介護のQOL(クオリティ・オブ・ライフ)とは? 利用者の生活の質を上げる4つの方法
構成・文/介護のみらいラボ編集部近年では、医療・介護業界のみならず身近なところでも「QOL:Quality of Life」という言葉をよく耳にするようになりました。QOLは簡単に言うと「生活の質」という意味であり、医療・介護業界では患者さんや利用者が希望とする過ごし方をサポートするために重要な考え方です。
そこで今回は、QOLの詳しい意味や重要視されている背景から、評価指標や、向上させるための方法まで徹底的に解説します。医療スタッフ・介護スタッフとして、患者さんや利用者の生活をしっかり支えたいと考えている方は、ぜひ参考にしてください。
1.QOLとは?
QOLとは、「Quality of Life(クオリティ・オブ・ライフ)」の頭文字をとった略称で、日本語では「生活の質」を指します。QOL(生活の質)と健康は深いつながりにあることから、医療・介護業界では重要とされている考え方です。
WHO(世界保健機関)は、「健康」を下記のように定義付けています。
健康とは、病気でないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態にあること
QOLの定義は多種多様であるものの、WHOは「個人が生活する文化・価値観において、目標や関心に関する自分自身の状況に対する認識」と定めています。
このことから、何を幸せの価値観とするか、何が満たされる理由となるかは人によって違いがあることがわかります。
QOLが重要視されている理由
前述の通り、QOLは医療・介護現場において重要視されている考え方です。特に要介護度の高い利用者に対してサービスを提供する事業所や、終末期患者さんに対して緩和ケアを行う病棟では、豊かな人生を送るためのQOLの維持・向上が重視されています。
肺炎や結核などの急性疾患を患う人が多かった数十年前までは、本人に大きな負担がかかる治療も多く、自らが希望する生活ができないケースも多々ありました。
こうしたことから、QOLの概念が発展し始めます。加えて医療も発展し、患者さんの希望を尊重した治療を行うようになりました。これにより、加齢や慢性疾患に伴う身体機能の低下に対応する介護ニーズも瞬く間に上昇します。
そして現在では、QOLを重視すべき指標として、医療現場・介護現場において患者さん本人やその家族の希望に寄り添ったサービスを提供することが基本となりました。
QOLとADL・IADLの関係性
QOLと関連性の深い指標には、「ADL」「IADL」があります。ADLは日常生活を送るために必要となる基本的な動作である「基本的日常生活動作」を指し、IADLは日常生活を送るために必要となる応用的な動作である「手段的日常生活動作」を指します。
ADL |
●食事 ●排せつ・入浴 ●移動 など |
---|---|
IADL |
●料理・家事・掃除 ●買い物 ●電話対応 など |
例えば、嚥下機能が低下して食事が思うようにとれない状態となれば、それは「ADLの低下」にあたります。ADLが低下して食事がとりづらくなってしまうと、QOLも低下してしまいます。
しかし、必ずしもADL・IADLの上昇や低下がQOLを左右するわけではありません。例えば、歩くことが困難となってしまった人に歩行訓練を行い、杖を持てばある程度歩けるようになった(ADLの上昇)としても、歩いての外出は心の満たされる経験とはならないでしょう。この場合、車いすを用いて行きたい場所へ気軽に行くほうがQOLの向上につながりやすくなります。
このように、QOLとADL・IADLは密接な関係にあるものの、必ずしもつながり合うわけではないことを覚えておきましょう。
2.QOLの評価指標2つ
医療・介護業界におけるQOLの評価指標としてよく用いられるのは、「EQ-5D」と「SF-36」の2つです。いずれも健康関連QOLの測定を目的につくられた包括的評価指標ですが、それぞれ評価項目や点数が異なります。
ここからは、QOLの評価指標であるEQ-5DとSF-36の概要や項目について、詳しく説明します。
EQ-5D
EQ-5Dとは、ヨーロッパの研究グループにより開発されたQOLの評価指標です。医療従事者・介護従事者でなくても簡易的に測定できるQOLの評価指標として、幅広い分野で用いられています。日本語版では、開発グループのEuroQolが定めた共通の方法に基づき日本が独自に作成した換算表を用いてQOLを測定します。
EQ-5DにおけるQOLの主な調査項目は、「移動」「身の回りの管理」「普段の活動」「不安・ふさぎ込み」の5つです。回答結果をもとに、1・2・3の基準化されたスコアを判断します。
【スコア例】
項目 | 回答 | スコア |
---|---|---|
移動 | 問題なく歩行ができる | 1 |
歩行にいくつかの問題がある | 2 | |
寝たきりの状態である | 3 |
