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仕事・スキル 介護士の常識 2022/06/14

【作業療法士監修】食事介助の正しい手順と注意点―高齢者の食事の特徴も

構成・文/介護のみらいラボ編集部 監修/安藤祐介 1.jpg

高齢者にとって、食事は大きな楽しみの1つです。食時前の準備や進め方、食後のケアなど、食事介助にはさまざまなポイントがあります。利用者や家族が安心して食事ができるよう、正しい介助方法を実践しましょう。

当記事では、食事介助の概要や高齢者の食事の特徴、誤嚥事故の現状を踏まえた上で、食事介助の基本的な手順を詳しく解説します。食事介助の注意点も紹介するため、介護職や自宅で介護を行うは、ぜひ役立ててください。

1.食事介助とは?

食事介助とは、自分で食事をすることが難しい人を手伝う介助です。食事介助では食べるという行為だけでなく、栄養管理や食事の時間管理を行うことで、高齢者の健康的な生活をサポートします。

食事をおいしく食べることは、高齢者の楽しみや生きがいでもあります。一方で、食事介助では生命に関わる事故が起こりやすいことも事実です。食事の時間を有意義にできるよう、正しい食事介助の方法について学びましょう。

高齢者における食事の特徴

厚生労働省が発行する「介護キャリアアップ応援プログラム」には、食事介助のポイントが掲載されています。ここでは、その中の「高齢者における食事の特徴」を解説します。

(出典:厚生労働省「介護キャリアアップ応援プログラム」

・唾液の分泌量が減る
唾液は口の中で物を噛むほど分泌され、食事を飲み込みやすくする、消化をサポートするといった機能を持ちます。しかし、高齢者は加齢や薬の影響が原因で唾液の分泌が減り、食事を飲み込むことが難しくなります。特にパサパサした食べ物はのどを通りにくいため、料理にとろみをつけたり、スープと交互に食べたりするなどの工夫が必要です。
・喉の渇きに鈍くなる
加齢に伴い、喉の渇きを感じる口渇中枢の機能が低下し、高齢者は喉の渇きを感じにくくなります。さらに、高齢者の身体の水分量は成人よりも約10%少なく、脱水症に陥りやすいため注意が必要です。冬場は汗をかかないため水分摂取量が少なくなりますが、季節を問わずこまめな水分補給を心がけてください。
・消化器官が衰える
高齢者は加齢や薬の影響で胃の機能が低下し、食べた物を消化するスピードが遅くなります。そのため、食欲不振に陥るなど、食事を楽しめない高齢者が多い傾向です。食事量が減るとさらなる身体機能の低下を引き起こすため、五感で食事を楽しみ、よく噛んでもらうことにより、食への意欲を引き出しましょう。

また、アスピリンや非ステロイド系抗炎症薬を服用している高齢者は、胃の抵抗力が弱まり、消化性潰瘍を発症する可能性が高いため注意してください。

(出典:日本消化器病学会ガイドライン「消化性潰瘍ガイド|患者さんとご家族のためのガイド」

・味を感じにくくなる
食事の味は、主に舌の表面にある「味蕾」が感知し、脳へと信号が送られることで認識できます。しかし、加齢に伴い味蕾の数は減少するため、高齢者は味を感じにくくなります。このほか、唾液の減少や亜鉛の摂取不足といった要因も重なり、味が薄いと感じる高齢者が多い傾向です。

特に、塩味や甘味が感じにくくなり、濃い味付けを好む高齢者も少なくありません。塩分の過剰摂取やカロリーの過剰摂取は高血圧や生活習慣病、肥満などの原因になるため、適正な食事管理を行うことが大切です。

酢やレモン、しそやしょうが、わさびなど、酸味や香味野菜を取り入れて、薄味でも満足感のある食事を提供しましょう。

●関連記事:介護食の種類4つ|食事を楽しんでもらうポイントも紹介

誤嚥(食品による窒息事故)の現状

食品による窒息事故の死亡者数は年間約3,500人以上であり、そのうち80歳以上が約7割以上を占めています。窒息事故が起こりやすい食品は、餅、ミニカップゼリー、飴類、パン、肉類などで、高齢者では特に餅による事故が多発しています。

