高齢者向け集団レクリエーションの環境作り10のコツ|認知症ケアの現場から(3)
文・写真/安藤祐介認知症ケアの現場では、日中の余暇活動として集団レクリエーション(以下、集団レク)を行うことがあるでしょう。
大規模な事業所では30~40名が参加する集団レクも珍しくなく、滞りなく行うには、場をまとめたり、利用者さん一人ひとりの状態を把握したりする能力が求められます。
しかし、特に認知症がある利用者さんの中には、突発的に立ち上がり転倒するリスクがある方や、集中力が続かず途中で傾眠される方もおり、レクの運営に悩んでいる介護職もいるのではないでしょうか。
そこで今回は、認知症ケア歴10年以上の作業療法士が自身の経験に基づき、認知症がある利用者さんに集団レクを行う時のポイントを解説します。
1.集団レクリエーションの効果と楽しんでもらうコツ
大勢の利用者さんが集まり体操やゲームを楽しむ場は、余暇時間を充実して過ごせるだけではありません。心身が賦活されることで認知機能の維持につながったり、活動と休息のメリハリがついて生活リズムが整ったり、一人で過ごす孤独感や不安感が和らいだりする効果も期待できます。
レクを楽しんでもらいたいと考えるあまり、「集団レクはどんな内容をやればいいのか」ということに目が行きがちではないでしょうか。ネット検索をしたりレク関連の雑誌を読んだりして、利用者さんが楽しめるネタを探している職員もいるかもしれません。
もちろん内容も大切ですが、集団レクを成功させるために必要なのは内容だけではありません。
実はそれ以上に大切なのが『環境作り』と『司会進行』であり、この2つが欠けていたら趣向を凝らした内容でも認知症がある利用者さんの集中力が続かなかったり、場が盛り上がり切らず終わってしまったりすることもあります。
今回は前編として『環境作り』を中心に10のポイントを解説します。
2.集団レクにおける環境作りのポイント
集団レクリエーションを成功させるために、おさえるべきポイントを10個ご紹介します。
ポイント1:席の間隔を狭める
集団レクに参加する利用者さんの席はできる範囲で詰めましょう。席と席との間隔を狭く設定することで場に一体感が生まれやすくなり、1人の笑い声が左右の利用者さんに聞こえることで笑顔や反応の輪が広がったり、隣同士で交流できることで会話が弾み関係性が深まったりすることもあります。
注意点として、コロナ禍では密集・密接な状況は感染リスクを高めるため、利用者さんや職員のマスク着用を徹底する必要があります。
ポイント2:反応が良い利用者を前列へ
職員の声かけにすぐ返答があったり、体操時に手足を大きく動かすことができたりする利用者さんがいたら集団の前列に席を用意しましょう。
前列に反応が良い方がいると、後列の利用者さんが動きを模倣して取り組みやすくなったり、「あの人がやってるなら私も頑張ろう」と積極性が増したりすることがあります。
また、司会進行する職員も前列に反応が良い利用者さんがいると、集団レクを盛り上げようとするモチベーションを最後まで持続させやすくなります。
ポイント3:利用者同士の相性を考える
相性の良い利用者同士が隣り合って座れるように席次を調整します。例えば、一生懸命取り組みたいAさんの隣に介護度が高いBさんを配置したら、Aさんは「ちゃんとならなきゃダメじゃないの」とBさんに対して強く当たるかもしれません。
Aさんの隣には、同じように一生懸命取り組むCさんに来てもらい、Bさんの隣には穏やかなDさんに来てもらうといったように、日々の利用者同士の人間関係や参加状況を気にかけながら席次を調整する必要があります。
ポイント4:リスクがある利用者さんは一か所に
車イスからの突発的な立ち上がり行為があったり、他利用者さんへの攻撃的な言動があったりするなどリスクが高い利用者さんは、できるだけ一か所に集まってもらうようにします。
レク中は大勢の様子を気にかける必要があり、リスクが高い方が様々な場所にいると職員の目が行き届かず事故に至るケースもあります。注意を払う場所を限定することで職員の見守りがしやすくなり、リスクの軽減につながります。
また、立ち上がった際などにすぐ転倒しないように、リスクが高い方はテーブルや手すりなど近くに掴まれる所がある席を用意することも効果的です。
ポイント5:尿意への対応
頻尿の利用者さんや職員がトイレの定時誘導をしている利用者さんは、レクの最中でもトイレに行きやすい席を用意します。
