【作業療法士監修】更衣介助の正しい手順と注意点―着患脱健の考え方も
構成・文/介護のみらいラボ編集部更衣介助は身体介護の基本であり、介護職や介助者が必ず身につけたい介護技術です。誤った方法で更衣介助を行うと、骨折や脱臼を引き起こす可能性もあります。コツを押さえれば難しくないため、手順に沿って正しい更衣介助を実践しましょう。
当記事では、更衣介助の基本的な流れや衣服を選ぶポイントを踏まえた上で、シーン別に更衣介助の正しい手順を詳しく解説します。さらに、更衣介助を行う際のポイントや注意点も紹介するため、介護初心者の方はぜひ参考にしてください。
1.更衣介助とは?
更衣介助とは、自身での着替えが難しい人の着替えを手伝うことであり、着脱介助とも言われます。主に、加齢により関節可動域が狭くなった人や、筋力やバランス感覚が低下し座位・立位姿勢を保つのが困難な人、麻痺があり手足が円滑に動かせない人に対して行う介助です。
更衣介助は利用者の身体を清潔に保ち、褥瘡(床ずれ)の予防にもなりますし、更衣のために手足を動かすことは生活に必要な関節可動域の維持にもつながります。また、起床時や就寝時、外出時などに着替えを行うことは、生活リズムを作るのに効果的です。好きなデザインの服を着ることが生きる喜びにつながり、高齢者のQOL(生活の質)の向上も期待できるでしょう。
2.更衣介助の基本的な流れ
厚生労働省の「訪問介護におけるサービス行為ごとの区分等について」という通知において、更衣介助の流れが定められています。
厚生労働省が定める更衣介助の基本的な流れは、下記の通りです。
(1)今から更衣介助を行う旨の声かけや、説明を行う
(2)着替える服の準備をする
(3)上半身を脱衣し、着替える
(4)下半身を脱衣し、着替える
(5)靴下を脱がせ、履かせる
(6)着替えた衣類を洗濯物置き場に運ぶ
(7)靴やスリッパを履かせる
上記の流れを基準として、利用者一人ひとりの身体状況に応じた更衣介助を行いましょう。
更衣介助を行う際に意識したい「着患脱健」
「着患脱健」とは、衣服を着るときは麻痺や痛みなどの障害があるほう(患側)から、脱ぐときは問題がないほう(健側)から行うことです。「脱健着患」とも言われており、介護や看護現場では更衣介助の原則として知られています。
着患脱健に従うと患側を無理に動かさずに済むため、被介助者が痛みを感じることなくスムーズに着替えが行えます。特に、脳梗塞による片麻痺や、骨折などで手足の一方に障害を持つ人の更衣介助を行う場合は、着患脱健を意識して双方の負担軽減に努めましょう。
衣服を選ぶ際のポイントは?
利用者の衣服は、肌触りがよく、通気性・保湿性・吸湿性に優れているものが最適です。また、耐久性がよく、皮膚への刺激が少ないものを選ぶとよいでしょう。手足や首の関節が硬くなっている人は、かぶり型の上着ではなく前開き型の上着を選ぶことで着脱の際の関節への負担を軽減することができます。
下表は、種類ごとによる衣服の選び方のポイントです。
上着 | 伸縮性があり、ゆとりがあるもの。伸びない素材のシャツやジャケットなどは、少し大きめのサイズを選ぶ。 |
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ズボン | 車椅子に座った状態で十分な長さがあり、ウエストがきつくないもの。ジーンズなどの固い生地や、背面にポケットやボタンがあるものは褥瘡の原因になるため避ける。 |
下着 | 余裕のあるサイズを選ぶ。男性で尿取りパッドを使用する場合は、バッドが外れにくいボクサータイプがよい。女性は下着を清潔に保つために、おりものシートを適宜使用する。 |
靴下 | むくみやすい場合は、ゴムがないものを選ぶ。 |
靴 | 褥瘡を防ぐため、幅広で少し大きいサイズで、柔らかい素材のものを選ぶ。 |
利用者の衣服を選ぶ際は上記の点に注意しつつ、本人が着たいものを選びましょう。肌に直接触れる下着や肌着などは、ガーゼもしくは木綿の生地がおすすめです。
ズボンと下着は、利用者の排尿方法に合わせて前開きにする、太もも部分にチャックをつけるなどの改良を加えるとよいでしょう。昨今では介護に特化した着脱しやすい設計の服や靴も販売されているため、症状に合わせて使い勝手のよいものを選んでください。
3.更衣介助の方法・正しい手順
更衣介助を行う際は、環境を整えること、動作ごとに適切な声かけをすることが大切です。
更衣介助を始める前には周囲の整理整頓を行い、安全を確保します。室内の温度は23~25度前後に保ち、寒くないように隙間風にも注意してください。必要に応じて、プライバシー保護のためにカーテンを利用したり、バスタオルやタオルケットを被せたりするとよいでしょう。
更衣介助は、皮膚状態を確認するよい機会でもあります。赤くなっている部分や傷がないかなどを確認しながら進めましょう。
