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仕事・スキル 介護士の常識 2022/09/14

【作業療法士監修】寝たきりの高齢者の口腔ケア|手順と注意点

構成・文/介護のみらいラボ編集部 監修/安藤祐介 8.jpg

寝たきりの高齢者は、口腔機能や免疫力などが低下しやすくなるため、誤嚥や細菌の増殖、虫歯などのリスクが高まります。トラブルを防ぐためにも、毎日の口腔ケアを適切に実施し、高齢者の口腔内を清潔な状態に保つように心がけましょう。

しかし、介護現場で働き始めたばかりのスタッフのなかには、「寝たきりの高齢者に対して、どのような手順で口腔ケアを行ったらいいのか分からない」「うまくできているのか不安」という方も少なくありません。

この記事では、寝たきりの高齢者に口腔ケアを行う意義と手順、注意点を解説します。口腔ケアを正しく安全に行いたいと考える方は、ぜひ参考にしてください。

1.寝たきりの高齢者に口腔ケアを行う意義

口腔ケアによって口の中の衛生状態を良好に保ち、口腔機能の維持・回復を図ることで、口腔トラブルの予防と心身の健康維持が期待できます。

下記は、口内環境の悪化が直接的・間接的に招くとされるトラブルの代表例です。

● 誤嚥性肺炎
● 唾液分泌量の低下によるドライマウス(口腔内の乾燥)
● 口腔内を自浄する作用の低下
● 細菌・雑菌の繁殖
● 虫歯・歯周病の増加
● 味覚の変化
● 咀嚼力・嚥下機能低下
● 口腔内粘膜の炎症
● 発熱
● 低栄養
● 脱水
● 免疫機能や体力の低下
● 血管・臓器の機能障害
● うつ状態
● 認知機能低下

一方、口腔ケアを行うことで下記の効果やメリットが得られます。

● 誤嚥性肺炎予防
● 口腔内細菌・雑菌の減少
● 口臭改善
● 唾液の分泌促進
● 虫歯・歯周病予防
● 味覚の維持・回復
● 咀嚼力・嚥下機能の維持・改善
● 食欲の向上
● 会話する力・意欲の維持・回復
QOLの向上

口腔ケアには、口内を清潔に保つために行う「器質的口腔ケア」と、口腔機能などの維持・回復を目的とする「機能的口腔ケア」の2種類があります。高齢者の状態に合わせて、適切なケアを実施しましょう。

(出典:厚生労働省「要介護高齢者の口腔ケア」

2.寝たきりの高齢者に対する口腔ケアの方法

寝たきりの高齢者に対して口腔ケアを行う場合、誤嚥の危険性には十分注意しましょう。

誤嚥とは、飲食物や唾液を飲み込んだ時に気道(気管)に入ってしまうことで、70歳以上の高齢者が肺炎を起こす原因の約80%が誤嚥だと報告されています。また、高齢者が誤嚥性肺炎を起こす要因として、嚥下障害をはじめとした口内環境の悪化に加えて、口腔細菌の存在が挙げられています。

介護者による口腔ケアを必要とする高齢者の歯垢からは、誤嚥性肺炎の起炎菌が検出されるケースが少なくありません。そのため、口腔ケアで口内が十分に洗浄できていなかったり、汚染物の回収が不十分だったりすると、誤嚥性肺炎を発症する危険性が高まってしまいます。反対に、高齢者の介護度に応じて正しい口腔ケアを行えば、誤嚥性肺炎の可能性を下げることができます。

以下では、寝たきりの高齢者に口腔ケアを行う方法を解説します。

(出典:長寿科学振興財団「第5章 口腔ケア 2.誤嚥リスクがある高齢者への安全な口腔ケア『水を使わない口腔ケア』」

誤嚥を防ぐために姿勢を調整する

口腔ケアを行う時は、高齢者の状態に合わせて、誤嚥しにくい姿勢を取ってもらうことが大切です。口腔ケアの最中は唾液の分泌量が増えて、誤嚥を起こしやすくなるため、座位の姿勢を基本にします。

