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仕事・スキル 介護士の常識 2022/09/11

自立支援介護とは?4つの基本ケアの内容と実施時の注意点

構成・文/介護のみらいラボ編集部 5.jpg

自立支援介護は、近年、介護業界で注目されている考え方の一つです。自立支援介護は、従来の「日常生活をスムーズに送るための手助け」を行う介護サービスとは異なり、利用者さんの自立を促して、自分らしい生き方を実現するためのサポートを行う点に特徴があります。

当記事では、自立支援介護の概要やメリット、自立支援介護を行う上で必要とされる4つのケアに加えて、問題点、注意点についても解説します。介護士として働いている方は、ぜひ参考にしてください。

1.自立支援介護とは?

自立支援介護とは、介護が必要な利用者さんに対して、自立した生活を送るためのサポートを行う介護スタイルを指します。厚生労働省が社会保障費の削減を目的として取り組みを始めたことで、近年注目されるようになった考え方です。

「介護」と聞くと、多くの人が「身の回りのお世話」を思い浮かべるように、これまでは利用者さんの日常生活を手助けすることに重きを置いた介護が実施されていました。しかし、過剰介護は利用者さんの介護に対する依存度を高めるだけでなく、自分でできることを減らしてしまう結果にもなりかねません。

自立支援介護では、利用者さんの自主性を尊重することを第一に考え、1人ではできない部分を中心に手助けを行います。つまり、利用者さんが自ら取り組む機会を減らさないように必要なサポートのみを提供し、日常生活の自立を目指した介護の実現を目指しているのです。

自立支援介護の主な目的は社会保障費の削減ですが、利用者さんが自分らしく生きられることも自立支援介護の大きなメリットとなっています。食事や排せつなど、「自分でできることがある」という自信は、日々の充実感・満足感にもつながるでしょう。

また、厚生労働省では介護保険法の改正を行い、医療ケアと生活サポートを兼ね備えた新たな施設の創設や地域福祉計画の策定義務化など、自立支援介護の推進に向けてさまざまな取り組みを進めています。

(出典:厚生労働省「利用者の自立を支援する取り組みについて」

自立支援介護のメリット3つ

自立支援介護のメリットを3つ紹介します。

利用者のQOLが高まる 自分でできる動作が増えることで日々の活動が活発化し、生活の質(QOL)が向上する
ご家族の介護負担が減る 日常生活において必要なサポートのみを行うため、介護者であるご家族の身体的・精神的な負担が軽減される
介護度が改善される 日常生活動作の自立は介護度の改善につながり、医療費や介護費の削減も可能になる

2.自立支援介護で必要な4つのケアの詳細

ここでは、医学博士であり、日本自立支援介護・パワーリハ学会理事長でもある竹内孝仁氏が提唱する、自立支援介護に必要な「4つの基本ケア」について紹介します。

● 水分ケア:1日に1,500ml
● 食事ケア:1日に1,500kcal
● 運動ケア:1日に2kmの歩行
● 排便ケア:3日以内の自然排便

自立支援介護では、上記4つのケアをバランスよく取り入れることで、利用者さんの健康維持や自立の促進につながるとされています。ここでは、それぞれのケアの詳細や実践ポイントについて解説しましょう。

【水分ケア】1日に1,500ml

高齢者介護において、水分摂取は重要なケアの一つです。体の中の水分の多くは筋肉に含まれているため、筋肉量が少ない高齢者は体内の水分量が少なくなりやすい傾向にあります。そして、水分不足は脱水症状を起こすだけでなく、失禁や認知症にもつながります。

水分ケアでは、1日に必要な水分量が1,500mlとされています。高齢者は感覚機能の衰えによって喉の渇きを自覚しにくいため、こまめに水分摂取を促すことが重要でしょう。

十分な水分量を摂取するのが難しい場合には、おやつとしてゼリーを提供したり、お茶や水にこだわらず、好きな飲み物を飲んでもらったりするのが効果的です。

【食事ケア】1日に1,500kcal

栄養不足は寝たきりや認知症の原因となります。そのため食事ケアにおいては、健康な人と同じ普通食で1日1,500kcal以上のエネルギーを摂取することが推奨されています。

高齢者の食事というと、かむ力をさほど必要としない柔らかいもの、細かな形状のものを思い浮かべる方も多いと思いますが、咀嚼による筋肉の刺激は非常に重要です。口腔機能が低下すると、誤嚥性肺炎や嚥下機能の低下にもつながります。