項目を順に調査し、最終的に判定したスコアをもとに最終的なQOLの状態を測定します。どの質問も1のスコアが最もよいため、スコア1が多いほどQOLの状態はよいと判断できます。
SF-36
SF-36とは、さまざまな疾患に対応したQOLの包括的尺度であり、世界中の医療・介護分野において最も普及している評価指標です。多くのデータが蓄積されているため、より正確にQOLを測定することができるだけでなく、疾病の異なる患者さん同士でQOLを比較することもできます。
SF-36は合計36もの質問から構成されており、質問の回答内容によって下記8つの領域におけるQOLを測定することが可能です。
(1)身体機能:PF
(2)日常役割機能(身体):RP
(3)体の痛み:BP
(4)全体的健康感:GH
(5)活力:VT
(6)社会生活機能:SF
(7)日常役割機能(精神):RE
(8)心の健康:MH
配点は0~100点で、得点が高いほどQOLの状態はよいと判断できます。
3.要介護者のQOLを向上させるための方法4選
人々のQOLが低下してしまう主な原因は、健康状態の悪化・身体機能の低下・精神的なストレスが挙げられます。
病院や高齢者向け施設を利用する高齢者は加齢に伴う機能低下が著しく、サポートを受けることによってかえって精神的な負担を抱えてしまうケースも多々あります。そのため、特に日頃から周囲の人の支援を受ける要介護者には、QOLを向上させるための何らかの工夫が必要です。
ここからは、要介護者のQOLを向上させるための方法を4つ紹介します。
要介護者のことを知る
介護施設に勤務するスタッフが利用者のQOLを向上させるためには、まず一人ひとりの利用者のことを細部まで知ってあげることが最も大切です。前述の通り、何を幸せの価値観とするのかは一人ひとり異なるためです。
利用者本人の希望を理解するためには、利用者をしっかり観察し、日頃からコミュニケーションを持つことが大切です。積極的なコミュニケーションは、利用者それぞれの趣味や、生きがい、特技、習慣を把握する材料にもなります。
適度な運動を取り入れる
人間は加齢に伴い、身体機能が低下していきます。身体機能が低下すると、歩くこと・走ることはもちろん、衣服の着脱や入浴・排せつが困難となり日常生活に支障をきたしてしまいます。これは、QOLの低下につながる大きな要因です。
そのため、要介護者には日頃から適度な運動を取り入れることが望ましいでしょう。椅子に座る・立つを繰り返したり、施設の外をゆっくり散歩したりするなど、要介護者の状態に合わせて、強い負担を感じてしまわない程度の運動内容や時間で取り組みを導入することがポイントです。
また、慣れてきたからといって運動のレベルを上げてしまうと、けがを引き起こす可能性があります。けがによってADL・IADLが低下すれば、QOLの低下につながるため、要介護者が気軽に楽しみながら取り組める運動を実施しましょう。
交流の場を設ける
QOLを向上させるためには、交流の場を設けることも大切です。特に高齢者向け施設に入居する要介護者の場合は、社会的な交流がなくなり刺激のない日々を送ることも多々あります。
このような要介護者に対して、交流の場を設けて利用者同士のつながりを促進することは、QOLの向上に有効とされています。定期的に実施するレクリエーション活動でコミュニケーションが活発になる遊びを取り入れるとよいでしょう。
また、中には他者との積極的なコミュニケーションがかえってストレスになる利用者もいます。ストレスが増えるとQOLも低下してしまうため、利用者一人ひとりが望む「人との関わり方」も考えてあげなければなりません。
とはいえ、コミュニケーションが脳に与える好ましい影響は多いため、このような利用者に対しては適度なコミュニケーションの機会を与えたり、違った形で交流ができるよう工夫をしたりしましょう。
過度な介護を避ける
過度な介護は、QOLを低下させかねません。必要以上に介護をすることによって、要介護者がサポートに甘えて自身で動くことが少なくなり、ADL・IADLを低下させる可能性があります。「介助者が見守りながら、できることは自分で行ってもらう」、「手助けが必要なときは、適切なサポートを提供する」ことを心がけましょう。
まとめ
QOLとは、「Quality of Life」の頭文字をとった略称であり、日本語で「生活の質」を意味します。健康であるためには、肉体的・精神的に満たされた状態であることが欠かせません。このことから健康とQOLは、密接な関係にあります。
高齢者向け施設で働く介護従事者は、要介護者(利用者)のQOL向上に向けて、「利用者のことを知る」「適度な運動を取り入れる」「交流の場を設ける」「過度な介護を避ける」ことを意識しましょう。
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※当記事は2022年4月時点の情報をもとに作成しています
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