看取り介護とターミナルケアの違いは?対応可能な施設や加算の要件も
構成・文/介護のみらいラボ編集部 監修/渡辺有紀
介護の現場では、余命がわずかであると診断された利用者さんのケアに携わることもあります。終末期を迎えた方のケアとしてよく知られるものに、「看取り介護」と「ターミナルケア」がありますが、この2つにはどのような違いがあるのでしょうか。
当記事では、看取り介護とターミナルケアの特徴や相違点、緩和ケアとの違いなどについて解説します。看取り介護やターミナルケアが可能な施設、看取り介護加算・ターミナルケア加算の要件もあわせて紹介するので、ぜひこれからの介護業務に役立ててください。
1.看取り介護とターミナルケアの違い
「看取り介護」と「ターミナルケア(終末期医療)」は、介護や医療の現場における終末期のケアを指す言葉です。これらは医師によって、余命が数週間から数か月程度と診断されている利用者さん、患者さんに対して行われるケアであり、人生の最期を迎えるために欠かせないサポートと言えるでしょう。
看取り介護とターミナルケアには、「終末期に行うケア(あるいはサポート)」という共通点がありますが、異なるポイントも多いことに注意が必要です。
2つのケアにおける相違点としてまず挙げられるのは、看取り介護が「日常生活のケアなどの介護対応が中心」であるのに対して、ターミナルケアは「医療対応が中心」となることです。
看取り介護とターミナルケアではケアの方針や内容が異なるため、「看取り介護に携わりたい」あるいは「終末期ケアに従事したい」と考える方は、両者の特徴や違いを踏まえた上で、就職・転職する職場を検討することが大切です。ここでは、看取り介護とターミナルケアのそれぞれの特徴について詳しく紹介します。
看取り介護とは
全国老人福祉施設協議会では、看取りについて次のように定義しています。
看取りとは、近い将来、死が避けられないとされた人に対し、身体的苦痛や精神的苦痛を緩和・軽減するとともに、人生の最期まで尊厳ある生活を支援すること。
(参考:全国老人福祉施設協議会「看取り介護指針・説明支援ツール」)
つまり、終末期を迎えた方に対し、残された時間を自宅や施設などで自分らしく穏やかに過ごせるよう支援するケアが「看取り介護」なのです。
看取り介護では、利用者さんの意に反するような無理な延命治療は実施しません。介護を受ける本人の意思とQOLを最大限尊重し、寄り添いながら心身の苦痛を無理なくやわらげることが、看取り介護の最大の目的となります。
■看取り介護の主な内容
・日常生活のケア・サポート
食事(栄養・水分の補給)や排泄、入浴など、日常的な生活のケアを行います。1日の大半をベッドの上で過ごす方も多いため、褥瘡ケアや清拭なども重要なサポートとなります。
・身体的な苦痛・ストレスの緩和
病気やけがによる痛みがある場合、医師の指示に基づいて、苦痛をやわらげるような処置を施します。身体的な負担を軽減し、ストレスを緩和するための支援も行います。
・利用者さんへの精神面のケア
自身の最期に向き合うことは簡単なことではありません。終末期を迎えた利用者さんのなかには、人生の終わりを迎えることに対する恐怖や不安を抱えている方も多いでしょう。そのため、「孤独を感じないようにできるだけコミュニケーションをとる」「ベッドの周りを好きなもので満たしてあげる」など、思いに寄り添って精神面のサポートを行うことも、看取り介護の重要なポイントです。
・家族へのサポート
介護を受ける本人と同様に、家族も精神的に不安定な状態になりがちです。心身のストレスを抱えやすい家族に対するメンタル面のサポートも、看取り介護が担う重要な役割と言えるでしょう。
ターミナルケアとは
ターミナルケアとは、余命がわずかであると医師が診断した方に対し、医療的な支援を行いながら、残された時間を穏やかに過ごしてもらうためのケア方法です。看取り介護と同様に無理な延命治療は行いませんが、苦痛を緩和するための点滴や吸入、投薬などの医療ケアが実施されることは押さえておきましょう。
(参考:日本医師会 第Ⅸ次生命倫理懇談会 (2006) 『「ふたたび終末期医療について」の報告』)
