではないでしょうか。
そこで本記事では、体の突っ張りがやわらぎ、快適に座れるようになるシーティングを紹介します。利用者さんの突っ張りに困っている方は、ぜひ参考にしてください。
1.逆効果になってしまう対応
最初に、突っ張りがある利用者さんに、やらないほうがいい対応=逆に突っ張りを強めかねない対応を紹介します。それは、背中の後ろに大きなクッションを入れることです。

これを行うと突っ張った上半身が90度になり、きれいに座れているように見えますが、利用者さんが突っ張る原因には何も対処できていません。そればかりか、クッションで背中が前に押し出されるため、それに反発して利用者さんの突っ張りがさらに強まってしまいます。
姿勢を瞬間的に整えたいときには有効ですが、長く行えば行うほど拘縮が進み介助負担の増加を招くので、避けたほうが無難でしょう。
※詳しくはこちらの記事『車いす座位の崩れはどうすれば整うの?プロが教える3つのポイント』を参考にしてください。
2.突っ張りに対する考え方
突っ張りがやわらぐシーティングを行うときに押さえておきたいのが、「突っ張らざるを得ないから突っ張っている」という視点を持つことです。
誰かに体を押されているときのことをイメージしてみてください。そのまま押され続けると倒れてしまうので、多くの人が体に力を入れて、倒れないように踏みとどまろうとすると思います。相手が強く押せば押すほど、こちらも倒れまいとして、より強く力を入れて踏ん張るのではないでしょうか。

先ほど紹介した背中にクッションを入れる対応でも、これと似た状況が起きています。背中をクッションで押されれば押されるほど、利用者さんも負けじとより強い力で突っ張り返し、体が日増しに固まっていくのです。

では、突っ張っている利用者さんにとって、突っ張りは必要なものであり、そうせざるを得ないから突っ張っていると考えてみてください。突っ張る原因さえなくなれば、利用者さんの突っ張りは自然とやわらいでいくはずです。そして、原因の大部分は「車いす本体」にあります。
3.突っ張りを和らげるシーティングの工夫
ここからは、利用者さんが突っ張らなくても座れるようになる、車いすへの工夫を紹介します。
工夫①:安定した座面を作る
車いすの座面は、折りたたみができるようにシート状になっており、座ると"たわみ"が生じます。クッションを敷いたとしても"たわみ"はなくならず、座面はいわば不安定なハンモックのような状態です。
そうした状態でバランスを取るのは簡単ではなく、利用者さんのなかには体を安定させるため、背もたれに背中を押し付けるようにして座る方がいます。これが突っ張りです。
つまり、突っ張りは不安定な座面の上でも倒れずに座るために、利用者さんが試行錯誤している姿とも言えるのです。

車いす座面の"たわみ"を解消するために最も効果的なのが、座面の上に木の板を敷くことです。座面とクッションの間に丈夫な板が1枚あることで、車いすは"家具の椅子"と同じように座面が平坦な状態となります。安定した座面は座ったときにバランスが取りやすいため、過度に体を突っ張る傾向が軽減されるでしょう。

木の板を敷く対応は、座位に左右の傾きがある利用者さんにも有効な工夫です。興味がある方は、こちらの記事『座位が左右に傾く利用者さんに試したい、効果的なシーティング2選』も参考にしてください。
工夫②:背中に合った背もたれを作る
車いすの背もたれは平面なものが多いのに対して、利用者さんの背中は丸みを帯びています。ですから、そのまま寄りかかろうとすると背もたれに背中がフィットせず、広い面積で背中を支えることができません。支えが少ないと体が不安定になり、背中をリラックスさせづらくなったり、局所的に圧迫による痛みが出たりして、体が突っ張る原因となります。

そうした状況を軽減するには、車いすの左右のハンドル同士をロープで結び、背もたれをゆるませることで、背もたれと利用者さんの背中のラインを一致させる工夫が効果的です。より広い面積で利用者さんの背中を支えられるため、体の安定感が増して突っ張りがやわらぎます。
あわせて、背もたれに大きく薄いクッションを設置すると、背中を支える面積をさらに広げられます。ただし、背中のクッションが厚すぎると体を前に押し出してしまい、突っ張りを強めることになりかねないので、利用者さんが快適に寄りかかれる程度の薄さにすることが大切です。

