介護職員初任者研修がしんどい理由と乗り越える方法を経験者が解説
文/佐藤恵美(介護福祉士・社会福祉士)
介護の仕事を目指す人や、すでに介護施設で働く新人介護職員が最初に受ける介護職員初任者研修ですが、研修修了者から「しんどい」「思った以上に大変だった」という声を聞くことがあります。
すぐに終わる研修ではなく学ぶ事柄も多いため、とまどう人も多いのでしょう。しかし、介護職員として活躍するためには、初任者研修を通して介護の基礎を学ぶのが近道。しんどいと感じることがあっても、しっかりと乗り越えてほしいものです。
そこでこの記事では、介護職として7年間働いた筆者の経験談を交えながら、初任者研修のしんどい点や、スムーズに乗り越える方法について解説します。ぜひ参考にしてください。
1.初任者研修がしんどいと言われる理由
介護職員初任者研修が「しんどい」と言われる主な理由は、以下のとおりです。
- 費用がかかる
- 覚えるべき知識が多い
- 課題やレポート提出がある
- 介護技術の修得が難しい
- 仕事と両立して受講するのが大変
- 介護の仕事に対して不安感が芽生える
一つずつ解説していきます。
費用がかかる
介護職員初任者研修は受講費用がかかるため、経済的にしんどいと感じる人もいるでしょう。
費用は研修を実施するスクールや、主催する地方自治体によってさまざまです。一般的には5万円台から8万円台ほどですが、なかには10万円を超えるケースもあります。受講費には教材費なども含まれますが、受講場所によっては通いの交通費がかかるため、「こんなにお金がかかるのか」とためらってしまう方もいるかもしれません。
費用面が心配な方は、地方自治体やハローワークで申し込める職業訓練、資格取得支援制度を利用するのがおすすめです。以下に、介護職員初任者研修を受けるときに使える主な制度を紹介しておきましょう。
制度 | 内容 |
---|---|
求職者支援制度 |
· ハローワークが窓口 · 無料の職業訓練を受講できる · 再就職や転職、スキルアップを目指す人が対象 · 要件を満たせば、月に10万の給付金が受けられる |
公共職業訓練 |
· ハローワークが窓口 · 受講料が無料(テキスト代は別途必要) · 雇用保険を受給している求職者が対象 |
特定一般教育訓練給付 |
· ハローワークが窓口 · 受講費用の最大50%が受講後に支給される · 雇用保険の加入期間などの要件を満たす必要がある |
自立支援教育訓練給付金 |
· 自治体が窓口 · 受講費の60%が支給される · 要件を満たすシングルマザー、シングルファーザーが対象 |
これらの制度を利用すれば、費用を抑えて研修を受講できる可能性があります。まずは、お住まいの地域の自治体やハローワークに問い合わせてみましょう。
私は無資格の状態で介護職に就き、介護職員初任者研修を受講しましたが、研修場所が職場の関連施設でした。そのため、費用は4万円に抑えられ、大きな負担は感じませんでした。
すでに介護職員として働いている人は、職場に「初任者研修を受けたい」と伝えてみると有益な話が聞けるかもしれません。職場によっては、資格取得を応援する意味で補助が出るケースもあります。
覚えるべき知識が多い
介護の仕事では、身体介護から認知症の理解まで、幅広い知識が求められます。そのため「研修で覚えることが多すぎて、頭が追いつかない」と感じる人も少なくありません。
介護職員初任者研修のカリキュラムは以下のとおりです。
科目 | 時間数 |
---|---|
1. 職務の理解 | 6時間 |
2. 介護における尊厳の保持・自立支援 | 9時間 |
3. 介護の基本 | 6時間 |
4. 介護・福祉サービスの理解と医療との連携 | 9時間 |
5. 介護におけるコミュニケーション技術 | 6時間 |
6. 老化の理解 | 6時間 |
7. 認知症の理解 | 6時間 |
8. 障害の理解 | 3時間 |
9. こころとからだのしくみと生活支援技術 | 75時間 |
10. 振り返り | 4時間 |
合計時間数 | 130時間 |
介護職員初任者研修では、介護や医療に関わる専門的な知識を基礎から学びます。覚えるべきことが多岐にわたるため、勉強が苦手な人や長い時間机に向かうのに慣れていない人は、しんどいと感じるかもしれません。
課題やレポート提出がある
初任者研修はレポート課題が必須です。レポートを書くにあたっては、特定のテーマについて詳しく調べたり、考えたりする必要があるため、研修の理解を深めるのにとても有効です。
【レポートの例】
- 高齢者に対するコミュニケーションのとり方
- 介護職員がチームの一員として心がけることとは
- 介護サービスの提供におけるノーマライゼーションの考え方や取り入れ方
レポートではテキストや資料の内容をまとめるだけでなく、自分の意見を交えた内容が求められます。そのため、文章を書くのが苦手な人にとっては時間がかかり、しんどい思いをするかもしれません。
