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仕事・スキル 介護職のスキルアップ 2025/01/30

#認知症ケアの現場から

何度も同じことを訴える認知症の利用者さんへの傾聴テクニック|認知症ケアの現場から(25)

文・写真/安藤祐介 care25_thumb.jpg

認知症の利用者さんは、何度も同じ訴えをすることがあります。「私はなんでここにいるの?」「ごはんはいつ?」「家に帰りたいんだけど」「息子を呼んでほしい」など、訴えの内容は幅広く、職員が話を聞いた数分後に、また同じ訴えを繰り返す方も少なくありません。

その都度話を聞くことで落ち着くこともありますが、認知症の利用者さんは記憶障害の影響で、話の内容や話をしたこと自体を忘れる傾向にあります。そのため、対応に苦慮している職員もいるのではないでしょうか。

そこで本記事では、筆者が認知症の利用者さんと関わるなかで学んできた、傾聴テクニックを紹介します。ただし、カウンセリングの場などで行われる傾聴とは少々異なり、あくまで"認知症ケアに特化"した内容となることを理解しておいてください。すべての訴えを解決するのは難しくても、紹介するテクニックを生かすことで、「私の気持ちをわかってもらえた」「この人に話して良かった」と思ってもらえる場面もあるはずです。ぜひ、日々の関係作りに生かしてください。

1.好ましくないNG対応

傾聴テクニックを紹介する前に、好ましくない対応を押さえておきましょう。なかには不適切とは言い切れない対応もありますが、やみくもに行うと認知症の利用者さんの不信感につながったり、職員との関係性が悪化したりすることもあるため注意が必要です。

訴えを否定する

利用者さんの訴えを否定するのはやめましょう。例えば「家に帰るにはどうすればいいの?」という訴えに対して、「そんなことは言わないでください」「帰るのは無理ですよ」といった対応をするのが、否定に該当します。訴えを真っ向から否定されると、利用者さんは「気持ちを受け止めてもらえなかった」と感じて、傷ついたり悲しくなったりします。

訴えを無視する

利用者さんの訴えを無視しないようにしましょう。例えば「ちょっとお姉さん」という呼びかけに対して、「忙しいから後でね」「今は無理です」といった対応をしたり、呼びかけが聞こえているのに職員が反応しなかったりするのが、無視に該当します。無視されると、利用者さんは自分の存在を否定されたような気持ちになり、事業所を利用することや生きていること自体をつらく感じることがあります。

事実だけを伝える

利用者さんに事実だけを伝えないようにしましょう。例えば「まだごはんをもらってないんだけど」という訴えに対して、「さっき食べましたよ」「おいしいって言っていたじゃないですか」といった対応をするのが、事実だけを伝えるに該当します。利用者さんがごはんを食べたのが職員側の現実だったとしても、まだ食べていないというのがご本人の実感です。

そのため、職員側の事実だけを伝えると、利用者さんの感じていることや考えていることを否定することになりかねません。ただし、なかには職員が事実を伝えることで「ああ、そうだった。さっき食べたね」と食事の記憶を思い出せる利用者さんもいるため、ケースバイケースの対応を心がけましょう。

だますような声かけをする

利用者さんをだますような声かけはやめましょう。例えば「息子はいつ迎えに来るの?」という訴えに対して、「お風呂に入ったら来てくれますよ」「明日の朝に来るって電話がありましたよ」といった対応をするのが、だますような声かけに該当します。

声かけが真実であれば問題ありませんが、業務を円滑に進めたり、利用者さんを落ち着かせたりするための方便であれば、おすすめできません。その場は取り繕えたとしても、繰り返すことで利用者さんの不信感につながる場合があるからです。対応している職員も、利用者さんをだましているようで心苦しくなるかもしれません。こうした声かけは、相手と傷つけまいとしてついている"ケアとしての嘘"とは区別して考えてください。

訴えをごまかす

利用者さんの訴えをごまかすのは控えましょう。例えば「どうしよう? 頭が変になったみたいだよ」という訴えに対して、「変じゃないから大丈夫ですよ」「私たちがいるから安心してください」といった対応をするのが、訴えをごまかすに該当します。これは他の対応に比べると利用者さんへの気遣いが見られ、不適切な対応とは言い切れません。しかし、利用者さんの悩みや切実さを正面から受け止めてはおらず、利用者さんの気持ちに寄り添ったり、関係性を深めたりするには不十分です。

2.傾聴テクニックの土台

利用者さんの訴えを傾聴する前に、聴く時の基本的な姿勢・態度を整える必要があります。これを行うことで傾聴テクニックの効果が高まり、利用者さんの「話をしっかり聞いてもらえた」「気持ちをわかってくれた」という実感につながりやすくなるでしょう。

