精神保健福祉士になるには?仕事内容や将来性などを解説
文/倉元せんり(社会福祉士)
精神保健福祉士は、精神科病院や障害福祉サービスの事業所、行政機関などで幅広く活躍する精神保健のスペシャリストです。精神保健福祉士として働くためには、年1回行われる国家試験に合格しなければなりません。国家試験を受験するにあたっては、受験資格を満たした上で、合格に向けて十分な準備をすることが大切です。
この記事では、「精神保健福祉士国家試験」の受験資格や合格率、精神保健福祉士の具体的な仕事内容、勤務先などを解説します。精神保健福祉士に向いている人の特徴についても紹介しますので、精神保健福祉士の資格取得を考えている方や興味を持っている方は、ぜひ最後までご覧ください。
1.精神保健福祉士とは
精神保健福祉士は、精神障害のある方やその家族に対して、相談援助、生活支援を行う専門家です。支援対象となる精神障害には、うつ病や統合失調症、認知症をはじめとする認知機能障害、発達障害などがあります。これらの疾患により、日常生活に困りごとがあったり就労が制限されたりする場合、精神保健福祉士は生活課題を整理して、社会参加や社会復帰を支援します。
精神保健福祉士は、精神科病院や行政機関をはじめ、さまざまな場所で活躍しており、2022(令和4)年時点の登録者数は約10万人に達しています。
現代社会は「高ストレス社会」ともいわれており、メンタルヘルスケアが重要な課題となっています。日常的な精神面の不調予防から病気発症後のサポートまで、多岐にわたって活躍する精神保健福祉士の存在は、今後ますます重要度が増すでしょう。
2.精神保健福祉士になるには
精神保健福祉士になるためには、年1回の「精神保健福祉士国家試験」に合格する必要があります。国家試験を受験するためには、受験資格を満たさなければなりません。受験資格を得る方法は、学歴や実務経験によって異なるので、自身の状況に当てはめて確認しましょう。
ここでは受験資格の取得方法を、3つに分けて解説します。
保健福祉系大学・短大等(指定科目履修)ルート
保健福祉系大学・短大等で指定科目を履修した方は、以下の条件を満たすことで受験資格を得られます。
- 保健福祉系大学等(4年):指定科目履修
- 保健福祉系短大等(3年):指定科目履修+相談援助実務1年
- 保健福祉系短大等(2年):指定科目履修+相談援助実務2年
4年制大学で精神保健福祉士の国家試験に必要な指定科目を履修した方は、卒業と同時に受験資格が得られます。2年制・3年制の短大では指定科目の履修に加えて、相談援助の実務経験が必要です。
短期養成施設ルート
大学などで指定科目を履修していない方や社会福祉士の方は、短期養成施設に通って受験資格を取得する必要があります。
短期養成施設ルートに該当する方は、以下の条件を満たすと受験資格を取得できます。
- 福祉系大学等(4年):基礎科目履修+短期養成施設等
- 福祉系短大等(3年):基礎科目履修+相談援助実務(1年以上)+短期養成施設等
- 福祉系短大等(2年):基礎科目履修+相談援助実務(2年以上)+短期養成施設等
- 社会福祉士登録者:短期養成施設
短期養成施設は、福祉系大学などで基礎科目を履修した方が、精神保健福祉士に必要な専門知識を学ぶ施設です。福祉の基礎知識がある方を対象としているため、2-3で紹介する一般養成施設と比べて、短期間で受験資格が得られます。
短期養成施設では、6か月以上にわたって精神保健などの専門知識を学び、課程を修了することで、国家試験の受験資格が得られます。通信課程の学校が多く、仕事をしている方でも学びやすいのが特徴です。ただし、試験などで通学が必要な場合もあるため、通いやすいエリアから選ぶことが大切です。
一般養成施設等ルート
福祉系大学・短大以外の大学を卒業した方や高卒の方は、一般養成施設等ルートに該当します。
このルートに該当する方は、以下の条件を満たすことで受験資格を得られます。
- 一般大学等(4年):一般養成施設等
- 一般短大等(3年):相談援助実務1年+一般養成施設等
- 一般短大等(2年):相談援助実務2年+一般養成施設等
- 相談援助実務4年:一般養成施設等