ただし、初任者研修のレポートは数百文字で指定されるケースが多く、原稿用紙1枚分で収まるものがほとんどです。それほど多くの文章を書く必要はないので、構えすぎずに学んだことを言葉にしてみましょう。専門用語を正しく用いることもポイントです。
介護技術の修得が難しい
介護技術を学ぶ実技の授業では、介護現場を想定した身体の動かし方や、利用者のケアの仕方を正確に身につける必要があります
具体的には、利用者さんをベッドから車椅子に移す際の動きや、安全な入浴介助の方法など、場面ごとの実践的な技術を学びます。利用者さんの体格や体調に応じた動きの調整や、半身麻痺や骨折などの病気・けがにも配慮が必要です。
また、介護職員は身体介助だけでなく、利用者さんの心のケアにも関わるため、適切な声かけや、認知機能が低下した方への接し方など、身につけるべき介護技術はけっして少なくありません。
正しい技術を習得するには時間と体力が必要となるため、体力に自信がない人はしんどいと感じるかもしれません。
仕事と両立して受講するのが大変
介護職員初任者研修がしんどいと言われる理由の一つに、仕事との両立があります。
研修では、働きながら受講する人も多く見られますが、フルタイムで働く人にとっては大きな負担がかかるでしょう。なかには平日の日中だけでなく、週末や夜間に講義を受けられるスクールもありますが、仕事で疲れたあとに勉強するのは簡単ではありません。頑張りすぎると体調を崩してしまうおそれもあります。
現在、介護職員として働いている人は、「初任者研修を受けたい」と管理職に伝えてみましょう。そうすることで、シフト作成のときに配慮してもらえるかもしれません。
私は無資格未経験で病院の介護職として入職しましたが、初任者研修の日程表を見せて師長や介護リーダーに相談したところ、シフトや休日を調整してもらえました。資格取得に際して協力的な職場は多いので、ためらわずに相談してみましょう。
介護の仕事に対して不安感が芽生える
介護の仕事に不安を感じてしまうのも、初任者研修がしんどいと言われる原因です。
研修では、高齢者の日常生活を支える介護技術を学びます。そして、排泄介助・入浴介助などの介護技術や高齢者との関わり、介護にまつわるさまざまな制度を学ぶ中で、「私は介護職に向いているのかな」と心配になる人も出てきます。人の命に関わる責任ある仕事なので、プレッシャーを強く感じたり、理想と現実のギャップを感じたりする場合もあるでしょう。
私は病院で働きながら初任者研修を受けましたが、当時は介護の世界に入って1か月ほど。ケアの難しさやコミュニケーションの難しさを痛感し、悩んだのを覚えています。
それでも、以下に紹介する「初任者研修を乗り越える方法」を実践したことで、無事に研修を修了。その後、7年間同じ病院で勤務し、「ベテラン」と言っていただけるまでに成長できました。
2.初任者研修を乗り越えるための方法
介護職員初任者研修を乗り越えるためには、5つの方法があります。どれも「こんな簡単なことでいいの?」と感じるものばかりですが、シンプルな方法を無理なく実行するのが研修終了への近道です。
【初任者研修を乗り越える5つの方法】
- わからないところは講師に直接尋ねる
- まわりの受講生と交流して思いを共有する
- 受講前に学習スケジュールを立てる
- 介護職員として働く自分をイメージしながら勉強する
- 仕事と両立しやすいスクールを選ぶ
順番に見ていきましょう。
わからないところは講師に直接尋ねる
講義中に話を聞くだけだと、途中で疑問が生まれても答えを得られないまま終わってしまう可能性があります。また、自力で考えたり調べたりしても、解決策が見つけられるとは限りません。
わからないことがあるときは、積極的に講師に質問しましょう。初任者研修の講師は介護福祉士や社会福祉士などの資格を持った専門家。介護全般の知識や技術はもちろん、現場での経験も豊かです。疑問に思ったことや不安に感じていることを質問すれば、きっとわかりやすく丁寧に教えてくれるでしょう。講師に直接話を聞くと、疑問を掘り下げることができるので、より理解が深まるはずです。
「研修中に質問するのは恥ずかしい」と感じる人は、質疑応答の時間、もしくは講義のあとで質問するとよいでしょう。疑問を持ち越さないのが効率的な学習のコツです。
まわりの受講生と交流する
初任者研修をスムーズに乗り越えるには、まわりの受講生と交流するのも効果的です。同じ目標を持った仲間は心の支えになり、「一人じゃない」という安心感にもつながるでしょう。
積極的にコミュニケーションをとれば、研修をより楽しく進められ、学習への理解も深まっていきます。また、実技演習はグループ学習となるケースも多いので、日頃から次のような会話をしておくと、円滑に学習が進められます。そうやって会話を楽しむうちに、お互いに励まし合える環境も生まれるでしょう。
・研修内容で気になった点や感想
・実技で難しいと感じたこと
・今後のキャリアや目標について
・介護の仕事を目指したきっかけ
・趣味や休日のリフレッシュ法
