介護離職とは|介護離職をする方の数や離職を防ぐ公的制度を紹介
自分の仕事と家族の介護の両立が困難になり、仕事を辞めてしまうという問題を「介護離職」と言います。介護離職は、収入の減少やキャリアの中断などの難点を抱える問題です。
この記事では、介護離職の実態について、実際に介護離職する方の人数や問題点を中心に詳しく解説します。また、介護と仕事の両立を実現するための公的な支援制度についても取り上げるので、現在介護と仕事の両立で悩んでいる方は、ぜひ参考にしてください。
目次
1. 介護離職とは
介護離職とは、仕事と介護の両立ができなくなり、やむを得ず仕事を辞めることを意味します。
家族の介護が必要となった場合、介護施設を利用するという選択肢もあります。しかし、「要介護者が自宅で過ごすことを希望している」「金銭的な問題で入所が厳しい」などの理由から、在宅介護を選択するケースは少なくありません。
日常動作に必要な介助が多いほど、仕事と介護の両立は難しくなります。仕事を続けながらの介護を選択したものの、両立が難しくなり離職を決める方も多くいます。
2. 介護離職する方はどれくらいいる?
総務省が実施した令和4年就業構造基本調査によると、介護をしている方の数は約629万人です。介護をしている方の人数は、2012年から2017年にかけては70万人の増加で、2017年から2022年にかけては1万人の増加となっています。
介護・看護が理由で離職した方の数の推移は、下記の通りです。
【介護・看護が理由で前職を離職した方の数(万人)】
無業者 | 有業者 | |
---|---|---|
2007年 | 11.6 | 2.9 |
2012年 | 8.3 | 1.8 |
2017年 | 7.5 | 2.5 |
2022年 | 8.3 | 2.3 |
(出典:総務省「令和4年就業構造基本調査」
/
https://www.stat.go.jp/data/shugyou/2022/pdf/kall.pdf)
介護離職者の多くは、離職後に再就職せずに無業者として介護に専念しています。
2-1. 介護をしている方の就業状態
介護・看護が理由で離職する方が多い一方で、介護をしている方の有業者割合はわずかに上昇していることが特徴です。
介護をしている方の就業状態は、下記の通りです。
【介護をしている方の就業状態(万人)】
合計 | 無業者 | 有業者 | 有業者の割合 | |
---|---|---|---|---|
2012年 | 557.4 | 266.4 | 291.0 | 52.2% |
2017年 | 627.6 | 281.3 | 346.3 | 55.2% |
2022年 | 628.8 | 264.2 | 364.6 | 58.0% |
(出典:総務省「令和4年就業構造基本調査」
/
https://www.stat.go.jp/data/shugyou/2022/pdf/kall.pdf)
2012年から2022年にかけて、介護をしている方の有業者割合は5.8ポイント上昇しています。
特に、45~54歳の有業者割合が77.4%と高い傾向にあります。50~54歳の男性の有業者割合は88.5%、女性は71.8%です。介護をしながら働く方の多くは、働き盛りと言われる壮年期の方が占めています。
2-2. 介護離職をする理由と離職後の問題
介護離職する方の中には、仕事を続けたくても事情があって離職せざるを得なかったケースも多く見られます。離職理由として最も多いのが「仕事と「手助・介護」の両立が難しい職場だったため」です。
(出典:厚生労働省「労働者調査 結果の概要」
/
https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000722893.pdf)
介護離職により介護に専念できたと感じている方がいる一方で、離職後のさまざまな問題に悩んでいる方もいます。介護離職により精神面・肉体面・金銭面で負担が増えたと回答した方の割合は、下記の通りです。
【「手助・介護」を機に仕事を辞めた後の自身の変化(%)(2019年調査)】
非常に負担が増した | 負担が増した | 変わらない | 負担が減った | かなり負担が減った | 分からない | |
---|---|---|---|---|---|---|
精神面 | 30.2 | 26.1 | 14.8 | 12.6 | 9.9 | 6.6 |
肉体面 | 24.0 | 27.5 | 16.4 | 15.2 | 10.8 | 6.1 |
経済面 | 34.1 | 35.0 | 19.0 | 3.7 | 1.6 | 6.7 |
(出典:厚生労働省「令和元年度仕事と介護の両立等に関する実態把握のための調査研究事業」
/
https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000722893.pdf)
離職後に肉体的・精神的な負担が増したと回答した方の割合は、50%を超えています。また、経済的な負担が増したと回答した方の割合は約70%を占めています。
社会から孤立して精神的に不安定になる方や、収入が減少して将来の生活に不安を感じる方も少なくありません。
3. 介護と仕事を両立するための公的制度
日本政府は、介護離職防止に向けて「介護離職ゼロ」を推進しています。 介護と仕事の両立ができる社会を目指すために、介護休業制度をはじめとしたさまざまな公的制度による支援を行っています。
一方で、企業側の周知徹底が不十分なことが原因で、制度をうまく活用できていない方も少なくありません。
離職せずに在宅介護をしたいと考えている方は、まずはどのような公的制度があるのか、取得期間や金額はどれくらいなのか、具体的な情報を集めておきましょう。
介護と仕事を両立するための公的制度を5つ紹介します。
3-1. 介護休業
介護休業は、労働者が要介護状態にある家族の介護をする場合に取得できる休業です。
介護休業制度の概要は、下記の通りです。
対象家族 | ・配偶者、父母、子、配偶者の父母 ・本人の祖父母、兄弟姉妹、孫 |
---|---|
取得できる期間 | 対象家族1人につき93日まで |
