介護の負担を軽くする!知っておきたいボディメカニクスの基本と活用法
文/まさ(理学療法士)
介護現場で、どうしたら介助量を減らせるか。これは、介護職が長く働くための重要なテーマとなっています。そこで大切になるのが、「ボディメカニクス」です。ボディメカニクスという言葉には、仰々しい印象もありますが、実は特別な知識は不要。基本的な原理原則を理解すれば、今日からでも実践できます。
今回は、ボディメカニクスを活用するための原則や実践方法、注意点などを詳しく解説します。この内容を理解すれば、あなたの介助の負担は大きく軽減するはずです。
- 目次
- 1.1.ボディメカニクスとは
- 2.ボディメカニクスの8原則
- ①支持基底面を広くとる
- ②重心の位置を低くする
- ③利用者さんとの重心を近づける
- ④利用者さんの身体をねじらず、小さくまとめる
- ⑤身体全体を利用し、大きい筋肉を使う
- ⑥水平移動を意識する
- ⑦身体をねじらない
- ⑧てこの原理を用いる
- 3.ボディメカニクスを活かせる場面
- ベッドから起き上がるとき
- 移乗するとき
- 歩くとき
- 4.ボディメカニクスを行う際の注意点
- 利用者さんとしっかりコミュニケーションをとる
- 利用者さんができる動作は自分で行ってもらう
- ボディメカニクスを常に意識する
- まとめ:ボディメカニクスを意識して今まで以上に介助負担を減らそう
1.ボディメカニクスとは
ボディメカニクスとは、body(身体)とmechanics(力学)を組み合わせた言葉で、「人が身体を動かすときに、骨・筋肉・関節がどのように作用するか?」を力学的観点からとらえた技術のことです。
実際の介護現場で、「介護するのに力は必要ない」といった言葉を聞いたことがあるかもしれませんが、この言葉はボディメカニクスの考え方そのもの。1つひとつの動作を力学的に理解できれば、最小限の力で介助できるため、身体的な負担を大きく軽減できるのです。
2.ボディメカニクスの8原則
ボディメカニクスには8つの原則があります。ここでは、それぞれについて詳しく解説していきましょう。
①支持基底面を広くとる
身体を支えるための床面積を「支持基底面」といいます。立っている状態であれば、両足の裏とその間の面積が支持基底面です。支持基底面が広いと身体の安定性が増して転倒の危険性が減り、支持基底面が狭いと不安定になりバランスを失いやすくなります。
次の3つの姿勢で、バランスを崩しやすい順番を考えてみてください。
- 両足を肩幅くらいに広げて立つ
- 両足を閉じて気をつけの姿勢をとる
- 片足立ち
最もバランスを崩しやすいのは「片足立ち」で、次が「気をつけの姿勢」ですが、これには支持基底面の広さが大きく関係しています。
「片足立ち」は、その名の通り片足で立つので、支持基底面が狭くなってしまいます。また、同じ両足で立つ姿勢でも、「気をつけの姿勢」のほうが、「両足を肩幅くらいに広げて立つ」より支持基底面が狭くなるため、バランスが崩れやすくなります。
この考え方は介助する場合も同じです。両足を広げて支持基底面を広くすれば、姿勢が安定し、利用者さんも安心して身を任せられます。余計な力も入らないため、お互いの負担を軽くできるでしょう。
②重心の位置を低くする
身体の安定性を向上させるために、もう1つ意識すべきなのは、「重心の位置を低くする」ことです。
スポーツの練習では、「重心を低くして構えて」という言葉をよく耳にしますが、あの言葉は安定性を高めるのが狙いです。
では、なぜ重心を低くしたほうが安定しやすいのでしょう。重心の位置が高いと、簡単に支持基底面から身体の重心が外れてしまうからです(身体の重心が支持基底面内にあるほうが安定します)。
同じ10kgの重さのものがあったとして、高さが高いものと低いものではどちらのほうが倒しにくいか考えてみてください。高さが低いもののほうが、倒しにくいはずです。同様に、介助するときも、重心の位置を低くするほうが安定性は向上します。ただし、重心を低くしようとして、腰を曲げるのはおすすめできません。この方法は、逆に腰を痛める危険性が高いため注意しましょう。
ポイントは、両足を広げて支持基底面を広く保ち、両膝関節を曲げて身体の重心を低くすることです。
③利用者さんとの重心を近づける
利用者さんと重心の距離を近づけることで、少ない力で介助できるようになります。
まずは、次の2つの方法で、10kgのお米を持つときの負担を想像してみてください。姿勢は立ったままで、両腕を上げている状態です。
1.両肘関節を伸ばした状態で10kgのお米を持つ
2.両肘関節を曲げた状態で10kgのお米を持つ
重さは同じ10kgなのに、2のほうが負担は少ないと思いませんか?