受講生は年齢や環境がさまざまなため、接点が少ないと感じるかもしれませんが、これから介護の現場で働く仲間との絆は貴重な財産になります。ぜひ積極的に交流し、関係を育んでください。
受講前に学習スケジュールを立てる
介護職員初任者研修をスムーズに終えるためには、事前に学習スケジュールを立てるのがおすすめです。研修は通学が主流ですが、今は自宅学習できるオンライン研修もあり、自主学習をいかに効率よく進めるかでしんどさが変わります。
無計画では学習が遅れ、仕事やプライベートに影響する可能性もあるので、効率よく学ぶためのポイントを押さえておきましょう。
【学習スケジュールを立てるポイント】
- 初任者研修の期間や時間割を確認する
- 1日の学習時間を決める
- 1日で学ぶ内容を詰め込みすぎない
- 週に1回はスケジュールを見直し、遅れがないかを確認する
- 学習の遅れを取り戻すための「予備日」を確保する
まずやるべきことは、初任者研修の受講期間や時間割の確認です。研修の実施期間によって、1日の受講時間や学習の進め方が違ってくるので、最初に全体像をつかんでおくと計画が立てやすくなります。
自主学習の時間は、無理のない範囲で設定しましょう。最初は学習に慣れていないため、あまり頑張りすぎず、1~2時間程度に設定するのがおすすめです。
定期的に進捗状況を見直して、学習に遅れがないか確認することも大切です。遅れが出たときのために、予定を入れない「予備日」も設けておきましょう。万が一学習が遅れても、予備日で取り戻せば大丈夫です。
介護職員として働く自分をイメージしながら勉強する
介護職員初任者研修の受講中は、自分がいきいきと働く未来を想像しながら学習を進めるのもよい方法です。3か月先、半年先など、少し先の姿を具体的にイメージすれば、何のために学ぶのかが明確になり、意欲が高まるでしょう。
利用者さんに感謝されたり、同僚と協力しながら業務をこなしたりする場面を思い浮かべると、より前向きに研修に取り組めるのでおすすめです。未来の目標に向かって進んでいる自分を想像しながら、一歩ずつ学びを深めていきましょう。
仕事と両立しやすいスクールを選ぶ
初任者研修を無理なく受講するためには、ライフスタイルに合ったスクールを選ぶことも大切です。
介護職員初任者研修は、全130時間のうち40.5時間は通信での受講が可能となっています。スクールによってオンライン学習の導入状況が異なるので、複数のスクールを比較して自分が学びやすいスクールを選びましょう。
仕事と両立しやすいスクールを選ぶためには、以下を確認することが大切です。
- 夜間に受講できる
- 土日に受講できる
- 研修修了までの期間が短い
- オンラインで勉強できる時間が多い
仕事やプライベートと初任者研修を両立するのは、想像以上に大変です。日々の暮らしに支障が出ないように、効率よく学習を進められるスクールを見つけましょう。
3.初任者研修に落ちてしまったら?
介護職員初任者研修を修了するには、筆記試験に合格する必要があります。試験と聞くと「難しそうだな」と不安になるかもしれませんが、あまり気負わなくても大丈夫です。試験は、100点満点中70点を合格とするのが一般的なので、日頃からきちんと勉強していれば、きっと合格できます。
もし、試験に落ちてしまっても心配はいりません。再試験が用意されていて、合格するまで受けられるため、基本的には全員が初任者研修を終えられます。
不合格となった場合は、受講先のスクールや施設が再試験の案内をしてくれるので、別の日にあらためて試験を受けて、合格すれば初任者研修は修了です。ただし、再試験には別途費用がかかるスクールもあるため、事前の確認をおすすめします。
「試験は一回で終えたい」という人は、講師が「ここは試験に出る」と言ったポイントをしっかりと押さえ、苦手な分野をしっかり復習しておきましょう。
試験問題はほとんどが選択式なので、基本的な内容を理解しておけば、高得点も期待できます。講義をしっかり聞いて、自主学習で理解度を深めれば、修了試験は怖くありません。安心して臨んでください。
まとめ:しんどいけれど初任者研修は乗り越えられる!
この記事では、介護職員初任者研修が「しんどい」と言われる理由と、研修を乗り越える方法について解説しました。
介護職員初任者研修は、130時間のカリキュラムで、修了するまでに数か月かかる場合があります。費用がかかり、覚えることが多いため「しんどい」と感じることもあるでしょう。しかし、周囲のサポートを受け、コツコツと学び続ければ乗り越えられる研修です。そして、研修を乗り越えれば、介護職員としての大きな一歩を踏み出せます。
初任者研修は、介護職員としての基礎を身につけるための大切な研修です。ライフスタイルに合ったスクールを選び、介護職員としていきいきと働く未来をイメージしながら、無理なく学習を進めていきましょう。
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