要介護1とは?受けられるサービスやかかる費用について解説
文/長谷部 宏依(介護福祉士、社会福祉士、ケアマネジャー)介護保険のサービスを利用するには、要支援や要介護の認定を受ける必要があります。しかし、介護職を目指しているみなさんのなかには、「要介護1」の身体状況がどのようなものか、どのような介護サービスが利用できるのかなどの詳細がわからない方がいらっしゃるのではないでしょうか。
要支援は2段階、要介護は5段階あり、1人ひとりの心身の状況に応じて認定されます。そのなかで、「日常生活に必要な動作はたいてい1人で行えるものの、一部介助が必要な状態」が要介護1です。
本記事では、要介護1の具体的な心身の状況や要支援との違い、受けられる介護サービスなどについてわかりやすく説明していきます。
1.要介護1とは
要介護1は、介護が必要とされる5段階の要介護状態のなかで、最も介護の必要性が低い状態です。厚生労働省では、要介護1を以下のように定義しています。
「要支援状態から、手段的日常生活動作を行う能力がさらに低下し、部分的な介護が必要となる状態」
つまり、食事や着替えといった基本的な身のまわりのことは自分で行えるものの、認知機能や運動能力の低下によって、一部介助が必要な状態です。
例えば、立ち上がりや歩行が不安定なため、移動の際に体を支えるなどの介助が必要な状態が要介護1にあたります。入浴で浴槽をまたぐときに体を支える介助が必要だったり、衣服着脱で足先に手が届かないときにズボンをはく介助が必要だったりするケースも同様です。
要介護1の認定基準
厚生労働省は、要介護度別に介護に必要な時間を定めています。それらは「要介護認定基準時間」と呼ばれ、介護認定の基準となっています。
要介護認定基準時間は要支援や要介護ごとに異なっており、それぞれの基準時間は下記の通りです。
要介護度 | 要介護認定基準時間 |
---|---|
要支援1 | 25分以上32分未満 |
要支援2・要介護1 | 32分以上50分未満 |
要介護2 | 50分以上70分未満 |
要介護3 | 70分以上90分未満 |
要介護4 | 90分以上110分未満 |
要介護5 | 110分以上 |
(出典:11/13ページ/厚生労働省「要介護認定のしくみと手順」)
要介護認定が決まるまでには、さまざまな手順があります。
1. 申請:介護認定のための申請書が提出され受理される
2. 訪問調査:認定調査員が申請者の自宅を訪問し、身体状況や日常生活の様子について聞き取り調査を行う
3. 一次審査:調査員が作成した調査票と主治医の意見書をもとに、コンピュータで要介護認定基準時間を計算する
4. 二次審査:一次審査の結果と主治医の意見を合わせ、認知症の加算を含む要介護認定基準時間をもとに要介護度が決定される
要介護度が高くなると介護に必要な時間も増えるため、受けられる介護サービスの量も変わります。
2.要介護と要支援の違い
介護サービスを利用するには、「要介護」か「要支援」のどちらかの認定を受ける必要があり、要介護と要支援では受けられるサービスが異なります。
ここからは、要介護と要支援にどのような違いがあるのかを詳しく見ていきましょう。
要介護とは
要介護とは、日常生活に必要な基本的動作に介助が必要な状態を指します。要介護には1~5までの段階があり、要介護1がいちばん介助の必要性が低い状態です。要介護度が上がるにつれて、必要な介護の種類や頻度が増えるため、より多くの介護サービスが必要となります。
要介護認定を受けると、ケアマネジャーが1人ひとりに最適なケアプランを作成します。ケアプランのなかには、利用者さんの自宅にヘルパーが訪問して支援を行う訪問介護や、食事や入浴、社会参加などの支援が受けられる通所介護など、さまざまな介護サービスが組み込まれます。
このように、介護サービスを利用して日常生活で必要な支援を受けながら、身体機能の維持や向上を目指すのが、介護保険の目的です。また、介護サービスを利用することは、ご家族の介護負担の軽減にもつながります。
要支援とは
要支援とは、要介護ほどの介助は必要ないものの、日常生活を送る上である程度のサポートが必要な状態を指します。要支援は1と2に区別されており、要支援1のほうが介助量は少なく、自立に近い状態です。
要支援に認定されると、介護予防訪問介護や介護予防通所介護など、自立した生活を送るためのさまざまな介護予防サービスを利用できるようになります。要支援の利用者さんに対する支援は、介護が必要になる事態を予防または遅らせたり、健康状態の悪化を防いだりすることを目的としています。そのため介護職には、利用者さんが自立した生活を送れるような支援が求められます。