仮に頻尿の方が最前列にいたとすれば、トイレに行く度に後方にいる多くの利用者さん集中力が途切れやすくなり、トイレに行くご本人も中座することに心苦しさを感じるかもしれません。
集団の後方や端の席を用意する配慮を行えば、周囲に気兼ねなくトイレに行くことができ、その後レクの輪に復帰することも容易になります。
ポイント6:周囲の音を消す
認知症がある利用者さんの中には音に敏感な方がおり、周囲から様々な音が聞こえてくるとどこに注意を向ければいいのかわからず混乱したり、司会進行をしている職員の声を集中して聞き続けることが難しくなったりします。
そのため、館内放送やコール類の音量を下げたり、見ている利用者さんがいなければテレビは消したりして、司会進行をする職員の声を聞き取りやすくする配慮が必要です。
ポイント7:誘導の順番
集団レクの場を作る時は、リスクを軽減するために利用者さんを誘導する順番を工夫します。
基本的には、開始時はリスクが高い方を『最後』に誘導し、終了時はリスクが高い方を『最初』に誘導します。誘導時は利用者さんも職員も移動が多くなることで全体が慌ただしい雰囲気になりがちで、なかには不安を感じたり、落ち着かなくなったりする方もいます。
その状況下で、開始時にリスクが高い方を真っ先に集団レクの場に誘導したとしたら、他の方を誘導している最中に見守りが手薄になり、転倒・転落などの事故につながりかねません。開始時は全体の状況が整った後に、リスクが高い方を見守りできる席へ誘導します。
終了時は、リスクが高い利用者さんを最後まで誘導せず他の方を優先したとしたら、「私も戻らなきゃ」と考え自ら動き出す可能性があります。そのため、終了後は優先的に誘導し、馴染みがある席に戻ってもらうことがリスクの軽減につながります。
ポイント8:開始・終了時には音楽をかけておく
集団レクの場を作る時は、利用者さんが一斉に動き出すと職員の見守りが難しくなり事故のリスクが高まります。そこで、昔の流行歌や唱歌といった利用者さんに馴染みがある音楽を誘導の開始・終了時にかけておく工夫を行います。
すると、音楽が好きな方はそれを聞いたり口ずさんだりして席で待機していてくれるので、その間にお一人ずつ誘導することで移動時の安全が確保しやすくなります。また、職員の動きとして、その場にいる職員全員が誘導業務に参加するよりも、一人は全体の状況を俯瞰して見守っていたほうがより安全に誘導できます。
ポイント9:司会進行を担当する職員は一名
複数名の職員が集団レクに携わっている場合、何名もの職員が前に立ち司会進行をしたり、様々な方向から声を上げたりすると、利用者さんはどの職員や声に注目すれば良いのかわからず混乱につながることがあります。
司会進行を担当する職員は一名に限定し、周囲の職員はトイレ時の対応や手足が不自由な方の動きを手伝うなど、サポート役に徹したほうが利用者さんが集中して取り組めるでしょう。
ポイント10:馴染みがある職員が行う
集団レクを外部のボランティアや看護師・リハ職などが担当している事業所もあるかもしれませんが、できるだけ日常的に利用者さんの介護に携わる職員が中心に行ったほうが良いです。
なぜなら、参加している利用者さんの状態が詳しく把握できているということもありますが、集団レクはその場を楽しむこと以上に、日常的な介護に役立つものだからです。
例えば、普段は入浴介助や食事介助をしている職員が、集団レクの時は利用者さんの前に立ち、円滑に司会進行をしていたとしたら、参加している利用者さんの中には「あ、見たことがある職員さんがやってる」「あの人はこんなこともやるんだな」と感心したり、レク後に「あんたすごく上手だったよ」「どこで勉強してきたの?」と声をかけられたり、認知症がある利用者さんに「体操のお姉さん」「歌のお兄さん」と認識され信頼関係が深まったりと、さまざまな好ましい反応や変化が得られます。
3.レクは関係作りのきっかけにもなる
日々のレクの積み重ねで培われた関係性は、食事・入浴・排泄場面などで拒否が軽減したり動作への協力が増えたりと、巡りめぐって生活全体の支援につながります。1回1回のレクが大切な関係作りの場です。今回のポイントを生かし、楽しい集団レクを行って頂ければ幸いです。
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