いすに座って目線を合わせる

立っている利用者さんから声をかけられた場合は、場所を移していすやソファーに座ってから話を始めましょう。お互いに立ったままの状態だと、利用者さんが「この人はどこかにいってしまうのではないか」「ゆっくり話を聞いてくれないかもしれない」と思い、話に集中できないことがあります。一緒にいすに座ることで、腰を据えて話を聞く姿勢が伝わり、利用者さんも安心して話せるはずです。

また、お互いに座ることで自然と目線が合いやすくなり、話を真剣に聞いている職員の表情も見えやすくなります。車いすに座っている利用者さんから訴えがあった時は、落ち着いて話すためにフロアの隅などに場所を変え、職員もいすに座ったり立膝の態勢になったりして目線を合わせましょう。

いすに座って目線を合わせる

表情としぐさを合わせる

傾聴中は、利用者さんの表情や話の内容に職員の表情を合わせましょう。例えば「家族が顔も見せてくれなくてね」といった内容を悲しそうな表情でしていたら、職員も同じように悲しそうな表情をしながら傾聴します。すると利用者さんは「この人は真剣に聞いてくれている」「気持ちをわかってくれている」と感じて、会話への満足感が高まったり、もっと話をしたいという気持ちになったりします。

また、会話中に利用者さんが身振り手振りをしたら、大げさにならない範囲で職員もそのしぐさをまねしましょう。例えば、「なんだか胸が切なくてね」と利用者さんが胸をさするしぐさをしたら、職員もそれをまねて自分の胸をさすります。そうすることで、利用者さんは今の自分の気持ちが職員に伝わっていることを視覚的に実感しやすくなります。

表情としぐさを合わせる

触覚を生かす

利用者さんが「きちんと話を聞いてもらえている」と実感できるように、職員が時折体に触れるのもテクニックの一つです。この時は肩や膝といった、触れられても抵抗感が少ない部位にし、頻繁に触れるのは控えましょう。

高齢の認知症の利用者さんは、視覚や聴覚といった感覚機能が低下していることが多く、目の前の人と会話をしていても実感がわきにくいことがあります。そのため、長時間話をしたのに「あまり聞いてもらえなかった」と感じて、同じ訴えを繰り返すこともあるでしょう。触覚は直接身体に触れることで感じる感覚であるため、認知症がある方の「今ここで話をしている」という認識を高める効果が期待できます。ただし、頻繁に触れると抵抗感をもたれたり、恋愛感情があるのではと誤解されたりすることもあるので、職員が「ここは大切な場面だな」と思う所でさりげなく触れるのが効果的です。

表情としぐさを合わせる

3.具体的な傾聴テクニック

ここからは具体的な傾聴テクニックを紹介します。段階が進むにつれて職員の経験値や聴くスキルが求められるので、介護経験が浅い方は①や②など、比較的簡単なものから挑戦してみてください。

無言で聞く

利用者さんが話を始めたら、まずは無言で聞きましょう。利用者さんの話に対して職員が「それはさっき聞きましたよ」「だから〇〇ですよ」「心配しなくて大丈夫ですよ」など途中で口を挟むと、その時点で利用者さんは本当に言いたかったことが言えなくなってしまいます。特に、認知症がある方は会話への集中力が低下しているため、職員が言った言葉に注意が向いて話題が切り替わったり、最初に言いたかったことが何だったのか思い出せなくなったりすることもあります。

無言で聞くのは簡単なようで難しいテクニックです。業務が詰まっている時は、話を早く切り上げようとしがちですが、それをやると利用者さんのなかに「しっかり聞いてもらえなかった」という体験が残り、同じ訴えを繰り返すという悪循環に陥ってしまうこともあります。注意しましょう。

あいづちをうつ

職員がずっと無言のままだと利用者さんは話しづらく、「この人はちゃんと聞いているのかな?」と心配になることもあります。利用者さんの話に対しては、適度にあいづちをうちましょう。その場合は「はい」「うんうん」「ええ」「そうですか」など、話をさえぎらない程度のものにするのがポイントです。利用者さんは自分の言っていることに反応が得られると、話を続けやすくなります。あわせて、相手の話している表情や内容に合わせた表情にすると、利用者さんは職員が共感してくれていることを感じ、より気持ちを打ち明けやすくなります。

伝え返す

あいづちをうつのに慣れてきたら、次はもう一歩進んで、利用者さんが訴えた言葉を伝え返しましょう。俗にオウム返しと言われる手法です。例えば、利用者さんが「前の席のおばあさんが意地悪で嫌になっちゃう」と言ったら、職員は「前の席のおばあさん」や「嫌になっちゃう」といった言葉を返します。すると利用者さんは、「そうなのよ」「本当に嫌なの。この前なんてね」と、話題を変えることなく話を掘り下げることができます。

