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学ぶ 介護国試過去問ドリル 2020/09/17

#国家試験#訪問介護

膝が痛い...変形性膝関節症の症状と適切な介助・支援方法【国試過去問ドリル第5回】

文:白井孝子(東京福祉専門学校副学校長 看護師 介護支援専門員) 絵:ひぐらしカンナ drill_20200917_1_01.jpg

変形性膝関節症の関節と健康な関節

今回は、変形性膝関節症のあるご利用者への支援方法について焦点をあてました。加齢に伴い、足や腰の痛みを訴える方は多く存在します。2018(平成30)年版高齢社会白書(内閣府)の「65歳以上の要介護者等の性別にみた介護が必要となった原因」という調査では、認知症18.7%、脳血管疾患15.1%、高齢による衰弱13.8%、骨折・転倒12.5%に続いて、関節疾患が10.2%を占めています。

関節疾患の症状の多くは、足や腰の痛みとして表れる傾向があります。「介護予防の推進に向けた運動疾患対策に関する検討会報告書」(2008(平成20)年厚生労働省)によると、変形性膝関節症で自覚症状のある人は約1000万人と推定されています。
変形性膝関節症が進行すると、痛みや変形により日常生活に支障をきたすことがあります。介護職は、どのように支援を行えば良いのでしょうか。

変形性膝関節症(knee osteoarthritis)の症状とは?

変形性膝関節症(knee osteoarthritis)とは、膝関節の動きを滑らかにしている関節軟骨が加齢に伴ってすり減り、身体の重心が内側にかかることで、関節内側の隙間が狭くなり、膝が変形することで生じる疾患です。50歳以上の男女比でみると、発症するのは女性のほうが1.5倍~2倍多くなっています。肥満傾向、O脚気味の場合に生じやすいとされています。
主な症状として、膝関節の痛み、腫脹、運動制限、関節変形などがあります。
大きく分類すると下記のようになります。

【表1:変形性膝関節症の痛みや生活の支障分類】

分類 主な症状
初期 鈍い痛み。
正座ができない。階段を下りにくい。立ち上がり時に膝がつっぱったように固くなる。(こわばり)
中期 痛みにより日常生活に支障を感じることが増える。
膝に腫れや熱感を感じる。炎症により関節包に関節液が溜まる。
膝がO脚に変形する。
末期 強い痛みにより、日常生活の制限が広くなる。
膝の変形が著明にみられる。(変形・腫脹)
膝関節の可動範囲が狭くなる。起立歩行に支障が生じる。

変形性膝関節症は、初期では安静時に痛みはなく、膝に体重がかかる立ち上がりや歩き始め、長時間の歩行により痛みを感じます。進行すると、膝関節が腫脹してブヨブヨしているように見える、湾曲して変形が目立つようになるなど、見た目にも変化が現われ、痛みと膝の不安定さで歩行が困難になるなど、日常生活に影響が大きい疾患です。

両手で膝をさする高齢女性

両手で膝をさする高齢女性

介護福祉士国家試験 過去問題

第31回 午後 発達と老化の理解 問題76

B さん(68歳、女性)は,3か月前から、自宅の階段を昇り降りするときに、両膝の痛みが強くなってきた。整形外科を受診したところ、変形性膝関節症 (knee osteoarthritis)と診断された。Bさんの身長は153cm、体重は75kgである。 Bさんの日常生活の留意点として、最も適切なものを1つ選びなさい。

1 歩行を控える。 2 正座で座る。 3 膝を冷やす。 4 体重を減らす。 5 杖は使わない。

解答と解説

正解:4

変形性膝関節症のあるご利用者への支援方法

変形性膝関節症のあるご利用者に対する支援方法としては、膝の負担を減らすための動作支援や、痛みを軽減する生活のサポートなどが挙げられます。具体的には、階段の昇降を避ける、正座をしない、歩行時には杖を使用する、膝に負担の少ない履物を選ぶなどです。膝関節の可動域に制限がでてきた場合、膝関節をまっすぐ伸ばすことや、90度以上に曲げることができなくなりますが、生活様式を和式から洋式に変えることで、生活の支障を減らすことができます。ただし、高齢者の場合、これまで馴染みがあった生活様式の変更に抵抗を覚えたり、戸惑ったりする方もいます。今何が一番つらいのかをよく聞き、ご利用者に十分な説明をしたうえで、納得をして生活様式を変えていただくようにしましょう。