一般養成施設では、課程修了するまでに1年以上の期間が必要ですが、施設によっては1年6か月以上かかる場合もあります。養成施設を選ぶ際は、修了までに必要な期間を確認しておくと安心して受講できるでしょう。
3.精神保健福祉士の合格率と難易度
精神保健福祉士の合格率は、例年60%台で推移していましたが、2023〜2024年は70%を超えており、上昇傾向にあります。
ここでは、過去5年間の精神保健福祉士の国家試験合格率を紹介します。
年度 | 受験者数 | 合格者数 | 合格率 |
---|---|---|---|
2024年(第26回) | 6,978名 | 4,911名 | 70.4% |
2023年(第25回) | 7,024名 | 4,996名 | 71.1% |
2022年(第24回) | 6,502名 | 4,267名 | 65.6% |
2021年(第23回) | 6,165名 | 3,955名 | 64.2% |
2020年(第22回) | 6,633名 | 4,119名 | 62.1% |
出典:厚生労働省「第26回精神保健福祉士国家試験合格結果を公表します」
同じ介護福祉系の資格である介護福祉士試験の合格率は70%前後、社会福祉士の合格率は30~40%前後となっており、精神保健福祉士の難易度はそれほど高くないといえます。とはいえ、精神保健福祉士の試験科目は17科目あり、総得点の6割ほどを正解しなければ合格できません。着実に合格を目指すためには、計画的な学習が必要になるでしょう。
●関連記事:社会人でも精神保健福祉士になれる?働きながら資格を取るポイントも
4.精神保健福祉士の主な勤務先と仕事内容
2020(令和2)年度の「精神保健福祉士就労状況調査」の結果を見ると、精神保健福祉士の約3割が医療分野に、同じく約3割が障害福祉分野に就労しています。また、行政機関でも約1割の精神保健福祉士が働いています。
ここでは、精神保健福祉士が活躍する各分野の勤務先と仕事内容について紹介します。
医療分野
医療分野で働く精神保健福祉士は、主に以下の場所で勤務しています。
- 精神科病院
- 精神科・心療内科クリニック
- 精神科デイケア
医療分野で働く精神保健福祉士の主な業務は、退院後に患者さんが自分らしい地域生活を送れるように支援することです。具体的には、退院に向けて医師や看護師、作業療法士などと連携しながらグループワークを実施し、社会復帰に必要なコミュニケーション能力や生活スキルを身につけられるようにサポートします。
デイケアや訪問看護の利用調整を行うなど、退院後の生活でも十分な支援を受けられるように、体制を整えるのも大切な役割です。
また、退院後も患者さんとの関わりを継続し、患者さんの精神症状が悪化した場合には、本人や家族と相談の上、入院に向けた調整なども行います。受診や入院の時には、医師の診断に必要な情報を収集するほか、学校や職場との間で調整を行ったり、医療費に関する相談に応じたりと、包括的な支援を提供します。
障害福祉分野
障害福祉分野における精神保健福祉士の主な職場は、以下の通りです。
- 相談支援事業所
- 就労支援事業所
- グループホーム
- 地域活動支援センター
それぞれの職場の目的に合わせて、精神保健福祉士の役割も違ってきます。例えば、相談支援事業所では相談支援が業務の大半を占めますが、就労支援事業所では就職に関する助言や支援が主な役割です。
住まいを提供するグループホームや、日中の活動の場を提供する地域活動支援センターでは、利用者の生活全般をサポートします。
これらの職場に加えて、生活保護受給者が入所する救護施設や更生施設、児童養護施設などにも、精神保健福祉士が配置される場合があります。そうしたケースでは、メンタルヘルスに課題を抱える方に対して、安心して生活できるような環境調整や支援体制の構築などを行うのが精神保健福祉士の役割です。
行政分野
精神保健福祉士は行政分野でも活躍しており、主に以下の職場に配置されています。
- 自治体
- 保健所
- 自治体の保健センターや精神保健福祉センター
行政分野の精神保健福祉士は、精神保健福祉センターや保健所、障害福祉課などで地域住民を支援します。主な業務内容は、精神障害のある住民に対して、福祉サービスの紹介や申請手続きのサポートなどを行うことです。場合によっては、精神障害のある方が地域で暮らしやすくなるような計画の立案・策定にも携わります。