なぜかというと、物体を持ち上げようとするときは、自分の重心と物体の重心の「水平面上の距離」が近いほど、より小さい力で持ち上げられるからです。
しかし、実際の介助においては1つ注意点があります。それは、重心の距離を近づけながらも、利用者さんが動作できるスペースを確保しておくことです。
介助する際、距離を近づけすぎて、利用者さんとの間にスペースがなくなっている。そんな光景を目にすることがありますが、そうした状態だと利用者さんは動きたくても動けなくなり、逆に介助量が増えてしまいます。
介助は、あくまでも利用者さんの動きを補助するのが目的なので、利用者さんが動けなくなるほど距離を近づけないようにしましょう。
④利用者さんの身体をねじらず、小さくまとめる
重さが同じであれば、利用者さんの身体を小さくまとめたほうが、力が分散されにくくなり、余計な摩擦も減らせます。そのため、身体をねじって動かそうとするより、動かしやすくなるでしょう。
利用者さんの腕を胸の上にのせ、膝を立てるなどして身体をできるだけ小さくまとめると、介助しやすくなります。
⑤身体全体を利用し、大きい筋肉を使う
身体介助では、つい腕の力に頼ってしまう場面もありますが、身体の一部分や小さな筋肉だけを使うと、負担が一点に集中してしまいます。
介助する際には、背中、腰、太ももなどの大きな筋肉を一緒に使うように意識すると、一部分への負担が軽減できる(分散される)はずです。
⑥水平移動を意識する
ベッドからの移乗などを介助するときは、持ち上げる・おろすといった縦の動きではなく、横の動き=水平移動を意識しましょう。
持ち上げる・おろすなどの縦の動きは、重力の影響を強く受けるため、利用者さんがうまく立てないときなどに、介護者の腰に負担がかかってしまうからです。
健常者であれば、重力の影響はさほど大きくはありませんが、筋力が低下している利用者さんの場合は、重力が動作を妨げる大きな原因になります。移乗のときは、ベッドの上を滑らせるような水平移動を意識することで、小さな力での介助が可能になるでしょう。
⑦身体をねじらない
利用者さんの身体をねじってしまうと、動く際にバランスを崩しやすくなり、力がうまく伝わりません。腰への負担も大きくなるため、できる限り身体をねじらないようにしましょう。
具体的には、つま先を動作方向に向けて介助すると、姿勢が安定して体重移動もスムーズに行えます。
また、押す動作よりも引く動作のほうが、小さい力で動かせます。押す動作は介護者の腰への負担が大きくなり、腰痛を引き起こす危険性もあるので注意してください。ただし、力まかせに引っ張ると、利用者さんが恐怖心を感じる可能性があります。静かに手前へ引くように配慮しましょう。
⑧てこの原理を用いる
てこの原理とは、小さな力で大きな力を生み出せる原理のことです。支える部分(支点)、力を加える部分(力点)、加えた力が働く部分(作用点)を意識して介助を行うと、小さい力でも介助が行えるでしょう。
3.ボディメカニクスを生かせる場面
ボディメカニクスは、以下のような場面で生かせます。
ベッドから起き上がるとき
ベッドから起き上がるときのボディメカニクスの活用方法は、次の通りです。
起き上がるほうに横向きになってもらったら、あごを引き両手を胸の前で組んで、利用者さんの身体を小さくまとめます。あわせて、股関節を90度に曲げ、膝関節をベッドの端から出して、かかとをおろしてもらいましょう。
その後、利用者さんに近づいて距離を短くし、利用者さんのお尻を支点に、てこの原理を意識しながら起き上がりを行います。
●関連記事:水平移動・上方移動の手順とは?