多職種と連携して行う支援では、食事療法と運動療法が挙げられます。食事療法では、日々の食事内容を見直して体重を減らし、肥満を防ぐことで、膝関節への負担を軽減します。運動療法では、体重をかけずに実施する、座位や臥位で行う運動や、大腿四頭筋や股関節周囲筋の筋力を強化する運動などを行います。また、痛みを訴える場合には、膝関節を冷やさず、温めることで痛みが緩和されますが、この支援を行う前に医療職にご利用者の訴えや膝の状態、生活の支障などを説明し、具体的な方法について相談しておくと良いでしょう。
医師が行う主な治療としては、保存的(薬物)療法と手術療法があります。保存的(薬物)療法では、膝関節内に関節液が貯留しているときに、注射器で関節液を抜き、膝関節内に痛み止めなどの薬剤を注入する方法があります。手術療法では、痛みで日常生活が大きく制限される場合などに、人工関節置換術が行われることがあります。

Bさんの場合、身長が153㎝で体重が75㎏です。肥満度を確認するためのBMI(Body Mass index)は世界共通の肥満度の指数です。その計算式は「体重÷(身長m)の2乗」なので、計算するとBさんのBMIは32となります。BMI25.0以上は肥満と判定されるため、Bさんの支援ではまず体重を減らし、肥満を解消することが有効と考えられます。

・選択肢1「歩行を控える。」×

歩行を控えることは、下肢筋力の低下を助長することになります。また、肥満傾向を避けるためにも、適度な運動としての歩行は継続するのが良いでしょう。ただし歩行時の強い痛みの訴えがあり、ご利用者が強く歩行を拒否するような場合には、医師との連携が必要です。

・選択肢2「正座で座る。」 ×

正座は膝関節に負担をかけるため、避けなければなりません。そもそも変形性膝関節症があるご利用者は正座がしにくい状態にあります。Bさんは両膝の痛みが強い状態にありますから、痛みを悪化させるような生活様式を支援するべきではありません。

・選択肢3「膝を冷やす。」 ×

膝を冷やすことは、痛みや運動制限を助長すると言われています。Bさんは両膝の痛みが強い状態にありますから、温かくして血行を促すことで痛みを軽減するほうがよいでしょう。

・選択肢5「杖は使わない。」 ×

変形性膝関節症のあるご利用者は、歩行が不安定になりやすいので、杖を使用することがあります。杖は、膝関節への負担を軽減する支援です。杖のほかにシルバーカーなどの利用も膝への負担を軽減すると考えられます。

変形性膝関節症のあるご利用者への介護の実務での生かし方

変形性膝関節症のあるご利用者を在宅で支援する場合には、痛みを軽減し、ご利用者が住み慣れた家で日常生活を継続できるような支援が必要です。起立や歩行に重要な役割を持つ膝関節の痛みは、生活行動を狭めてしまう可能性があります。さらに、痛みで外出が億劫になってしまっては、精神面にも悪影響を及ぼします。生活の悪循環は、廃用症候群につながるということも理解しておきましょう。

介護福祉士が行う支援には、将来の方向性を見据えた、「今の生活を維持、継続するためには」という長期的な視点が必要です。

■参考文献

  • 最新「介護福祉士養成講座」12「発達と老化の理解」中央法規出版 2019年3月31日
  • 最新介護福祉全書9「発達と老化の理解」メヂカルフレンド社2013年12月10日

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白井孝子(Takako Shirai)

東京福祉専門学校副学校長/看護師・介護支援専門員(ケアマネジャー)

聖路加国際病院、労働省(現厚生労働省)診療所勤務。小児病棟での終末期看護のあり方から在宅看護に興味を持つ。訪問看護業務に携わる中で、生活支援には保健医療福祉の連携が重要であることを体験する。その思いを形にするため、平成2年から介護福祉士養成に関わるようになる。現在東京福祉専門学校副学校長。

白井孝子の執筆・監修記事

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