ただし、脊椎・背骨に異常があったり、体の筋力が低下していたりする場合は、座位になるのが困難なので注意が必要です。

座位が困難な方の場合は、30度~60度を目安に体を起こした上で、安定しやすい姿勢を取りましょう。その際、最も重要なのは首の角度です。あごが上がると誤嚥の危険性が高まるため、可能な限りあごを引いた状態を保ってください。ベッドにギャッジアップ機能がついていない場合は、枕やクッション、タオルなどを使用して調整します。膝裏や足元にもクッションをあてがうと、さらに姿勢が安定しやすくなります。

側臥位の姿勢しか取れない場合は、頭部を横向きに固定し、唾液や水などを吐き出しやすくすることが大切です。なお、体に麻痺がある人は麻痺側が上、健側を下にすることが原則とされます。

いずれの姿勢を取ってもらう場合でも、首が後屈・伸展しないよう十分に注意を払うことが、誤嚥予防のポイントとなります。

(出典:国立長寿医療研究センター「要介護高齢者に対する口腔ケア―第4版―」

誤嚥の危険性が低い場合:口腔ケアシステム

高齢者の口腔ケアは、嚥下機能の状態によって方法が異なります。嚥下機能の状態は、高齢者が自力でうがいができるか否かで判断しましょう。

問題なくうがいができる場合は、誤嚥を起こす危険性が低いと判断し、標準的な口腔ケアである口腔ケアシステムを実施します。口腔ケアシステムは特別な資格を必要とせず、1回5分程度で高齢者の口内を清潔にすることができます。

下記は、口腔ケアシステムを行う手順です。

●スポンジブラシで口腔内を拭う
水で薄めたうがい薬にスポンジを浸し、よく絞った後に歯と口腔粘膜をやさしく拭って、食べかすや歯垢をおおまかに取り除きます。

●歯ブラシで歯を清掃する
やわらかい歯ブラシにうがい薬をつけて、歯をブラッシング。食べかすや歯垢を丁寧に除去します。

●舌を清掃する
専用のブラシやスポンジブラシを舌の奥から手前に動かして、舌苔(ぜったい)をこすり取ります。力を入れすぎると舌を傷つけてしまう恐れがあるため、軽いタッチを心がけてください。

●うがいで口をゆすぐ
うがい薬で数回うがいしてもらい、清掃で出てきた残存物を洗い流します。

(出典:国立長寿医療研究センター「要介護高齢者に対する口腔ケア―第4版―」

誤嚥の危険性が高い場合:水を使わない口腔ケア

高齢者が自力でうがいをできない場合、誤嚥を起こす危険性が高いため、水を使用しない専門的な口腔ケアの実施が望まれます。

水を使わない口腔ケアは、歯科医師や歯科衛生士による実施が想定されている医療的ケアです。通常、資格を持たない介護職がこのケアを行うことはありません。しかし、どのような手順で行われるかを知っておくことは、決して無駄にはならないでしょう。

以下は、水を使わない口腔ケアを行う手順です。

●唇の周りを清拭する
唇や皮膚についた細菌や雑菌を口腔内に持ち込まないため、ポピドンヨードを染み込ませたガーゼで唇の周りを清拭します。

●唇を保湿してから口腔内を把握する
口腔ケア用のジェルを塗って唇を保湿し、開口時の出血を防止します。その後、口角鉤で唇を固定し、口腔状態を把握しましょう。

●口腔内を湿らせ汚染物をふやかす
専門的なケアを必要とする高齢者は、口腔内が乾燥しているケースが少なくありません。そのため、口腔ケア用ジェルで汚染物をやわらかくした上で、吸引嘴管を使って口腔外に除去します。

●歯を磨く
乾燥した汚染物にジェルが浸透するまでの間に、歯ブラシや歯間ブラシで歯の汚れを取り除きます。ブラッシングで出てきた汚染物は、吸引嘴管で吸引して口腔外に排出しましょう。

