要介護・要支援認定で一番多いのは?要介護度を上げないためにできること
文/牛玖恵梨子(作業療法士)介護保険制度の介護サービスを利用するには、要介護認定を受ける必要があります。要介護認定には、「要支援1・2」「要介護1~5」の7段階がありますが、そのなかで一番多いのはどの介護度でしょうか。また要介護度を上げないようにするにはどうすればよいでしょうか。
この記事では、要介護認定の区分や定義、要介護認定で一番多い介護度について解説するほか、要介護度を上げないための対策も紹介します。
1.要介護認定とは?
介護保険制度の要介護認定とは、対象者がどれくらい介護サービスを必要としているかを判断し、数値化したものです。
要介護度には、「要支援1・2」「要介護1〜5」の7区分があり、要介護・要支援の認定を受けることで介護保険が適用され、介護予防サービスや介護サービスを利用できます。なお、どれにも該当しない場合には、「非該当」と認定されます。
認定基準は全国一律となっており、保険者である市町村がその基準に沿って要介護認定を行います。
2.要介護度の区分
介護保険制度では、常に介護を必要とする状態を「要介護状態」といいます。また、家事や買い物、身支度といった日常生活に支援が必要であり、介護予防サービスが効果的な状態を「要支援状態」といいます。
要介護・要支援度は、「介護にどのくらい手間がかかるか」という観点から次のように区分されています(介護の手間は、時間に換算して評価されます)。なお、要支援よりも要介護のほうが介護の必要性は高く、要介護度の数字が大きいほど介護を必要とする度合いが高くなります。
要支援1 | 要介護認定等基準時間が25分以上32分未満又はこれに相当すると認められる状態 |
要支援2 | 要介護認定等基準時間が32分以上50分未満又はこれに相当すると認められる状態 |
要介護1 | 要介護認定等基準時間が32分以上50分未満又はこれに相当すると認められる状態 |
要介護2 | 要介護認定等基準時間が50分以上70分未満又はこれに相当すると認められる状態 |
要介護3 | 要介護認定等基準時間が70分以上90分未満又はこれに相当すると認められる状態 |
要介護4 | 要介護認定等基準時間が90分以上110分未満又はこれに相当すると認められる状態 |
要介護5 | 要介護認定等基準時間が110分以上又はこれに相当すると認められる状態 |
3.要介護認定で一番多いのはどの介護度?
7つに区分される要介護・要支援認定のなかで、一番多い介護度を見ていきましょう。
厚生労働省が発表した資料によると、2024(令和6)年2月末時点での要介護・要支援の認定者数は約707万人で、一番多い介護度は要介護1となっています。
要支援1 | 要支援2 | 要介護1 | 要介護2 | 要介護3 | 要介護4 | 要介護5 | 合計 |
1,018,212 | 994,595 | 1,463,388 | 1,188,630 | 924,828 | 891,893 | 589,558 | 7,071,104 |
(単位:人)
(出典:厚生労働省「都道府県別 要介護(要支援)認定者数-男女計-」
年代別|要介護認定で一番多いのは?
次に、年代別で一番多い要介護・要支援度を見てみましょう。
65歳以上の「第1号被保険者」の場合、どの年代でも要介護1が最も多くなっており、とくに85歳以上90歳未満では、認定数が40万人を超えている状況です。
第1号被保険者のほかに、40歳以上65歳未満の方が対象の「第2号被保険者」があります。こちらは介護保険制度で「特定疾患」と認められる疾患の罹患者のうち、介護を必要とする場合に要介護・要支援認定を受けられるものです。現在、特定疾患は関節リウマチや脳血管疾患(脳梗塞や脳出血)など、16の疾患が対象になっています。
第2号被保険者では、要介護認定数そのものがほかの年代に比べて少なく、第1号被保険者よりも1区分高い要介護2が最も多くなっています。
65歳以上70歳未満
要支援1 | 要支援2 | 要介護1 | 要介護2 | 要介護3 | 要介護4 | 要介護5 | 計 |
29,435 | 32,212 | 36,311 | 35,946 | 24,734 | 22,885 | 19,484 | 201,007 |
(単位:人)
70歳以上75歳未満
要支援1 | 要支援2 | 要介護1 | 要介護2 | 要介護3 | 要介護4 | 要介護5 | 計 |
77,890 | 78,641 | 91,363 | 82,666 | 57,757 | 53,950 | 41,290 | 483,557 |
(単位:人)
75歳以上80歳未満
要支援1 | 要支援2 | 要介護1 | 要介護2 | 要介護3 | 要介護4 | 要介護5 | 計 |
153,721 | 140,548 | 176,482 | 137,839 | 97,237 | 89,021 | 65,853 | 860,701 |
(単位:人)
80歳以上85歳未満
要支援1 | 要支援2 | 要介護1 | 要介護2 | 要介護3 | 要介護4 | 要介護5 | 計 |
284,899 | 241,516 | 332,571 | 234,577 | 166,417 | 150,101 | 102,660 | 1,512,741 |
(単位:人)
85歳以上90歳未満
要支援1 | 要支援2 | 要介護1 | 要介護2 | 要介護3 | 要介護4 | 要介護5 | 計 |
287,605 | 272,921 | 418,897 | 310,034 | 230,771 | 212,711 | 135,384 | 1,868,323 |
(単位:人)
90歳以上
要支援1 | 要支援2 | 要介護1 | 要介護2 | 要介護3 | 要介護4 | 要介護5 | 計 |
172,252 | 208,665 | 386,708 | 360,662 | 329,797 | 347,077 | 208,625 | 2,013,786 |
(単位:人)
第2号被保険者(40歳以上65歳未満)
要支援1 | 要支援2 | 要介護1 | 要介護2 | 要介護3 | 要介護4 | 要介護5 | 計 |
12,410 | 20,092 | 21,056 | 26,906 | 18,115 | 16,148 | 16,262 | 130,989 |
(出典:厚生労働省「都道府県別 要介護(要支援)認定者数-男女計-」
男女別|要介護認定で一番多いのは?