工夫③:肩甲帯を手厚くサポートする
突っ張りがある利用者さんは、工夫②で解説したように背中を広く支える必要があり、肩甲骨や肩の後ろ(肩甲帯)を手厚くサポートすることで、リラックスした座位が取りやすくなります。しかし、市販のクッションも福祉用具のクッションも、あらかじめ形が決まっているものがほとんど。肩甲帯がサポートできる形状にするには、一工夫が必要です。
そこでおすすめしたいのが、四角形のクッション(背中用)と長方形のクッション(肩甲帯用)を組み合わせることです。まず両方のクッションをビニール袋で包み、次に四角形のクッションの上部(肩甲帯がくる位置)に、長方形のクッションをテープで止めます。


この形であれば、背中と肩甲帯を1つのクッションでズレることなく支えられます。固定しているのがテープなので、利用者さんの体格に合わせてサポートする位置を微調整したいときも、すぐに付け直せます。完成したら利用者さんが寄りかかりやすく、見栄えもよくなるように、クッションカバーを付けておきましょう。

工夫④:腰のサポートを設置する
背もたれへの突っ張りがあると、体が反るような格好になり、腰の後ろに隙間ができます。隙間が多いと背中を支えている面積が狭くなるため、座位が不安定になりやすく、利用者さんは体を安定させようとして、背もたれへの突っ張りを強める傾向があります。

また、突っ張りが強くなると、体の一部分(背もたれと接している部位)への圧迫が増えて痛みが出やすくなり、体をリラックスさせて座るのがますます難しくなります。

対応策として、腰の後ろの隙間を埋めるようにサポートを設置しましょう。サポートが直接腰に当たると違和感を感じる利用者さんもいるので、工夫②で行った背もたれクッションの後ろに設置するのがおすすめです。腰のサポートがあると、背中の下から上まで広く支えられるので、突っ張りの緩和につながります。

工夫⑤:坐骨のサポートを設置する
突っ張りがある利用者さんは上半身だけではなく下半身も突っ張りやすいため、お尻が座面の前のほうに滑る傾向があります。
お尻が滑ると体が座面に接している面積が狭くなり、座位が不安定になってしまいます。また、車いすから落ちるのではないかという恐怖心から、利用者さんは姿勢を安定させようと体を突っ張らせ、ますますお尻を前に滑らせる可能性があります。

そこで、滑り出すお尻を支えられるように、座面に坐骨のサポートを設置しましょう。坐骨はお尻の下に位置する骨であり、座るときに体を支える役割を持っています。
坐骨のサポートがあると、お尻が前に滑ったときの支えになるため、座位が安定しやすくなって突っ張りの軽減につながるでしょう。

工夫④で紹介した腰のサポートと、工夫⑤で紹介した坐骨のサポートは、仙骨座りになりやすい利用者さんにも有効な工夫です。興味がある方は、こちらの記事『何度座り直しても仙骨座りが直らない利用者さんへのシーティング』を参考にしてください。
4.最後に工夫の効果を確認する
突っ張りに対する工夫を行ったら、最後に本当に突っ張りがやわらいだかどうかを確認する必要があります。確認の際は、利用者さんの背中と車いすの背もたれの間に手を入れてみてください。


強い突っ張りがあるときは、利用者さんが背中を背もたれに押し付けていて、手が入りにくい状態です。工夫を行った結果、少しでも手が入りやすくなったり、背中が圧迫されている箇所が減っていたりすれば、工夫の効果が出ていると言えるでしょう。突っ張りの変化は見た目だけではわかりにくいため、必ず職員の手で確認してください。
まとめ
今回は、「体の突っ張りがある利用者さんが快適に座れるようになるシーティング」をお伝えしました。
体の突っ張りは、利用者さんが突っ張りながら過ごしてきた時間が長いほど、やわらぐのに時間がかかります。しかし、紹介した工夫は突っ張りの根本的な原因に対処できるため、少しずつかつ着実に、利用者さんがリラックスして座れる状態(緊張がやわらいだ座位)に近付けることができます。
一度にすべての工夫を行う必要はありません。現場で取り組めそうなものから、1つずつチャレンジしていただければ幸いです。
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