●口腔内を保湿する
スポンジブラシで仕上げの拭き取りを行い、口腔ケア用ジェルで口腔内を保湿します。

●唇を保湿する
水を染み込ませたガーゼで、唇の周りやポピドンヨードが付着した部分を清拭し、唇を保湿したら完了です。

(出典:国立長寿医療研究センター「要介護高齢者に対する口腔ケア―第4版―」

3.寝たきりの高齢者の口腔ケアを行う際の注意点

寝たきりの高齢者の口腔ケアを行う際は、以下の点に注意しましょう。

●口腔内をくまなくチェックする
口内炎、歯肉の腫れ、歯の欠け、義歯による傷などがあると、痛みや刺激を感じる原因になります。ケアを始める前に、口腔内に問題が発生していないかチェックしましょう。

●介護者は必要以上に手を出さない
介護では、高齢者本人の残存能力を生かすことが重要です。自助具を活用したり、清掃具を工夫したりして、できるだけ自力でケアできる環境を整えましょう。

●口腔内の乾燥を防ぐ
加齢の影響や薬の副作用で口腔内が乾燥すると、炎症を起こしたり感染症にかかったりしやすくなります。口腔ケア用ジェルを塗布する、あるいは口腔機能訓練やマッサージで唾液の分泌を促すなどして、口腔内の乾燥を防ぐことも大切です。

(出典:厚生労働省「要介護高齢者の口腔ケア」

まとめ

寝たきりで自力での保清が困難になった高齢者には、介助者による口腔ケアが必要です。うがいができる状態であれば、介護者が口腔ケアシステムを実施できるため、誤嚥を起こさないように注意を払いながら、丁寧に口腔ケアを行いましょう。

「介護のみらいラボ」では、口腔ケア以外にも介護の現場で役立つ情報を多数発信しています。介護業界や医療介護のニュースも随時更新しているので、実践に役立つ最新の知識と技術を身につけたい方は、ぜひ「介護のみらいラボ」をご覧ください。

※当記事は2022年5月時点の情報をもとに作成しています

▼監修者からのアドバイス

口腔ケアは高齢者を介護するうえで欠かせないものですが、口の中はデリケートかつプライベートな場所であるため、口腔ケアに抵抗感を示される利用者さんも少なくありません。

特に認知症がある方は口腔ケアの理解が難しいことがあり、時には入れた歯ブラシを噛んだり、頑なに口を開かなかったりする方もいらっしゃいます。ただ、これは致し方ない反応なのだと思います。こちらの記事をお読みの方も、もし知り合いに「口の中を見せてほしい」と言われたら躊躇すると思いますし、見知らぬ人に言われたら相当抵抗感があるのではないでしょうか。

そこで大切になるのが、日々の信頼関係です。最初の1回目で口腔ケアがうまくいかなくても、口腔ケア以外の場面でも小まめに声をかけ、挨拶する時には体調を気遣い、スキンシップを適切に活用することで、徐々に口腔ケアを受け入れてもらえる関係性を築くことができます。

もし拒否された時は「歯磨きしたくないですよね」と相手の気持ちを受け入れ、無理に実施しないことで「あの人は嫌なことをしない人」という印象につながり、次回以降の口腔ケアが円滑になるかもしれません。口腔ケアも人間関係からはじまります。こちらの記事を参考に、笑顔あふれる口腔ケアを目指されてください。

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安藤祐介(Yusuke Ando)

作業療法士

2007年健康科学大学を卒業。作業療法士免許を取得し、介護老人保健施設ケアセンターゆうゆうに入職。施設内では認知症専門フロアで暮らす利用者47名の生活リハビリを担当し、施設外では介護に関する講演・執筆・動画配信を行っている。

安藤祐介の執筆・監修記事

介護のみらいラボ編集部(kaigonomirailab)

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