男女別の要介護・要支援の認定数についても見ておきましょう。男性・女性ともに要介護1が最も多くなっていますが、注目したいのは女性のほうが2倍以上も要介護・要支援の認定数が多いことです。
男性
要支援1 | 要支援2 | 要介護1 | 要介護2 | 要介護3 | 要介護4 | 要介護5 | 合計 |
328,623 | 295,052 | 488,990 | 416,589 | 304,537 | 260,338 | 161,799 | 2,255,928 |
(単位:人)
(出典:厚生労働省「都道府県別 要介護(要支援)認定者数-男-」
女性
要支援1 | 要支援2 | 要介護3 | 要介護2 | 要介護3 | 要介護4 | 要介護5 | 合計 |
689,589 | 699,543 | 974,398 | 772,041 | 620,291 | 631,555 | 427,759 | 4,815,176 |
(単位:人)
(出典:厚生労働省「都道府県別 要介護(要支援)認定者数-女-」
都道府県別|要介護認定で一番割合が多いのは?
最後に、都道府県別で最も要介護認定を受けている割合が多い地域を見ていきます。
2024(令和6)年2月末時点での厚生労働省の発表によると、第1号被保険者に対する65歳以上の要介護認定者数の割合は、全国平均で19.3%でした。このうち最も要介護・要支援の認定数の割合が多いのは大阪府で、京都府、和歌山県がそれに続きます。一方、認定数の割合が最も少ないのは茨城県で、次いで宮崎県、栃木県の順となっています。
本章の冒頭で、要介護1の認定者が最も多いと説明しましたが、大阪府の場合、要支援1の認定を受けている方が最も多いのが特徴です。また、京都府では要介護2の認定を受けている方が最も多く、このあたりにも地域ごとの特徴が表れています。
参考として、上記6つの府県における要介護・要支援の認定数も紹介しておきましょう。
要支援1 | 要支援2 | 要介護1 | 要介護2 | 要介護3 | 要介護4 | 要介護5 | 合計 | |
全国計 | 1,018,212 | 994,595 | 1,463,388 | 1,188,630 | 924,828 | 891,893 | 589,558 | 7,071,104 |
大阪府 | 103,800 | 76,562 | 99,360 | 93,370 | 70,276 | 71,712 | 52,326 | 567,406 |
京都府 | 22,843 | 28,577 | 31,331 | 33,048 | 23,821 | 18,742 | 12,654 | 171,016 |
和歌山県 | 12,208 | 9,842 | 12,845 | 9,958 | 8,499 | 8,727 | 6,135 | 68,214 |
栃木県 | 12,718 | 14,404 | 18,816 | 15,730 | 12,305 | 13,489 | 7,663 | 95,125 |
宮崎県 | 5,214 | 7,010 | 13,862 | 9,782 | 8,170 | 8,026 | 5,872 | 57,936 |
茨城県 | 16,338 | 17,279 | 32,425 | 25,428 | 20,226 | 18,914 | 11,448 | 142,058 |
(単位:人)
(出典:厚生労働省「第1号被保険者一人あたり要介護(要支援)認定者割合(要支援1~要介護5) 【都道府県別】」/厚生労働省「都道府県別 要介護(要支援)認定者数-男女計-」
4.要介護度を上げないための対策
介護保険法では、「高齢者の自立支援」が目的として掲げられており、要介護状態の軽減や悪化の防止についても明記されています。
つまり介護サービスは、「自立をサポートするために行われるもの」であり、「要介護度が上がらないようにすることを目的としたもの」なのです。
(目的)
第1条
この法律は、加齢に伴って生ずる心身の変化に起因する疾病等により要介護状態となり、入浴、排せつ、食事等の介護、機能訓練並びに看護及び療養上の管理その他の医療を要する者等について、これらの者が尊厳を保持し、その有する能力に応じ自立した日常生活を営むことができるよう、必要な保健医療サービス及び福祉サービスに係る給付を行うため、国民の共同連帯の理念に基づき介護保険制度を設け、その行う保険給付等に関して必要な事項を定め、もって国民の保健医療の向上及び福祉の増進を図ることを目的とする。
第2条
介護保険は、被保険者の要介護状態又は要支援状態(以下「要介護状態等」という。)に関し、必要な保険給付を行うものとする。
2 前項の保険給付は、要介護状態等の軽減又は悪化の防止に資するよう行われるとともに、医療との連携に十分配慮して行われなければならない。
(出典:e-GOV法令検索「介護保険法」
公的機関の取り組み
