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仕事・スキル 介護士の常識 2022/09/15

【作業療法士監修】体位変換とは?具体的な方法や行う際の注意点も解説

構成・文/介護のみらいラボ編集部 監修/安藤祐介 9.jpg

有料老人ホームをはじめとする介護施設や、訪問介護サービスで働く介護職にとって、欠かすことのできない介護技術に「体位変換」があります。体位変換は、体を自由に動かすことが困難になった利用者の健康を維持するために、介護職が日々行う大切な業務です。

しかし、やり方を間違えると利用者さんにけがをさせたり、大きな負担をかけてしまったりする可能性があることから、「自分にできるのか不安」と考える新人介護職も多くいるでしょう。

そこで今回は、体位変換の概要や体位変換で予防できること、基礎知識として押さえておきたい体位の種類、基本的なやり方、行う際の注意点について詳しく解説します。

1.体位変換とは

体位変換とは、「自分の力で体の向きを変えることができない方の体位を、介助者が変えること」を指す言葉です。

体を自由に動かすことのできる方は寝ている間、無意識に寝返りを打ち、姿勢や体の位置、向きを変えています。そして、定期的に体の位置を変えることは、体にかかる圧力を分散し、血流を良くすることにもつながります。

しかし、何らかの理由で体を自由に動かすことのできない方は、無意識に寝返りを打つことができません。そのため、長時間同じ姿勢で睡眠をとることになり、体に大きな負担がかかります。

体位変換は、長時間同じ姿勢になることを予防するために行われるものであり、要介護者が利用する介護施設はもちろん、要介護者がいる家庭内でも行われます。また、医療機関では、看護師が体位変換の業務を行っています。

体位変換によって予防できること

長時間同じ姿勢で寝ていると、体にかかる圧力を分散できず、さまざまな悪影響を及ぼしてしまいます。そのため、体位変換は基本的に2時間程度の間隔で行うことが推奨されています。しかし、要介護者の状態や使用しているマットレスの種類、ポジショニングの有無により必要な体位変換の間隔は変わるため、一人ひとりに合わせて臨機応変に対応することが大切です。

定期的な体位変換を行うことは、下記の症状を予防するためにとても重要です。

●褥瘡(床ずれ)
寝返りができない状態が続くと、体の一部に圧力が集中し、血液の流れが妨げられます。そして、その状態を放置すると皮膚が壊死し、褥瘡を引き起こす可能性が高まります。褥瘡はさまざまな感染症の原因にもなるため、体位変換を行ってしっかり予防することが大事です。

●血流障害や体のむくみ
長時間同じ姿勢で寝ていると、血液だけでなくリンパの流れも妨げられます。放置すると血流障害や体のむくみが起こりやすくなり、そこから壊死や栄養障害につながるおそれがあります。

●関節拘縮
長時間体を動かせないでいると、血行不良などにより体に痛みや苦痛を感じ、筋肉や関節が凝り固まってしまいます。また、痛みや苦痛を放置していると、結果的に関節拘縮を引き起こす恐れもあります。関節拘縮が起きると関節可動域がより狭くなり、腕や足の曲げ伸ばしが困難になる可能性もあるため、注意が必要です。

2.体位変換における体位の種類

体位変換では、自分の力で体を動かすことの難しい要介護者が対象となっており、医療施設や介護施設では職員の重要な業務となっています。

介護において、体位は大きく「立位」「座位」「臥位(がい)」の3種類に分けられます。介護施設では、寝ている状態(臥位)での体位変換が頻繁に行われるため、事前に知識を身に付けておくと良いでしょう。

臥位はどのように寝ているのかによって、体位の呼び方が変わります。下記は、臥位における体位の種類です。

●仰臥位(ぎょうがい)
仰臥位は、あおむけで寝ている状態を指します。支持面が広く筋緊張も少ないことがメリットですが、舌が落ち込み気道が閉塞されやすい、咳がしにくいなどの点に注意が必要です。

●側臥位(そくがい)
側臥位は、横向きに寝ている状態を指します。動きやすく姿勢が変えやすい一方で、支持面が狭いことから、不安定で体勢が崩れやすい点に注意が必要です。

●腹臥位(ふくがい)
腹臥位は、顔を無理のない範囲で横に向け、うつ伏せで寝ている状態を指します。職場によっては、「伏臥位」と書くこともあります。安定性が高く、呼吸機能が改善されやすい一方で、自力での体位変換が難しくなる点に注意が必要です。

3.体位変換の基本的な方法・手順

体位変換を行う際は、下記のものを準備しておくと良いでしょう。

● 枕
● バスタオル、またはフェイスタオル
● クッション

これらのアイテムは、拘縮などで体が重なっているところ・浮いているところに用いて筋緊張を和らげたり、骨が出ているところ・皮膚が薄いところに使って体圧を和らげたりする際に有効です。利用者さんへの負担を抑えるためにも、さまざまなサイズのアイテムを用意しておくと良いでしょう。

介護施設で行う体位変換の基本的な手順は、下記を参考にしてください。

(1)「体を向けたい側の反対」に立つ
体位変換を行う際、介助者は「利用者さんの体を向ける側」を決め、その反対に立ちます。仰臥位で寝ている利用者を左側臥位に体位変換する場合、介助者は利用者の右側に立ちます。体位変換を受ける利用者さんが全介助レベルである場合には、胸の上で両手を組んでもらったり、ひざを立ててもらったりして、なるべく小さく体をまとめてもらいましょう。