手続き方法 | 原則介護休業を開始しようとする日の2週間前までに申し出る |
(出典:厚生労働省「介護休業について|介護休業制度」
/
https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyoukintou/ryouritsu/kaigo/closed/index.html)
対象家族1人につき3回まで分割による休業取得もできます。ただし、配偶者の祖父母や兄弟姉妹の介護には適用できません。
介護休業中の給与の取り決めは勤務先によって異なるものの、無給となるケースが一般的です。
3-2. 介護休業給付金
介護休業給付金は、雇用保険給付の1つです。介護休業制度利用者は、手続きによって介護休業給付金を受け取れます。
介護休業給付金の概要は、下記の通りです。
支給対象者 | 介護休業開始日より前の2年間に雇用保険加入期間が12か月以上ある方 |
---|---|
給付額 | 休業開始時賃金の日額×支給日数×67% |
支給申請書の提出期限 | 介護休業終了日の翌日から起算して2か月後の月末まで |
(出典:厚生労働省「介護休業給付の内容及び支給申請手続について」
/
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11600000-Shokugyouanteikyoku/0000146530.pdf#page=2)
介護休業期間によって給付額は異なります。また、介護休業給付金の支給には、さまざまな条件があります。労働契約の期間の有無によっても条件は異なるため、事前に確認しておきましょう。
支給申請書は、原則事業主を経由してハローワークへ提出します。期日に間に合うように余裕を持って必要書類の準備をしておきましょう。
3-3. 介護休暇
介護休暇は、介護休業と同様に要介護状態にある家族の介護をする場合に取得できる休暇です。
介護休暇制度の概要は、下記の通りです。
対象家族 | ・配偶者、父母、子、配偶者の父母 ・本人の祖父母、兄弟姉妹、孫 |
---|---|
取得できる期間・時間 | ・対象家族が1人の場合は、年5日まで ・対象家族が2人以上の場合は、年10日まで |
手続き方法 | 口頭での申し出・書類の提出 |
(出典:厚生労働省「介護休業制度」
/
https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyoukintou/ryouritsu/kaigo/holiday/index.html)
法律上は当日に口頭で休暇を申し出ても問題ありません。ただし、勤務先によっては書類の提出を求められることがあるでしょう。
3-4. 介護のための短時間勤務制度等の措置
事業主は、家族の介護をする労働者向けに下記のいずれかの措置を講じています。
・短時間勤務の制度
・フレックスタイムの制度
・始業又は終業の時刻を繰り上げ又は繰り下げる制度(時差出勤の制度)
・労働者が利用する介護サービスの費用の助成制度(その他これに準ずる制度)
家族の介護をする労働者は、短時間勤務制度等の措置の利用により、労働時間の短縮や時差出勤など働き方を調整できます。
短時間勤務制度等の措置の概要は、下記の通りです。
制度対象者 | 対象家族を介護する労働者 |
---|---|
対象家族 | ・配偶者、父母、子、配偶者の父母 ・本人の祖父母、兄弟姉妹、孫 |
利用期間・回数 | 対象の家族1人につき、利用開始日から連続3年以上の期間で2回以上 |
(出典:厚生労働省「短時間勤務等の措置について|介護休業制度」
/
https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyoukintou/ryouritsu/kaigo/shortworking/index.html)
利用できる制度や手続き方法は勤務先によって異なります。事前に利用できる制度を確認しておきましょう。
3-5. 所定外・時間外労働や深夜業の制限
残業や深夜勤務が難しい場合は、所定外・時間外労働や深夜業を制限できます。
所定外・時間外労働や深夜業の制限の概要は、下記の通りです。
制度対象者 | 対象家族を介護する労働者 |
---|---|
対象家族 | ・配偶者、父母、子、配偶者の父母 ・本人の祖父母、兄弟姉妹、孫 |
手続き方法 | 開始予定日の1か月前までに書面等で請求 |
(出典:厚生労働省「所定外労働の制限について|介護休業制度」
/
https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyoukintou/ryouritsu/kaigo/unscheduled/index.html)
(出典:厚生労働省「時間外労働の制限について|介護休業制度」
/
https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyoukintou/ryouritsu/kaigo/overtimework/index.html)
(出典:厚生労働省「深夜業の制限について|介護休業制度」
/
https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyoukintou/ryouritsu/kaigo/midnightwork/index.html)
利用回数に制限はないものの、利用期間は所定外・時間外労働の制限は1回につき1か月以上1年以内、深夜業の制限は1回につき1か月以上6か月以内と定められています。
まとめ
現在、日本では多くの方が介護と仕事の両立の難しさから、介護離職を選択しています。介護離職をすると、介護離職する方の経済的負担が増加するだけではなく、精神的・肉体的な負担も増加する点が問題です。公的な支援制度を利用することで、介護と仕事の両立を目指しましょう。
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※当記事は2023年2月時点の情報をもとに作成しています
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