■ターミナルケアの主な内容
・身体的ケア
病気やけがによる痛みをやわらげるための投薬や、栄養補給を目的とする点滴など、身体的な医療ケアを行います。食事や排泄、入浴、褥瘡ケア、口腔ケアといった日常生活の介助も身体的ケアに含まれます。
・精神的ケア
人生の最期を迎えることに対する不安や恐怖、のこされる家族に対する心配など、不安定になりがちな利用者さん、患者さんを精神的にサポートします。「家族や友人と過ごす機会を設ける」「ベッドまわりを本人が落ち着ける環境に整える」など、残された時間を充実して過ごせる環境づくりも、精神的ケアの1つと言えるでしょう。
・社会的ケア
ターミナルケアを受けるにあたって、経済的な不安を感じる方も少なくありません。したがって、医療ソーシャルワーカーと連携して、医療費軽減のための公的制度を紹介したり、各種情報の提供を行ったりすることもターミナルケアの一環となります。また、家族からの質問や相談を受けて、悩みや不安を解消することも大事な支援です。
2.緩和ケアとの違いは?
看取りケアやターミナルケアと混同されやすいものに「緩和ケア」があります。緩和ケアとは、病気による痛みや身体的問題、心理的問題などを予防したりやわらげたりすることで、QOLを改善するアプローチのことです。
(参考:厚生労働省「緩和ケア」)
■看取りケア・ターミナルケアと緩和ケアとの相違点
看取りケア ターミナルケア |
緩和ケア | |
---|---|---|
ケアの特徴 | 必要性が低く苦痛を伴うような延命治療を行わず、残された時間で人間の尊厳を保ちながら、穏やかに過ごせるようにサポートする | 病気の進行度にかかわらず、身体的苦痛、精神的ストレスを緩和することを重視したケアを行う |
対象となる疾患 | 疾患やけがの種類を問わない |
日本では生命に関わる疾患(がんなど)を中心に発展している ※海外では疾患の種類は問わないケースが多い |
主な対象年齢 | 余命がわずかであると診断された方(主に高齢者) | 年齢によらない |
病気の進行度 | 治療が困難であると判断された時期あるいは終末期 | 治療中(進行度は問わない)から終末期まで |
緩和ケアは終末期だけでなく、病気やけがの治療と並行して行われるケースも少なくありません。また、緩和ケアでは延命治療が行われる場合もあります。
3.看取り介護・ターミナルケアができる施設は?
看取り介護は、特別養護老人ホームや有料老人ホームなど、多くの入所型介護施設で行われています。ただし、「医療機関との連携やスタッフ教育が難しい」「規模が小さいため、個室確保などの配慮ができない」といった理由から、看取り介護を行っていない施設もあります。
一方、ターミナルケアが可能な施設には、病院やホスピスといった医療機関、入所介護型施設などがあります。なお、看取り介護やターミナルケアにおいて、入所・入院を受け入れる施設側は、厚生労働省が求める医療体制・介護体制を満たす必要があることに留意しましょう。
看取り介護加算・ターミナルケア加算の要件
看取り介護やターミナルケアを提供する事業者は、施設形態や算定要件などの条件を満たすことで、「看取り介護加算」「ターミナルケア加算」という介護報酬を算定できます。
■看取り介護加算とは
概要 | 治療による回復の見込みがないと判断した方に対し、本人や家族の意思を尊重した上で、医師や看護師などが連携しながら看取りケアを行う場合に加算される介護報酬 |
---|---|
算定できる事業者 |
・特別養護老人ホーム ・認知症グループホーム ・特定施設入居者生活介護 |
算定要件 |