(2)利用者さんの体を介助者のほうに引き寄せる
(1)の体勢がとれたら、片方の腕を利用者さんの後頭部から肩に差し込み、もう片方の腕を腰の下に差し込んで、上半身を手前に引き寄せます。上半身の引き寄せが終わったら、後頭部から肩に差し込んでいた側の腕を腰の下に、腰の下に差し込んでいた側の腕をひざ下に差し込んで、下半身を手前に引き寄せます。このように、上半身・下半身と分けて丁寧に行うことがポイントです。なお、体を引き寄せる時は、あらかじめ枕を手前側に寄せておきましょう。

(3)「体を向けたい側」に立ち、手前に倒す
反対側に寄せたら、次は体を向ける側に移動します。仰臥位の利用者を左側臥位に体位変換する場合、介助者は利用者さんの左側に移動します。その後、上から肩と膝に手を添えながら、手前(介助者側)に倒すように体の向きを変えましょう。体の向きが変わったら、安定性を高めるために背中側に枕やクッションを置くのがポイントです。また、下側になった肩やお尻の入り込みを防ぐため、一旦肩やお尻を浮かせて位置を調整すると良いでしょう。

(4)体が重なっている部分・浮いている部分にクッションを入れる
体が重なっているところや浮いているところがあると、圧がかかったり筋緊張が起こったりします。腕や足の間や体が浮いている場所には、厚みのあるクッションを差し込むと良いでしょう。これで体位変換は完了です。

(出典:公益財団法人 長寿科学振興財団 健康長寿ネット「介助者による体位変換」

4.体位変換を行う際の注意点

体位変換を行う際は、下記の点に注意しましょう。

●体を動かす前に、必ず声かけをする
体位変換を行う上で最も大切なのが、「利用者さんのペースを尊重すること」です。そのためにも、介護者は「どのように体を動かすのか」をきちんと伝えるようにしましょう。声かけをせずに突然動かしたり、強く引っ張ったりすると利用者さんは驚き、思わぬけがにつながる可能性もあります。利用者さんが安心して体位変換を受けられるように、丁寧な声かけを行ってください。

●利用者さんが自力で行える部分はなるべく協力してもらう
体位変換に協力できる利用者さんの場合は、すべてを介助するのではなく、利用者さん自身にも体を動かそうとする意識を持ってもらいましょう。自力で行える部分を利用者さんに協力してもらうことは、残存能力(筋力や機能力)の維持だけでなく、生活意欲の向上や自立支援にもつながります。

●力任せに体位変換を行わない
力任せに体位変換を行うと、利用者さんに痛みを与えてしまうだけではなく、介助者の体にも負担がかかります。体位変換は実施頻度の高い業務であるため、正しい介助方法・負担の少ない介助方法を身に付けて、適切な体位変換を行うことが重要です。

まとめ

体位変換は、「自力で寝返りを打つことができない方の体位を、介助者が変えること」を指します。介護施設では、寝返りができない状態が続くことによる褥瘡や関節拘縮を予防するために毎日行うものであり、睡眠中は2時間程度の間隔で実施することが基本とされていますが、利用者の状態や使用している寝具に合わせて臨機応変に対応する必要があります。

体位変換のやり方が間違っていると、利用者さんに大きな負担を強いるだけでなく、介助者も体を痛めてしまう可能性があります。互いに負担のない体位変換を行うためにも、正しいやり方を身に付けるようにしましょう。

「介護のみらいラボ」では、介護業界で働く職員に向けて、日々、豊富なお役立ち情報を提供しています。実際の業務に活用できる、さまざまな知識を身に付けたい介護職の方は、ぜひ他記事もご覧ください。

※当記事は2022年6月時点の情報をもとに作成しています

▼監修者からのアドバイス

体位変換の間隔は2時間ごとに行うのが基本とされてきましたが、昨今では利用者さんの状態や使用しているマットレスの種類、ポジショニングの有無によって臨機応変に体位変換の間隔を調整するという考え方にシフトしつつあります。

福祉用具は日々進歩しており、体圧分散性能に優れたマットレスや寝返りを支援する電動ベッド、体位を保持するクッションの性能も向上し、利用者を取り巻く環境面は充実してきていると思います。それに伴い、私たち介助者にはそれらを活用するための知識や技術が求められています。

性能が良いクッションを使用していても、ポジショニングへの理解がなければ宝の持ち腐れになりかねませんし、適切に使用できれば利用者さんの状態はより良い方向に改善され、お互いに負担の少ない介護につながります。道具の進歩に合わせて私たちも研鑽を積み、好ましい体位変換ができればと思います。

●関連記事:臥床介助とは?就寝介助・起床介助との違いや重要性、実践のポイント

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安藤祐介(Yusuke Ando)

作業療法士

2007年健康科学大学を卒業。作業療法士免許を取得し、介護老人保健施設ケアセンターゆうゆうに入職。施設内では認知症専門フロアで暮らす利用者47名の生活リハビリを担当し、施設外では介護に関する講演・執筆・動画配信を行っている。

安藤祐介の執筆・監修記事

介護のみらいラボ編集部(kaigonomirailab)

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