高齢者は、咀嚼力の低下や疾患、嚥下機能障害などが原因で、誤嚥のリスクが高い傾向です。窒息事故を防ぐためにも、正しい認識を持った介助者による食事介助が重要となります。

(出典:e-ヘルスネット(厚生労働省)「食品による窒息事故 」

2.食事介助を行う際の基礎知識

正しい食事介助は、嚥下障害の予防や、さまざまな病気のリスク低減も期待できます。健康状態に注意しながら、高齢者本人の気持ちに寄り添って食事介助を行いましょう。

ここでは、食事介助を行う際の基礎知識について解説します。なお、以下で紹介する内容は、厚生労働省の資料に準拠しています。

(出典:厚生労働省「介護キャリアアップ応援プログラム」

●関連記事:新人介護職が覚えておきたい嚥下、食事形態の段階、食事介助の知識

食事前の準備

食事を行う前に、介護者が食事を楽しめる環境を整えましょう。食事前の準備では、以下の6つのポイントを押さえます。

・食事前の声かけ
食事の時間であることを伝え、食事を意識してもらいます。献立を伝えることで、食欲の増進につながります。

・排泄を済ませる
食事に集中できるよう、食事前にトイレへ誘います。

・部屋の環境を整え、手を拭く
手を洗い、清潔にします。移動が困難な場合は、おしぼりなどで手のひらと指の間を拭きましょう。落ち着いた環境で集中して食事ができるよう、利用者に同意を得たうえでテレビなどは消します。

・口腔内を清潔にする
口の中の雑菌を食べ物と一緒に飲み込まないように、うがいや歯磨きで口腔内をきれいにします。入れ歯を使用している場合は、洗浄しましょう。

・唾液分泌を促すトレーニングを行う
嚥下体操や口腔体操、唾液腺マッサージを行い、食べ物を飲み込みやすい状態に整えます。

・正しい姿勢をとる
椅子や車椅子に座り両足底を床に着け上体を可能な限り90度起こします。

しっかりと準備を整えることが、スムーズに食事介助を進めるコツです。唾液の分泌を促す嚥下体操は、嚥下障害予防の効果も期待できるため、ぜひ実践してください。

食事介助を行う際の流れ・ポイント

食事介助では、高齢者のペースに合わせて進めることが大切です。食事介助の流れは、下記の通りです。

(1)安定した姿勢を保つ

(2)介助者が隣に座り、高齢者と同じ目線を保つ
立ったまま介助を行うと、高齢者の顎が上がり誤嚥の危険性が高くなるため注意する。

(3)食事前にお茶や水を飲み、水分補給をして口腔内を潤す

(4)汁物など、水分の多いものから食べ始める

(5)主食・副食・水分を交互にバランスよく介助する
1回につき、ティースプーンに1杯程度を目安にする。スプーンは下から差し出し、半分を目安に口の中に差し入れる。スプーンを付け根まで入れると舌が口の奥に下がり食べにくくなるので注意する。スプーンを上方向に引き抜くと、顎が上がり誤嚥につながるため水平方向に引く抜く。

(6)口の中の食べ物を飲み込んだことを確認してから、次の食事を運ぶ
咀嚼中や嚥下中は話しかけず、タイミングを見て声かけを行う。

(7)食事の終了後は、摂取量を確認して片付ける

(8)食後は歯磨きをする
逆流を防ぐため食後すぐに横になることは避けつつ、リラックスした座位姿勢で休んでもらう。ベッドに横にならざるを得ない場合は、頭部をギャッチアップしておく。また、食物残差が残った状態で横になると誤嚥性肺炎のリスクが高まるので、食後は必ず歯磨きを行う。

必要に応じて、服薬介助も行います。食事の摂取量に変化が見られた際は、医師や看護師に相談しましょう。

食事中の姿勢に関する注意点

誤嚥を防ぎ、スムーズな消化を促すためには、食事中に正しい姿勢を保つことが大切です。以下では、ケース別に食事中の姿勢について解説します。

・テーブルと椅子(車椅子)