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3.要介護1と2以降の違い
要介護1は身のまわりのことはだいたい自分で行えて、支援の必要性が低い状態です。一方、要介護2になると日常生活のなかでできない行為が多くなるので、身のまわりの介助も増えてきます。
ここからは、それぞれの介護度による身体状況や介護内容の違いについて説明します。
要介護1 |
・食事や排泄など身のまわりのことはだいたい1人でできる ・認知能力や運動能力がやや低下してきている ・歩行でふらつくことがある ・入浴時の見守りや、浴槽をまたぐなどの介助は必要 |
要介護2 |
・要介護1と比べるとできないことが増えている ・立ち上がりや歩行に支えが必要 ・理解力や思考力が低下している ・排泄時のズボンや下着の上げ下ろしなどに介助が必要 |
要介護3 |
・歩行や立ち上がりなどに介助が必要 ・車いすが必要になってくることが多い ・食事や排泄など、日常生活に多くの介助が必要 |
要介護4 |
・日常生活の動作に常に介助が必要 ・自宅のお風呂に入ることが難しくなり、訪問入浴やデイサービスなどで入浴する場合もある |
要介護5 |
・生活全般に介助が必要 ・寝たきり状態になっている方もいる ・意思疎通ができない場合もある |
(出典:12/13ページ/厚生労働省「要介護認定のしくみと手順」)
4.要介護1で受けられるサービス
要支援と要介護では、利用できるサービスが異なります。要支援は介護の予防に重点を置きますが、要介護では身体機能の維持や改善のために介護サービスを利用します。
ここでは、要介護1で受けられる介護サービスを一覧表にまとめました。
サービス種別 | サービス名 |
---|---|
居宅サービス |
【訪問サービス】 ・訪問介護(ホームヘルプ) ・訪問入浴介護 ・訪問看護 ・訪問リハビリテーション ・居宅療養管理指導 【通所サービス】 ・通所介護(デイサービス) ・通所リハビリテーション(デイケア) 【短期入所サービス】 ・短期入所生活介護(ショートステイ) ・短期入所療養介護 【その他】 ・特定施設入居者生活介護(有料老人ホーム、軽費老人ホームなど) ・福祉用具貸与 ・特定福祉用具販売 ・住宅改修 |
地域密着型サービス |
・定期巡回・随時対応型訪問介護看護 ・夜間対応型訪問介護 ・地域密着型通所介護 ・療養通所介護 ・認知症対応型通所介護 ・小規模多機能型居宅介護 ・認知症対応型共同生活介護(グループホーム) ・地域密着型特定施設入所者生活介護 ・地域密着型介護老人福祉施設入所者生活介護 ・複合型サービス(看護小規模多機能型居宅介護) |
施設サービス |
・介護老人福祉施設(必要と認定されれば利用可能) ・介護老人保健施設 ・介護医療院(介護療養型医療施設) |
居宅介護支援 | 介護支援専門員が、ケアプランを作成しサービスの利用調整を行う |
(出典:厚生労働省「各介護サービスについて」)
このように、要介護1で利用できる介護サービスは数多くあるため、利用者さんの状態に合わせて必要なサービスを選ぶことが重要となります。
5.要介護1に必要な福祉用具
要介護1の場合、福祉用具を利用することで、安全に移動できるケースが多く見られます。福祉用具を利用する方法には、レンタルと購入があります。
ここからは、要介護1に必要な福祉用具について詳しく解説しましょう。
要介護1に必要な福祉用具【レンタル】
要介護1の場合、下記の5種類の福祉用具がレンタルできます。
- 歩行器
- 歩行補助杖(多点杖や松葉杖など)
- 手すり(工事を行わないもの)
- スロープ(工事を行わないもの)
- 自動排泄処理装置(尿のみを自動的に吸引する機能のもの)
福祉用具のレンタル費用は、利用者さんの所得に応じて1~3割の負担となります。例えば、月額レンタル料金が4,000円の歩行器を借りた場合、1割負担の方なら1か月400円の自己負担で利用できるわけです。
要介護1は、多少のふらつきはあるものの自分で歩行ができる状態です。そのため、歩行器や杖を利用することで転倒防止につながります。また、布団の横に手すりを設置すると、起き上がりが安定して行えるようになることが多いです。
なお、上記以外の介護用ベッドや車いすも、必要と認められれば例外給付としてレンタルすることが可能です。
要介護1に必要な福祉用具【購入】
福祉用具を購入する場合には、特定福祉用具販売として介護保険から購入費の一部が支給されます。対象となる福祉用具は以下の5種類です。
