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学ぶ やさしい介護法律講座 2020/10/27

#ショートステイ#介護の法律#介護施設#誤嚥

ショートステイ中の誤嚥事故。施設は4055万円の賠償責任【弁護士とやさしく学ぶ介護の法律ー第5回】

文:中沢信介 弁護士 law_20201027_01.jpg

こんにちは。 弁護士の中沢信介です。
前回は認知症患者の鉄道事故を2回にわたり取り上げました。今回は、介護の事故として転倒事故などの次に起こりやすい誤嚥に関する民事事件をみていきたいと思います(転倒事故は第2回で取り上げました)。

今回は多額の損害賠償責任を施設が負う判例になりますので、なぜそのような多額の損害が認められたのかも確認していきたいと思います。

誤嚥訴訟の判例概要

中沢弁護士 こんにちは。今回は誤嚥に関して平成29年3月28日に鹿児島地方裁判所で判決となった事件です。

A奈美さん 誤嚥は施設や訪問介護の現場でも起きやすい事故ですので気になりますね。

中沢弁護士 今回の事故の被害者Y男さんに関する情報です。
Y男さんは事故当時78歳でした。Y男さんの妻Y子さんは事前面談の際に介護支援専門員に対しY男さんに誤嚥の恐れがあること、そのため普段から主食も副食も一口大に小さく切って食べさせているので施設でも同様にしてほしいと伝えました。介護支援専門員はこれを受け食事箋に具体的な指示を、アセスメントシートと短期入所連絡票にも誤嚥注意との記載を行いました。

A奈美さん Y男さんは噛み切る力や飲みこむ力が相当弱まっていたのですね。

一口大に切られて提供された前日の食事

中沢弁護士 2泊3日のショートステイの内、入所1日目の昼と夜の食事はいずれも小さく切った食事が提供されました。

A奈美さん Y子さんから職員が聞いていたのですから当然ですね。

そのまま提供された事件当日の朝食

中沢弁護士 ところが、事件当日の朝食は、ロールパン(6から7cm大)2個、牛乳200mlパック、具入りの卵焼き、オニオンスープが提供されました。

A奈美さん A奈美さん ロールパンがそのまま提供されてしまったのですね。

中沢弁護士 食事開始15分をしたころ、Y男さんが鼻から牛乳を出し、むせているところを施設職員が発見しました。そこで食事が中断され、Y男さんは20分程度その場で座っていました。

A奈美さん 様子をみていたのですかね。

中沢弁護士 そのあと、Y男さんは口腔ケアをする場所に移動し、義歯を洗浄してもらったうえで、自分でうがいをしてトイレによって居室に戻りました。

A奈美さん この時は普通に歩けるたんですね。

中沢弁護士 自室に戻った時、Y男さんの喉が「ゴロゴロ」(痰が貯留している音)となり、「ゼーゼー」(気道狭窄時の音)と言っていたので、Y男さん自身は大丈夫であると言っていたのですが、施設長(医師)が呼ばれました。

A奈美さん 本人は大丈夫と言っていたのですね。

中沢弁護士 医師の判断で口内を吸引したところ、牛乳の混ざった痰と少量の残渣物が吸引されました。

A奈美さん この時に吸引して痰はとれたんですね。

中沢弁護士 そのあと症状が改善したので、1度離れて、10分後再度様子を見に行ったのですが、その時にはすでに心肺停止状態でした。

A奈美さん 原因はなんだったのですか。

 

中沢弁護士 この後医師が挿管を行ったところ5cmのパンの塊が除去されました。

A奈美さん そうなるとそれが原因ですかね。

中沢弁護士 Y男さんに対し心臓マッサージなどが行われた結果心肺と呼吸は再開しましたが、意識は回復しませんでした。

介護施設側の落ち度

中沢弁護士 今回の施設側の過失は比較的わかりやすいと思います。

A奈美さん ロールパンをそのまま出してしまった点ですよね。

中沢弁護士 まさにその通りです。

A奈美さん 食事箋に具体的な指示が書かれ、アセスメントシートと短期入所連絡票にも誤嚥の恐れがあることが明記され、実際に前日の昼と夜はそれに沿った食事が提供されていたのですから、責任ありとなっても仕方ないでしょうね。

介護施設が多額の損害賠償額を課せられた理由

A奈美さん 今回は損害賠償金が非常に大きい金額ですよね。理由はどうしてなのでしょうか。

中沢弁護士 一番大きい理由はY男さんの意識が戻らない状態になってしまったという点です。
このことが神経系統の機能または精神上著しい障害を残し常に介護を必要とする程度の後遺症と判断されたので、それに関連する慰謝料が2800万円認められました。

A奈美さん そういった基準で判断されることもあるんですね。

中沢弁護士 そうですね。他に入院費、調査費用などを合計して4055万円を支払えとの判決が出されました。それ自体は非常に大きな金額ではありあますが、被害を受けた方からすれば、このようなお金を払ってもらったからといって許せるようなものではありません。

A奈美さん 確かにそうですね。私たちも常に気をつけなければなりませんね。

【国立国際感染症センター 大曲センター長による新型コロナの現状と介護施設のするべき感染対策の記事を見てみる(対策チェックリスト表つき)

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中沢信介(Shinsuke Nakazawa)

弁護士

弁護士。1984年生まれ。2013年弁護士登録。 明治大学経営学部会計学科卒業後に弁護士になることを決意。明治大学法科大学院修了。法教育にも力を入れており年間十数件程度の小・中学校や高校を訪問している。多数の医療関係の法人の顧問も務め、病院の第三者委員会の委員としての経験も有している。

中沢信介の執筆・監修記事

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