さらに、住民への理解促進や啓発活動を行うなど、地域全体で精神障害のある方を支える体制をつくるのも重要な役割です。
5.精神保健福祉士の年収
公益財団法人 社会福祉振興・試験センターが公表している報告書によると、2019(令和元)年の精神保健福祉士の平均年収は404万円です。
ただし、この調査結果には、正規職員だけでなく契約社員やパート職員、派遣職員なども含まれています。正職員として働く場合は、もう少し金額が上がる可能性があるでしょう。
6.精神保健福祉士の将来性
現代社会のさまざまな課題を反映して、精神保健福祉士の需要は、着実に高まっています。例えば教育分野では、いじめやヤングケアラー、不登校などの問題に対応するため、スクールソーシャルワーカーとして精神保健福祉士を雇用する自治体が増えています。
精神保健福祉士は、子どもの心理的支援だけでなく、医療機関との連携や家族のサポートまで包括的に支援できる、専門性の高い職種です。そのため、精神保健福祉士にスクールソーシャルワーカーとしての役割が求められるようになり、教育分野での注目度が高まっているのです。
一方、企業では働き方改革の一環として、従業員のメンタルヘルスケアの充実が重視されています。2015年にストレスチェック制度が定められて以降は、精神保健福祉士がストレスチェックの実施者として、メンタルヘルス不調の早期発見や予防に携わるケースも増えました。
さらに、休職者の職場復帰支援では、医療機関との連携や職場環境の調整など、精神保健福祉士の専門性を生かした支援が求められており、産業保健分野での役割は今後さらに広がると予測されます。
このように、精神保健福祉士の活躍の場は、医療・障害福祉分野だけでなく、教育や産業分野にまで広がっていることを理解しておきましょう。
7.精神保健福祉士に向いている人
精神保健福祉士には、専門的な知識や技術に加えて、人と関わる仕事ならではの資質が求められます。具体的には、以下のような方が精神保健福祉士に向いています。
相手を思いやれる人
精神保健福祉士がクライエントとの信頼関係を構築するには、"同じ目線"でコミュニケーションを図ることが大切です。そのためには、指導的な立場ではなく、共感力を持って相手の気持ちに寄り添う姿勢が求められます。そうした思いやりの心が、精神的な不調を抱える方やその家族への理解を深め、適切なサポートを提供する基盤となるでしょう。
クライエントの思いを理解しようとしなければ、信頼関係が築けず、支援がうまくいかなくなってしまう場合もあるので注意してください。
客観的かつ冷静に判断できる人
精神保健福祉士は、さまざまな背景を持つクライエントと接するため、感情や状況に左右されずに客観的な視点を持つことが大事です。一人ひとりのクライエントに対する偏見や先入観を排除し、事実に基づいた冷静な判断を心がけることで、より適切な支援が可能になるでしょう。
精神障害がある方のなかには、病気のことだけでなく仕事や家族、経済的なことなど、さまざまな課題を抱える方が少なくありません。精神保健福祉士には、そのような複雑な状況でも冷静に優先順位をつけ、解決策を見出す姿勢も求められます。
粘り強く忍耐力のある人
精神障害がある方への支援には、時間がかかることも多いため、焦らず着実に支援を進めることが大切です。クライエントと信頼関係を築くのに時間がかかるケースもありますが、効果的に支援を行うには信頼関係が不可欠です。そうした時は、関係構築に向けて粘り強く関わりを続ける姿勢が必要でしょう。
忍耐力を持って長期的な視点で関われば、クライエントの心の変化や成長を見逃さず、より良い支援が提供できるはずです。
まとめ
精神保健福祉士は、精神障害がある方の相談援助や生活支援を行う専門職です。主な活動領域は医療分野や障害福祉分野ですが、近年は教育・産業分野にも活躍の場を広げています。
精神障害がある方の支援に興味がある方は、精神保健福祉士の資格取得を目指してみてください。
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