- 腰掛便座(ポータブルトイレや和式便器の上に置くタイプ)
- 自動排泄処理装置の交換可能部分(チューブやタンクなど)
- 入浴補助用具(入浴用いす、浴槽用手すり、浴槽内いす、入浴台、浴室内すのこ、浴槽内すのこ、入浴用介助ベルト)
- 簡易浴槽(空気式や折りたたみ式のもの)
- 移動用リフトのつり具
なかには、「日中は自宅のトイレに行っているけれど、夜間は布団の近くにトイレを置きたい」と希望する方もいます。そのため、ポータブルトイレを購入して、夜中だけ利用するケースも少なくありません。また、自宅の浴槽が深く1人で出入りができないため、浴槽内のいすや手すりを購入する場合もあります。
福祉用具購入費の支給対象になる金額は、1年につき10万円までです。介護保険から購入費の支給を受ける際には、所定の手続きが必要となります。
6.要介護1の区分支給限度額
区分支給限度額とは、介護保険を使って受けられる介護サービスの利用上限金額のことです。この金額は要介護度によって異なり、要介護度が高くなるほど利用するサービスも増えるため、上限額が高く設定されています。
要介護度ごとの区分支給限度額は下記の通りです。
要介護度 | 区分支給限度額 |
---|---|
要支援1 | 50,320円 |
要支援2 | 105,310円 |
要介護1 | 167,650円 |
要介護2 | 197,050円 |
要介護3 | 270,480円 |
要介護4 | 309,380円 |
要介護5 | 362,170円 |
要介護1の区分支給限度額は、1か月167,650円です。区分支給限度額内で介護サービスを利用した場合、かかった費用の自己負担分(1~3割)を負担します。
ただし、1か月に167,650円以上の介護サービスを利用すると、超えた部分が全額自己負担となります。
7.要介護1は1人暮らしができる?
要介護1と認定された場合でも、1人暮らしをしている方はいらっしゃいます。2019年の厚生労働省の調査では、要介護1の認定を受けている方で1人暮らしをしている世帯は、全体の20.4%でした。
とはいえ、身体機能や認知機能の低下はあるため、介護サービスによる入浴や家事などの支援は必要でしょう。訪問介護でヘルパーに自宅に来てもらい、調理や掃除、洗濯の支援も受けられます。また、1人での入浴が不安であれば、訪問介護や通所介護を利用して入浴の介助を受けることも可能です。
生活する環境を整えるためには、住宅改修も有効な手段です。全額自分で支払うと高額になってしまいますが、介護保険を利用すれば指定された項目の工事であれば補助金が出ます。
補助金の上限額は要介護者一人につき20万円です。この金額までなら、1~3割の自己負担額を出すだけで工事が可能になります。ただし、20万円を超えた部分は全額自己負担になるので、注意が必要です。
8.要介護1の利用者さんをケアする際の注意点
要介護1の利用者さんをケアする際は、自立を促すために介助しすぎないことが大切です。
要介護1の利用者さんには、多くの残存機能があるため、自分でできる行動も少なくあります。介助する際は、自分でできる行為を積極的に行ってもらい、できない部分だけをサポートするようにしましょう。
例えば入浴の際には、安全に配慮しつつ利用者さんにできる限り自分で洗うように声かけをします。背中や足の指、髪など手が届きにくい部分は介護職が介助し、そのほかの部分は利用者さんに洗ってもらいましょう。掃除や洗濯などの生活援助でも、一緒に行うことで利用者さんが手や足を動かすことになるため、身体機能の維持にもつながります。
このように、要介護1の利用者さんには、できることは自分でやってもらい、要介護度を上げないようにつとめる視点が重要です。
まとめ:要介護1は少しの介助で自立した生活が送れる
ここまで要介護1について詳しく説明してきました。
要介護1は、日常生活において部分的な介助が必要ですが、基本的な動作は自分でできる状態です。
要介護1の利用者さんをケアする際に重要なのは、「できる動作はなるべく自分で行ってもらい、自立に向けた支援を心がける」ということです。周囲が介助しすぎると、利用者さんの自立心を損なう恐れもあるため、何ができて何ができないのかを正確に判断するようにしましょう。
自立に向けた支援を行っていくことで心身の機能が向上し、要介護1から要支援に改善する可能性もあります。結果として生活の質が向上し、自立した生活が送れるようになっていくため、利用者さんの状態に合った適切な支援を心がけてください。
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