なお、口を大きく動かしたり発声を行ったりする口腔体操は、口腔機能の向上に役立つ体操です。嚥下機能の維持にも有効であるため、食事前に取り入れるのがよいでしょう。

【運動ケア】1日に2kmの歩行

運動は自立した生活に欠かせない要素であり、筋力維持や食欲増進に有効です。また、脳への刺激から、認知症予防や失禁予防などの効果も期待できます。

歩行は全身の筋肉を使う運動であり、日常生活を送る上で欠かすことのできない動作です。休憩を挟みながらの合計距離で問題ないので、1日2kmを目標に歩くことを促しましょう。散歩やウォーキングでも良いのですが、レクリエーションを通して楽しく歩いたり、近所のスーパーまで買い物に出かけたりするのもおすすめです。

些細な日常生活動作でも、積み重なればある程度の運動量になります。「自分でできることは自分でする」という意識を持ってもらうことで自然と生活リハビリにつながり、運動不足も解消できるでしょう。

【排便ケア】3日以内の自然排便

排便ケアでは、3日以内の自然排便を目指します。

自然排便のリズムを定着させるためには、十分な水分を摂取することやオリゴ糖・乳酸菌などを取り入れることが有効です。また、水分ケア、食事ケア、運動ケアの3つが十分に行き届いていれば、排便のリズムもおのずと整ってくるでしょう。

便秘に悩む高齢者は多いですが、水分摂取量を見直しただけで解消したというケースも少なくありません。4日以上排便がない場合でも、下剤はできるだけ使用せず、水分摂取量や食事量、運動量を見直しましょう。

ちなみに、腸の調子が整っているときに生成されるセロトニンは、認知症予防にも効果があるといわれています。

3.自立支援介護に関する問題点・注意点とは?

自立支援介護にはさまざまなメリットがある一方で、いくつかの問題点・注意点も指摘されています。

ケア内容やその趣旨を十分に理解していないと、利用者さんのサポートに支障をきたしてしまうことにもなりかねません。適切な自立支援を行うためにも、ケアに関する基本的な知識を身に付けることが必要です。

ここでは、自立支援介護における3つの問題点・注意点について詳しく解説します。

基準について誤解される可能性がある

自立支援介護の指針となる「4つの基本ケア」では、水分ケア、食事ケア、運動ケア、排便ケアに関して、数値による明確な基準が提示されています。

しかし、この基準は「水分を1,500ml摂取すれば認知症にならない」という意味ではなく、あくまで一般的な目安を示した数値です。また、1日に必要な水分量や食事量などは、それぞれの利用者さんの体格や持病の有無、生活習慣によっても異なります。

だからこそ、利用者さんそれぞれに合わせた適切なケアプランを立てるには、介護する側が基準への正しい理解を深める必要があります。

4つのケアをバランスよく実施する

自立支援介護において、重視されることが多いのは運動ケアです。

自立支援介護が目指す利用者さんの自立には、日常生活動作の安定が不可欠です。そのため「運動が最も重要である」と考える方は少なくありません。しかし、運動ケアにばかり力を入れて無理な機能訓練を繰り返すと、体を痛めたり、疲労が溜まったりする可能性もあります。

利用者さんの自立に必要なのは運動ケアに重点を置くことではなく、4つのケアをバランスよく実施することです。適度な運動はもちろん必要ですが、無理のない範囲で行いましょう。

無理なリハビリをしない

自立支援介護では、利用者さんが自分らしく生きることを重視しています。住み慣れた場所で暮らせる在宅復帰もその方法の一つですが、それがすべての利用者さんにとって最善の選択とは限りません。

在宅復帰を目標とした無理なリハビリは行わず、利用者さん本人の希望や身体機能の状態などから総合的に考えて、一人ひとりに合った最適な支援方法を見つけましょう。

まとめ

自立支援介護は、利用者さんの自主性を尊重して、必要なサポートのみを行う新しい介護のスタイルです。日常生活動作を可能な限り1人で行うことから、利用者さんのQOL向上やご家族の負担軽減、介護予防効果などのメリットがあります。

自立支援介護に必要とされるケアは、水分ケア、食事ケア、運動ケア、排便ケアの4つです。4つそれぞれに、基準となる具体的な数値が提示されていますが、この数値はあくまで一般的な目安であるため、利用者さんの健康状態に合わせたケアを行いましょう。

「介護のみらいラボ」では、介護職で働く方に有益な情報が多数掲載されています。利用者向けのレクリエーション紹介やお悩み解決コラムなど幅広いコンテンツを取り扱っているため、ぜひ参考にしてください。

※当記事は2022年6月時点の情報をもとに作成しています

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