この時のポイントは、利用者さんが言った言葉をできるだけそのまま伝え返すことです。そうすることで、利用者さんは「自分の言ったことを確かに聞いている」と強く実感できます。職員は利用者さんの話のなかから言葉を選ぶので、必然的に話をさえぎることが減り、相手の話を否定も肯定もしないフラットな立場で利用者さんと接することができるでしょう。

忖度する

利用者さんとの会話が進み、訴えたいことがある程度つかめてきたら、利用者さんの心の内を忖度した言葉を返します。例えば「とにかく家に帰りたいの。娘に早く来るように電話してちょうだい」という訴えがあったとします。この時、利用者さんはどのような事情から家に帰りたい、娘さんに来てほしいと思っているのでしょうか? もしかすると、家でやりかけの用事があるのかもしれません。玄関のカギをかけたか気になっているのかもしれません。友だちが遊びに来る約束があるのかもしれません。施設でつらいことがあって娘さんに聞いてほしいのかもしれません。

この時点では、これらすべてが「かもしれない」という予測ですが、そのなかからより可能性が高そうなもの選んで、利用者さんに返答してみてください。あくまで予測ですから、当たっている必要はありません。もし当たっていれば、利用者さんは「そうなのよ」と肯定してくれますし、間違っていれば「そうじゃなくて〇〇なの」と訂正してくれるはずです。そして、そこではじめて訴えの背景に一歩近づくことができます。こういった対応を繰り返していけば、利用者さんがどのような考えで暮らしているのか、何を大切に思いながら生きているのか知ることができ、今後の傾聴やケアにも役立つでしょう。

なお、忖度しながらの返答は、「出来事に対する忖度」と「感情に対する忖度」に分けられます。例えば、先ほどの「とにかく家に帰りたいの。娘に早く来るように電話してちょうだい」という訴えを傾聴することで、「近所の人たちに何も言わずに施設に来ちゃったのよ」という事情が聞けたとします。では、利用者さんはどんな感情を抱きながらこの訴えをしているでしょうか? 考えられるのは、近所の人たちに申し訳ないという罪悪感や、不義理をしてしまった恥ずかしさ、みんなが心配しているかもしれないという心配、せめて一言挨拶してきたかったという後悔などです。

この場合も、より可能性が高そうなものを選んで利用者さんに返答しますが、「何があった?」という出来事への忖度ではなく、「どう思った?」という感情への忖度になるので、より利用者さんの心の内に踏み込んだ返答になります。それによって内的な感情を深く理解できるため、傾聴する際の精度や質が高まり、「しっかり聞いてもらえた」「ちゃんと話せた」という満足感につながるやりとりになるでしょう。

認知症がある方なので、実際の出来事とは異なっている可能性もありますが、ご本人が思っている世界を否定せずそのまま受け止めることが大切です。

認知症がある方によく見られる「家に帰らせてもらいます」という帰宅願望も、傾聴を行っていくと、単純に帰りたいわけではなく、「一人ひとりに複雑な心の動きや抱えている悩みがあるのだな」と気づけたりします。そうした利用者さんの内に秘められた気持ちや考えの一端に近づけるのが、傾聴することの最大のメリットと言えるでしょう。

すべての訴えを根本的に解決したり、利用者さんの訴えが無くなったりすることが傾聴のゴールではありません。「あなたのことをよく知っている私たちがいます」という姿勢が伝わり、利用者さんが今より少しでも安心して過ごせるようになれば、傾聴は十分にうまくいっているのです。

まとめ

今回は、「何度も同じことを訴える認知症の利用者さんへの傾聴テクニック」をお伝えしました。ケア現場での傾聴は難しいものです。多忙な業務のなかの限られた時間では、いかに上手な聞き手でも利用者さんの気持ちを十分につかみ切れません。また、関係性ができていない段階だと、心の内を隠さずに話してくれるとも限りません。
時にはうまく対応できす悩むこともあるかもしれませんが、毎日少しずつでも傾聴すれば、相手の話を聞くスキルが上がり、関係性が深まるはずです。訴えに真剣に向き合う姿勢が、利用者さんの心のケアになることもあるでしょう。何度も同じ訴えがある方は、何度でも訴えに来てくれます。その1回1回を大切にしていただければ幸いです。

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安藤祐介(Yusuke Ando)

作業療法士

2007年健康科学大学を卒業。作業療法士免許を取得し、介護老人保健施設ケアセンターゆうゆうに入職。施設内では認知症専門フロアで暮らす利用者47名の生活リハビリを担当し、施設外では介護に関する講演・執筆・動画配信を行っている。

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