移乗するとき
移乗する際も、ボディメカニクスが役立ちます。ここでは、ベッドから車椅子への移乗を想定して説明します。
まず、利用者さんの足裏が床につくように、ベッドの高さを調節します。その際、車椅子の座面のほうが高いとお尻が引っかかって移乗しにくいため、ベッドの高さを車椅子の座面より少し高くするのがポイントです。
しっかりとベッドに座ってもらったら、介助者は腰を落として重心を下げ、両腕を利用者さんのわきの下に入れて立ち上がる準備をします。
両足に力を入れて立ち上がってもらったら、膝関節を軽く曲げたまま水平に移動させ、車椅子に移乗してもらいます。
その際、介助者は足をしっかり広げて支持基底面を広くとり、利用者さんの重心が介助者の支持基底面に収まるように意識しましょう。
●関連記事:移乗介助の正しい方法は?
歩くとき
歩行を介助する場合は、歩行の動作を妨げない程度に身体を近づけて介助します。その際、利用者さんとの距離が短すぎると、重心移動を妨げてしまうため、利用者さんとの距離に注意しましょう。
また、介助して歩く場合は、利用者が右足を出す際に介助者も一緒に右足を出すなど、歩行のタイミングや歩幅などを合わせることも大事です。そうすることで、スムーズな歩行介助ができるでしょう。
●関連記事:介護職員に必要な介護技術とは?
4.ボディメカニクスを行う際の注意点
ここまで説明したようにボディメカニクスを意識すると、小さい力で介助ができるようになります。ただし、ボディメカニクスを最大限に生かすためには、以下の点に注意する必要があります。
利用者さんとしっかりコミュニケーションをとる
ボディメカニクスを有効に活用するには、利用者さんが安心して介助に協力できる環境をつくることが大切です。
利用者さんとしっかりコミュニケーションをとりながら、丁寧に介助の手順や意図を伝えましょう。
利用者さんができる動作は自分で行ってもらう
介助する際によく見られるのは、利用者さん自身ができる動作まで介助しようとする場面です。
利用者さん自身に行ってもらうと、1つの動作に時間がかかってしまうこともあるでしょう。しかし、利用者さん自身ができることを介護者が繰り返し介助してしまうと、身体機能の低下を早めてしまう可能性があります。その結果、これまで以上の介助量が必要になってしまうことにもなりかねません。
そうならないためには、日々の介助を通じて、各動作のどの場面で介助が必要かを把握しておくことが重要です。
ボディメカニクスを常に意識する
ボディメカニクスを生かした介助は、くり返し行って少しずつ習得していく技術です。そのため、介助するときは、常にボディメカニクスを意識して行いましょう。
最初はうまくできない場面もあると思いますが、毎日意識すれば、数カ月後にはより小さい力で、効率よく介助できるようになるはずです。
まとめ:ボディメカニクスを意識して今まで以上に介助負担を減らそう
介護の現場では、疾患などの影響で身体機能が不自由になった利用者さんを相手にする機会が多いため、介助者の身体に大きな負担がかかる場合があります。
しかし、ボディメカニクスを意識しすれば、重労働だと思っていた利用者さんへの介助が楽に行えるようになるはずです。
ボディメカニクスは、教えてもらった日からすぐにできないこともありますが、8つの原則を意識しながらくり返し行えば、必ず身につけることができます。今回の記事を参考に、ご自身の介助方法を見直してみてください。
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