ここでは、更衣介助の方法をシーン別に解説します。
上着の更衣介助
利用者には背もたれのある椅子やベッドに座ってもらい、安定した姿勢で更衣介助を始めます。
・着衣介助
(1)患側の腕に、袖を肩まで通す。
↓
(2)頭を服に通し、もう一方の腕を袖に通す。ジャケットなど前開きの服の場合は、利用者の上半身を支えながら背中側から反対へ袖を回し、腕を通す。
↓
(3)片手で利用者の胸を支えて身体を前に倒し、背中の服を下ろした後、全体を整える。
・脱衣介助
(1)片手で利用者の上半身を支えながら前に倒し、背中の服をまくり上げる。
↓
(2)健側の腕から袖を抜く。
↓
(3)頭から服を抜いた後、もう一方の袖を抜く。
袖に腕を通す際は、服がねじれないようにするときれいに着ることができます。頭から服を脱ぐ際は、顎や鼻に服が引っかからないように注意してください。
パンツ・ズボンの更衣介助
パンツ・ズボンの更衣介助は、ベッドで寝た状態で行います。立ち上がる力がある人の場合は寝た状態で行うよりも手すりなどに掴まってもらい立った状態で行ったほうが円滑に介助できます。
・パンツ・ズボンの着衣介助
(1)パンツ・ズボンに両足を通し、なるべくお尻まで引き上げる。
↓
(2)横向きに寝た状態で片足のパンツ・ズボンを腰まで上げ、ズボンの中心線はお尻の中央に合わせる。
↓
(3)逆向きに寝かせ、もう一方のパンツ・ズボンを腰まで上げる。
↓
(4)仰向けにして全体を整え、ズボンの中心線やポケットの位置を確認する。
・パンツ・ズボンの脱衣介助
(1)横向きに寝た状態にし、パンツ・ズボンを可能な限り下げる。
↓
(2)逆向きに寝かせ、もう一方のパンツ・ズボンを下げる。
↓
(3)仰向けにし、パンツ・ズボンをすべて脱がせる。
膀胱留置カテーテルを使用している場合は、抜けないように注意しながら更衣介助を行いましょう。
靴下・靴の更衣介助
靴下を履く前は、事前に爪を切っておき、更衣介助の際に引っかからないようにします。
・靴下の着衣介助
(1)靴下の履き口を大きく開き、足に靴下を履かせる。
↓
(2)つま先を引っ張り、余裕を持たせる。靴下の中で指が折れていないか確認する。
・靴の着衣介助
(1)指先を折り、指が折れていないか確認した後、靴に足を入れる。
↓
(2)踵がずれていないか、つま先が折れていないかを確認する。
足に麻痺がある場合は、利用者の前にしゃがみ、介助者の太ももに利用者の足を乗せながら行うと着脱がスムーズです。
更衣介助をする際のポイントや注意点は?
更衣介助を安全かつスムーズに進めるためには、いくつかのポイントを押さえることが大切です。更衣介助のポイントや注意点は、下記の通りです。
・関節可動域や表情などから心身の状態を確認・観察し、介助方法を考慮する。
・冬場などは、介助者の手や室温を温める。
・身体機能低下を防ぐため、介助は必要最低限に留める。
・バランスが取りにくい場合は、2人の介助者によって行う。
・麻痺がある部分は強く握ったり引っ張ったりせず、優しく触れる。
更衣介助のコツは、利用者の様子や姿勢に注意しながら、相手のペースを合わせて進めることです。片麻痺や認知症の症状があり着替えが難しい場合でも、「ボタンは自分でとめる」など可能な範囲で目標を定めて自立支援に取り組みましょう。
まとめ
更衣介助とは、着替えが困難な人を手伝うことです。更衣介助の際には基本的な流れを守り、着患脱健を意識することが大切です。更衣介助の手順は上着やズボンなどで異なるため、それぞれふさわしい方法で行いましょう。また、着脱しやすい衣服を選ぶことも、更衣介助をスムーズに進めるポイントです。
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※当記事は2022年3月時点の情報をもとに作成しています
▼監修者からのアドバイス
更衣介助は入浴時や起床・臥床時などの慌ただしい時間帯や、尿や便の失禁がありお互いにストレスがかかっている状況などで行う機会も多い大変な業務の1つだと思います。利用者さんもそれを敏感に感じとり「迷惑をかけて申し訳ない」「1人でできなくて情けない」と思っている人もいます。
忙しい中での介助は焦りがちになることもあるかもしれませんが、私の経験上、職員のペースで素早く介助しても相手の動きを尊重しながら介助してもかかる時間に大きな差は出にくいですし、焦ることで着脱の順序を間違えたり、衣服の取り違えがあったりと、かえって時間がかかってしまうこともあるのではないでしょうか。
1回1回の介助が利用者さんとの関係性を深め、姿勢を保ちながら手足を動かしたり、ご自身で「何を着ようかな」「どうやって脱ごうかな」と考えたりすることが心身機能の維持にもつながっています。双方に無理のない更衣介助となることを願っています。
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