要介護度を上げないための取り組みは、国や都道府県、市町村などで積極的に行われています。
例えば、2018(平成30)年の介護報酬改定で新設された「ADL維持等加算」では、通所サービスなどを利用している要介護者の日常生活の自立度を測定し、維持・改善している場合には事業者が加算を受けられます。
さらに東京都では、要介護高齢者の自立支援と重度化防止を促進することを目的に、「要介護度等改善促進事業」を独自に実施しています。こちらは、利用者のADL(日常生活動作)や要介護度の維持・改善に関する取り組みを行う事業者に対して、報奨金を支給する仕組みです。
(出典:東京都「要介護度等の維持改善に向けた介護事業者の取組促進 要介護度等改善促進事業 報奨金について」
筆者の経験による具体的な取り組み
筆者は老人ホームやデイサービス、訪問看護ステーションなどで、要介護や要支援の利用者さんにリハビリを提供してきました。多くの場合、リハビリでは機能・能力の改善や向上を目指しますが、リハビリ職が行うリハビリは時間や回数に制限があるため、それだけで効果的なリハビリを実施するのは難しいと思います。
そこで大切になるのが「多職種連携」です。ここでは、筆者が実際に経験した要介護・要支援度を上げない、あるいは機能や能力を改善・向上するための取り組みを2つ紹介します。
①老人ホームでの多職種連携
既存施設の場合、自立支援に向けた新たな取り組みを始めるのは、業務の都合やマンパワーの問題から難しいことも多いと思います。そうした場合、筆者は利用者さんにとっても、介護職にとってもプラスになる取り組みから始めることを勧めています。
以前、筆者が働いていた老人ホームでは、胃ろうの利用者さんに対して、体調に関係なくギャッチアップしたベッドの上で栄養を流していました。しかし、介護・看護職のスタッフから提案があったのを機に、体調がよい利用者さんには食堂や居室の椅子に座ってもらい、リクライニング車いすや座位で栄養を流すようにしてみました。座って過ごすことで、活動量を増やすのが狙いです。
結果的に狙いはあたり、かむ力(咀嚼力)やのみ込む力(嚥下機能)が改善して、食べ物を口から食べられるようになった方がいました。さらに、食堂で過ごすことでほかの利用者さんやスタッフと話す機会が増え、コミュニケーション能力が向上した利用者さんもいました。
立ったり座ったり、あるいはしゃべったり笑ったりといった、日常で繰り返されるなにげない動きであっても、活動量が少なくなりがちな要介護・要支援の利用者さんには大切な活動機会になるのです。
また、こうした取り組みは、介護職の負担を減らすことにもつながります。例えば、ベッド上で栄養を流す場合、介護職が個別に対応する必要があるため、各居室を行ったり来たりしなくてはなりません。しかし、利用者さんが食堂へ移動できれば、全体を見守ることができるので、介護者の負担が少なくなるはずです。
②ほかの専門職の活用例
筆者は作業療法士なので、介護職のみなさんにはリハビリ職をもっと活用してほしいと日頃から思っています。
10年ほど前まで、筆者には「介護職は介護」「看護職は看護」「リハビリ職はリハビリ」など、それぞれが専門分野の仕事をこなしている感覚が強くありました。そうしたなか、要介護1と要介護5の利用者さんに、同じ方法で全介助をしている介護職の方を見る機会も少なくありませんでした。
過介助は利用者さんが本来もっている力を下げることにつながるため、そうした場面では「利用者さんの状態に合った介助方法をしてほしい」と感じていました。
しかし、最近では介護も看護もリハビリも、お互いの仕事をよく理解して「多職種連携」になり、介護職側から利用者さん一人ひとりに合った介助方法を聞いてくれる機会が増えています。
例えば、次のような感じです。
「訪問介護中のすきま時間(入浴介助前のお風呂にお湯をためている時間など)に、利用者さんとできるリハビリを教えてほしい」
「体が小さいので、自分の体格に合った利用者さんの移乗方法を一緒に考えてほしい」
「重度の片麻痺がある利用者さんの場合、食事のときにはどんな姿勢にするといい?」
「失語症の利用者さんとは、どうやってコミュニケーションをとったらいいの?」
介護職のこうした姿勢と、それによって磨かれる実践技術は、結果的に要介護度を上げないことにつながると思います。
まとめ
要介護認定で最も多い要介護1や2は、歩行能力が維持されているケースが多いため、一人でできることがまだまだ沢山あります。だからこそ多職種が連携し、利用者さんがもっている力を最大限に発揮できる介助をすること(あるいは、過介助にならないこと)が、要介護度を上げないためのポイントになるでしょう。
一人ではなく多数で。1職種ではなく多職種で。そんな力を合わせた取り組みが、高齢者を元気にするのかもしれません。
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