【特別養護老人ホーム】 ○看取り介護加算の要件として、以下の内容等を規定する。 ・「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」等の内容に沿った取組を行うこと。 ・看取りに関する協議の場の参加者として、生活相談員を明記する。 ○施設サービス計画の作成に係る規定として、以下の内容等を通知に記載する。 ・施設サービス計画の作成にあたり、本人の意思を尊重した医療・ケアの方針決定に対する支援に努めること。 (引用:厚生労働省「令和3年度介護報酬改定における改定事項について」) 【認知症グループホーム】 (施設基準) ・看取り指針を定め、入居の際に、利用者等に対して内容を説明し、同意を得る ・医師、看護職員、介護職員、介護支援専門員等による協議の上、看取りの実績等を踏まえ、看取り指針の見直しを実施 ・看取りに関する職員研修の実施 (利用者基準) ・医師が医学的知見に基づき回復の見込みがないと診断した者 ・医師、看護職員、介護支援専門員等が共同で作成した介護計画について説明を受け、その計画に同意している者 ・看取り指針に基づき、介護記録等の活用による説明を受け、同意した上で介護を受けている者 (その他の基準) ・医療連携体制加算を算定していること ・「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」等の内容に沿った取組を行うこと (引用:厚生労働省「令和3年度介護報酬改定における改定事項について」) 【特定施設入居者生活介護】 <看取り介護加算(Ⅰ)> ○要件として、以下の内容等を規定する。 ・「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」等の内容に沿った取組を行うこと。 ・看取りに関する協議等の場の参加者として、生活相談員を明記する。 <看取り介護加算(Ⅱ)> ・(Ⅰ)の算定要件に加え、看取り期において夜勤又は宿直により看護職員を配置していること。 (引用:厚生労働省「令和3年度介護報酬改定における改定事項について」) |
■ターミナルケア加算とは
概要 | 治療による回復の見込みがないと判断した方に対し、必要な医療提供体制を整備し、医療的ケアを実施した場合に加算される介護報酬 |
---|---|
算定できる事業者 |
・訪問看護 ・定期巡回・随時対応型訪問介護看護 ・看護小規模多機能型居宅介護 ・介護老人保健施設 |
算定要件 |
○ターミナルケア加算の要件として、以下の内容等を規定する。 ・「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」等の内容に沿った取組を行うこと。 ・看取りに関する協議等の場の参加者として、支援相談員を明記する。※介護老人保健施設 ○施設サービス計画の作成に係る規定として、以下の内容等を通知に記載する。 ・施設サービス計画の作成にあたり、本人の意思を尊重した医療・ケアの方針決定に対する支援に努めること。 (引用:厚生労働省「令和3年度介護報酬改定における改定事項について」) |
看取り介護加算やターミナルケア加算は、死亡日の45日前から死亡日までの期間で金額を算定できます。ただし、死亡日までの日数や施設形態によって、報酬の単位数が異なることは覚えておきましょう。
■看取り介護加算・ターミナル加算の単位数(1日あたり)
看取り介護加算(Ⅰ) | 看取り介護加算(Ⅱ) | ターミナルケア加算 | |
---|---|---|---|
死亡日45日前~31日前 | 72単位 | 72単位 | 80単位 |
死亡日30日前~4日前 | 144単位 | 144単位 | 160単位 |
死亡日前々日・前日 | 680単位 | 780単位 | 820単位 |
死亡日 | 1,280単位 | 1,580単位 | 1,650単位 |
(出典:厚生労働省「令和3年度介護報酬改定における改定事項について」)
まとめ
看取り介護やターミナルケアは、終末期を迎えた利用者さん、患者さんの心身の苦痛を緩和し、残された時間を穏やかに過ごせるようにサポートするケアです。看取り介護は介護ケア中心になる点、ターミナルケアは医療ケアが中心となる点に特徴があります。対応可能な施設や介護報酬加算の要件にも違いがあるため、本記事を活用してきちんと理解しておきましょう。
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※当記事は2022年8月時点の情報をもとに作成しています
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