椅子の高さは、深く腰掛けた状態で足底が床につき、膝が90度に曲がる位置に調整します。テーブルは肘が90度に曲がる位置やヘソの高さに調整しましょう。車椅子の場合は、足を床に下ろします。車椅子の座面が高く足が床に着かない場合は、フットサポートに乗せてもらいます。

・リクライニング車椅子

可能であれば90度に保ち、難しい場合は45〜80度に調整します。

・ベッド

リクライニングの角度は、45〜80度程度に保ちましょう。腰はベッドの背から離れないように座り、膝は軽く曲げます。膝下や後頭部にクッションや枕を敷き、無理なく前傾姿勢を保てるように工夫してください。また、ベッド下方に両足底を支えるクッションを設置すると両足に力が入りやすくなり、摂食・嚥下がしやすくなったり、座位姿勢が保ちやすくなったりします。

いずれの場合も、高齢者の身体状況や希望に合わせ、無理のない姿勢を確保しましょう。

食後の注意点|口腔ケアも大切

食後は歯磨きやうがいを行い、口の中を清潔に保ちましょう。口腔内で繁殖した雑菌が誤嚥で肺に入ると、誤嚥性肺炎を発症する恐れがあります。また、歯周炎や口内炎など口の中の炎症は、低栄養や脱水症状、免疫力低下といった問題を招き、全身に悪影響を与えるため注意が必要です。

口の中のトラブルは、程度によっては食事や会話が困難になります。高齢者にとって大切な生活機能である口を守るためにも、食後の口腔ケアは忘れずに行いましょう。

(出典:e-ヘルスネット(厚生労働省)「要介護高齢者の口腔ケア」

●関連記事:口腔ケアとは?要介護高齢者に口腔ケアを行うメリット・実践方法

まとめ

食事介助とは、1人で食事を摂ることが困難な人を手伝う介助です。唾液分泌量の減少や、消化器官が衰えるといった高齢者の特徴を踏まえつつ、誤嚥に注意して正しい食事介助を行いましょう。食事介助では準備を整えた後、正しい姿勢を確保し、高齢者のペースに合わせて食事を進めます。食後は口腔ケアを行い、口の中を清潔に保つことで誤嚥性肺炎のリスクを軽減できます。

「介護のみらいラボ」では、介護現場で活躍する人に役立つ情報を掲載しています。介護職員や介護知識を深めたい方は、ぜひ「介護のみらいラボ」をご参考ください。

※当記事は2022年3月時点の情報をもとに作成しています

▼監修者からのアドバイス

食事介助を行ううえで大切なことは数多くありますが、強いて1つ「これだけは欠かせない」というポイントを挙げるとすれば『食事姿勢』だと思います。
ご本人の食欲があっても、介護者がスプーンの操作に長けていても、栄養のある食事が適切な形態で準備されていても、姿勢が崩れていたら円滑な食事介助にはつながりません。

姿勢を保つために身体を過度に緊張させていたり、左右に傾いて食べにくそうだったり、お尻が座面からズリ落ちそうになりながら辛そうな表情で食事している利用者さんの姿を見て「なんとかしたい」と思った経験がある方もいるのではないでしょうか。

そこで必要となるのが、クッション類を活用した『ポジショニング』と介護者による『座り直し介助』です。この2つを行うことで姿勢が整い、利用者は摂食・嚥下がしやすくなり、介護者は食事介助がしやすくなり、双方にとって楽しい食事の時間につながります。

ポジショニングや座り直し介助(介護技術)にご興味がある方は、各地で開催されている勉強会やインターネット上で配信されている映像などを参考に学びを深められてください。

●関連記事:介護の適切な食事介助のポイントは?摂取できない理由から考える

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安藤祐介(Yusuke Ando)

作業療法士

2007年健康科学大学を卒業。作業療法士免許を取得し、介護老人保健施設ケアセンターゆうゆうに入職。施設内では認知症専門フロアで暮らす利用者47名の生活リハビリを担当し、施設外では介護に関する講演・執筆・動画配信を行っている。

安藤祐介の執筆・監修記事

介護のみらいラボ編集部(kaigonomirailab)

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